転移性肝癌の治療は遠隔転移であるがために,治癒させることが困難であることは間違いないが,切除療法により治癒する症例もある.転移性肝癌に対する切除療法は,治癒を目的とする以外にも予後延長効果や症状緩和効果を企図するものもある.治癒を目指す肝切除においても安全性が最優先され,さらには再発に対する再肝切除の可能性を高めるべくできるだけ肝実質を残す部分切除が選択される.その切除成績の全国統計は切除治療を選択されたというバイアスはあるが,切除を検討するうえでは有用な情報であると考える.
肝臓は多様な悪性腫瘍の転移臓器となりうることから,肝腫瘍の病理診断においては常に転移性肝腫瘍の可能性を考慮する必要がある.腫瘍の形態学的特徴と免疫染色の組み合わせによって原発部位の同定が可能となる場合もあるが,原発性か転移性か鑑別が難しい症例もある.近年,消化器癌に対する治療薬の進歩には目覚ましいものがある.化学療法により手術が可能となるコンバージョンが増え,症例によっては治癒も期待できるようになってきている.化学療法による腫瘍細胞の形態変化,治療効果として観察される組織学的特徴も徐々に明らかになってきた一方で,化学療法によって生じる肝障害も少なからず経験される.本稿では,転移性肝腫瘍の組織学的特徴,特に診断する頻度が多い大腸癌肝転移の組織像,化学療法誘導性の肝障害について概説する.
大腸癌肝転移に対する外科的切除は,長期予後の改善が期待できる唯一の治療法である.しかしながら,肝転移の診断時に切除の適応となるのは約20%程度にすぎない.近年の外科的手術手技の向上や創意工夫,分子標的薬を含めた効果的な化学療法の登場などにより,外科的切除の適応は確実に拡大されている.その結果,切除不能と診断された症例においても,化学療法が奏効し根治切除が可能となる症例が増加している.いまや大腸癌肝転移はStage IVといえども,積極的な外科的切除を含む集学的治療により根治が期待できる疾患である.本稿では,大腸癌肝転移に対する根治を目指した治療戦略について概説する.
かつては予後不良で手術適応がないとされた胃癌肝転移だが,化学療法を主体とした集学的治療により,切除後の5年生存率は30~40%と改善してきており,外科治療を考慮する症例も増えつつある.外科治療を選択する場合には,適切な症例選択が重要であり,予後関連因子として,肝転移個数・腫瘍径,異時性肝転移,原発巣の漿膜浸潤なし,などが報告されている.また,一般に予後不良とされる同時性肝転移,複数病変の異時性肝転移などでも,化学療法奏効例にはconversion手術+術後補助化学療法を考慮するなど,常に手術の可能性を考え,治療を行っていくことが,予後改善に肝要である.
米国のSEER databaseによれば,神経内分泌腫瘍(NEN)の遠隔転移の生存期間は原発臓器によって異なり,たとえば結腸原発では中央値で5カ月とされている.また2007年の全国集計では,膵NENの発症年齢は50歳代と若く,初診時に遠隔転移を4割に認め,その5年生存率は39%と報告されている.当時は使用できる薬物がなく,進行病期においては減量手術が全盛であった.しかしながら,2011年以降に分子標的療法を含む新しい薬物が次々と保険適応になり,治療戦略のパラダイムシフトがおきた.今後は現在当院で治験を行っている放射線内用療法(PRRT)を含め,さらに治療選択が広がっていくことが予想される.
症例は40歳男性.潰瘍性大腸炎術後で回腸囊炎の再燃と寛解を繰り返し,経過中に肛門周囲膿瘍と痔瘻を合併した.痔瘻根治術後に抗TNF-α抗体製剤であるアダリムマブを投与し,寛解導入および寛解維持が得られている.潰瘍性大腸炎術後の回腸囊炎に対するアダリムマブ投与の報告はまれであり,貴重な症例と考え報告する.
症例は92歳,胃癌術後(Roux-en-Y再建)で胆石性膵炎と心不全を繰り返した.治療適応であったが,ERCで胆管深部挿管が困難かつ胆管非拡張例であり,経皮経肝胆道ドレナージやEUS-guided biliary drainageも不可能であった.腹部エコー下に肝外側区域を貫くことで総胆管を経皮経肝的に穿刺し,一期的にランデブー法で内瘻化に成功したため,報告する.
症例は74歳男性.膵頭部に結節をともなう径48mmの囊胞性腫瘍と傍大動脈リンパ節腫大を認め,PETで集積亢進を示した.傍大動脈リンパ節転移をともなう膵管内乳頭粘液性腺癌(IPMC)と診断し,GnPを2コース行った.原発巣は進行癌の所見に乏しく,手術を施行した.リンパ節に悪性所見なく,幽門輪温存膵頭十二指腸切除術を行い,IPMC,TisN0M0,stage 0と診断した.リンパ節転移の画像診断は困難なことが多く,治療方針決定後も慎重な対応が必要である.
症例は51歳女性.切除不能膵頭部癌による閉塞性黄疸に対して内視鏡的に胆管プラスチックステント(PS)を留置した.重粒子線治療,全身化学療法を施行したが,経過中に急性胆管炎,大量下血を発症し入院となった.大量下血の原因は右肝動脈に形成された仮性動脈瘤の胆管内穿破であった.同部位は胆管PSの肝側端と一致しており,留置していたPSによる動脈壁や胆管壁に対する持続的な刺激が動脈瘤形成の一因と考えられた.
77歳男性.C型肝炎にて通院中,S8 Stage I肝細胞癌に対して肝動脈化学塞栓療法+ラジオ波焼灼療法施行.19カ月後S6に再発を認め同治療施行.いずれも壊死効果が得られた.その後直接作用型抗ウイルス薬治療にてウイルス学的著効が得られたが,治療終了17カ月後のMRI検査で下胆管リンパ節に孤立性転移が疑われた.切除術を行い肝細胞癌のリンパ節転移と組織診断されたが,術後13カ月現在無再発生存中である.