厚労省研究班の全国調査では,急性肝不全およびLOHF症例は徐々に高齢化し,成因ではウイルス性症例の比率に漸減の傾向がみられる.B型の急性型では,急性感染と無症候性キャリア(誘因なし)の双方で,非移植例の救命率が2010年以降に低下していた.早期の治療導入で多くが非昏睡のうちに治癒し,昏睡型は難治化した症例に限られるのか検証を要する.この他,原則として肝移植の対象から外れる65歳以上の症例の治療戦略の構築,減ることのない成因不明の真の成因診断法の開発,小児急性肝不全の実態の解明,非肝硬変に生じた重症型アルコール性肝炎の分類上の取り扱いに関するコンセンサスの形成など,今後の課題は山積している.
急性肝不全(acute liver failure;ALF)はまれでかつ致死的な症候群である.異なる成因や修飾因子により多様な臨床経過を辿る.内科治療のみでの救命率は44~55%程度に止まり,緊急肝移植以外に予後を劇的に改善させる治療手段はない.観察研究から得られる急性肝不全の自然史の解明とともに,治療介入の方法やタイミングの判定に有効な臨床指標の同定が待たれる.近年,single-cell解析などの新規研究方法により多様な細胞間における時間・空間かつ機能的変化が明らかになり,急性肝障害/修復/再生の「多元的」病態概念が提唱されている.
2022年の春から数カ月にわたり,コロナ禍において,世界的に原因不明の急性肝炎が流行した.この原因は不明であり,コロナウイルスとの関連,アデノウイルス感染,あるいは両者の関連などが考えられたが,原因が究明される前に終息した.今後の再流行に備え,原因不明の肝炎・急性肝不全のモニタリングを重視する必要がある.
急性肝不全に対する最も信頼性の高い治療は肝移植である.Non-biologicalな人工肝補助療法は,脳死臓器提供が極めて少ない医療環境で高い昏睡覚醒能力と長期間患者を安定した状態で維持し得る能力を求められ発展成立した,日本独自の治療法である.血液透析濾過は昏睡覚醒能力の低い血漿交換の欠点を補い,水溶性の小分子量物質が脳浮腫に関与し,中分子量物質が肝性昏睡に関与するとの想定のもと,透水性の高い高性能膜の開発とともに1980年代から発展した治療法である.現在では滅菌レベルの超純水給水システムを用いて,前希釈法で大量の置換液の使用が可能なonline血液透析濾過法に発展している.
急性肝不全に対する治療として,高流量持続血液濾過透析を中心とした内科的集中治療の進歩により脳症の進行は制御可能となってきたが,いまだ肝移植が究極の救命手段であることには変わりはない.肝移植の適応に関しては新しいスコアリングシステムが提唱され活用されているが,急性肝不全の病勢の進行は個々の症例で異なることを認識し,肝移植のタイミングを逃してはならない.また,慢性肝不全急性増悪も非常に治療の難易度が高い病態である.急性肝不全に対しては,内科的集中治療,脳死および生体肝移植の準備を同時並行で進める必要があり,そのすべてが整った施設で治療されるべき難治性疾患である.
神経線維腫症1型(NF1)に合併した消化管間質腫瘍(GIST)は,一般的なGISTと異なる発生機序と特徴をもつとされる.今回76歳男性のNF1患者に対し,十二指腸水平部粘膜下腫瘍の切除を施行した.4病変を摘出し,病理学的に低リスクGISTと診断された.過去の症例報告からも径の小さなNF1合併GISTは悪性頻度が低いことが推測され,その治療方針について議論を要すると考える.
59歳女性.右乳腺浸潤性小葉癌の術後12年目に腹部膨満感や嘔吐を認め,腹部CT検査や上部内視鏡検査で胃から十二指腸に全周性の壁肥厚を認めた.内視鏡下生検より,乳腺浸潤性小葉癌の胃十二指腸転移の診断となった.化学療法を行ったが,下部食道から胃・小腸・大腸に至るまで壁肥厚が出現し,転移性胃十二指腸癌診断7カ月後に死亡した.今回,われわれは広範囲に消化管転移をきたした浸潤性小葉癌を経験したので報告する.
症例は79歳男性.胃角部大弯に10mm大で発赤調の表面陥凹型様病変を認め,胃原発濾胞性リンパ腫と診断した.PET-CTで縦隔リンパ節の集積を認めたが,腫瘍量が少なく無治療経過観察の方針とした.8カ月後に胃内のリンパ腫病変が多発増大し,十二指腸乳頭部口側に潰瘍形成をともなう腫瘤を認めた.びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫へ形質転換したと診断し,化学療法を施行した.治療後は55カ月間再発なく経過している.
症例は78歳女性.胃癌,肝転移,腹膜播種に対してSOX療法8コース施行後,CTで新たに胃静脈瘤が指摘された.Oxaliplatinによる門脈圧亢進症が疑われ,上部消化管内視鏡検査ではLg-cf,F2,Cb,RC0の胃静脈瘤を認めた.バルーン閉塞下逆行性経静脈的塞栓術(BRTO)により静脈瘤は改善し,化学療法を継続している.胃癌に対するOxaliplatinを含む化学療法中は,門脈圧亢進症状に注意が必要である.
87歳男性.黄疸と急激な腹痛,意識障害が出現し,前医を受診.胆管炎,汎発性腹膜炎の状態で当院搬送となった.緊急開腹術では胆汁性腹膜炎の所見であったが,胆汁漏出部は不明であった.ERCPを施行し,肝門部胆管狭窄および左肝内胆管末梢から腹腔内への造影剤流出を認めた.ENBDを留置し,胆汁漏出は改善し,退院可能となった.肝門部胆管腫瘍に合併した胆管破裂は非常にまれな病態であり,報告する.