本邦において炎症性腸疾患(IBD)の患者数は年々増加し,特定疾患医療受給者数では2015年度,潰瘍性大腸炎(UC)166085人,クローン病(CD)41279人と報告されているが,ごく最近の疫学調査1)では,UCの患者数は約22万人,CDは約7万人と推定されている.希少疾患とされた時代は過ぎ,一般内科医の日常診療においてもしばしば遭遇する疾患となりつつある.本邦におけるIBD診療の規範としては,厚生労働省が主管する難病研究班により公開される潰瘍性大腸炎・クローン病治療指針2)と,日本消化器病学会が発行した炎症性腸疾患診療ガイドライン20163)がある.本稿では研究班の治療指針を軸に,ガイドラインも加味して,本邦におけるIBD診療の最前線を概説する.
増加し続ける炎症性腸疾患(IBD)の原因解明および治療法の開発のため,多方面から研究が進められている.従来のIBD研究は,動物モデルや患者検体を用いた検討が主であったが,基礎的な研究成果をもとにサイトカインなどをターゲットとした薬物の開発が行われ,それらの臨床試験での有効性,無効性からIBDの病態に関わる免疫学的経路が理解されるようになってきた.さらに,消化管内の微生物叢の解析が進み,腸内細菌が粘膜免疫系での免疫担当細胞の制御に直接影響することも明らかになってきた.IBD患者の遺伝学的背景は,微生物叢の変化,免疫病態とも密接に関連し,腸管の慢性炎症が形成されるメカニズムが明らかにされつつある.
炎症性腸疾患の評価法が変わってきた.潰瘍性大腸炎の内視鏡的重症度の指標としてUCEISが発表された.新しい内視鏡観察法としてAFIやLCI,さらにendocytoscopyなどの超拡大観察内視鏡がある.大腸癌サーベイランスに対し本邦からランダム生検に対する狙撃生検の非劣性が示された.クローン病では,カプセル内視鏡による確定診断や,経過観察におけるCT,MRI,USなどの画像診断の可能性が検討され,分子イメージング内視鏡も報告されている.腸管損傷に対しLémann Indexが提案されたが,MRIの小腸狭窄性病変検出能の感度は不十分であり,狭窄が疑われる場合は内視鏡などによる検索が必要である.
炎症性腸疾患は慢性疾患であり,生涯を通じ疾患活動性の評価が必要である.腸管炎症の評価の基準は内視鏡検査であるが,頻回の施行は避けたく,代替となるバイオマーカーが必須である.最近本邦でも便中カルプロテクチン(Fcal)が保険収載され,便中マーカーが注目されている.Fcalは欧米で広く利用されており,炎症性腸疾患の疾患活動性との関連,機能性疾患との鑑別に関しエビデンスも豊富である.一方,本邦から発信した免疫学的便潜血検査は,特に潰瘍性大腸炎の粘膜治癒予測においてはFcalより優れている.その他,血液マーカーでは,CRPなどの有用性が報告されているが,新規バイオマーカーの開発も期待される.
炎症性腸疾患において生物学的製剤は寛解導入,維持いずれにおいても重要な位置を占めている.2017年に潰瘍性大腸炎でGolimumab,クローン病ではUstekinumabといった生物学的製剤が新たに承認された.また,クローン病においては,従来使用されてきたInfliximab投与期間の短縮,Adalimumabの倍量投与が認可され,炎症性腸疾患の治療戦略は複雑化している.炎症性腸疾患は依然として難治であり,限られた治療法の中から適切に治療選択を行うことが重要である.本稿では,炎症性腸疾患に対する生物学的製剤を中心とした,本邦における最新の治療法に関して解説する.
症例は75歳・女性.定期検査目的に上部消化管内視鏡を施行し,胃体上部前壁に30mm大の褪色調領域と淡い発赤調領域の混在した境界明瞭な0-IIa+I型の病変を認めた.内視鏡的粘膜下層剥離術を施行し,胃型腺腫から発生した粘膜下組織浸潤をともなった腺癌と診断した.胃型腺腫の癌化報告例はいずれも粘膜内癌であり,本症例は粘膜下組織浸潤をともなった初めての症例であった.
症例は61歳男性.食道胃接合部癌の術前化学療法としてカペシタビン+シスプラチン+トラスツズマブを施行した.投与14日後より重篤な発熱性好中球減少症,血小板減少症,出血性腸炎などをきたしたが,集中治療管理,小腸切除術によって治癒した.DPD蛋白量の著明な低下よりDPD欠損症と診断した.DPD欠損症はまれであるが,5-FUの投与時には重篤な副作用をきたす可能性があるため念頭に置いておく必要がある.
エソメプラゾール投与により発症した横紋筋融解症の1例を経験した.逆流性食道炎に対してエソメプラゾールを投与したところ,約10カ月後に横紋筋融解症を発症した.投薬の中止と補液によって腎障害を合併することなく改善した.横紋筋融解症はプロトンポンプ阻害薬投与にともなうまれな副作用であるが,速やかな診断と対応が求められる貴重な症例であり報告した.
症例は77歳,女性.CTで膵尾部主膵管の軽度拡張(4mm)を指摘された.MRCPで尾部膵管狭窄と尾側の拡張を認めた.造影EUSで膵管に造影効果をともなう低乳頭状隆起を認め,膵管造影で拡張膵管に不整隆起を認めた.細胞診で粘液をともなう高度異型細胞を認め主膵管型IPMCと診断,膵体尾部切除術を施行した.病理は主膵管型IPMC膵胆道型であった.画像上主膵管型IPMNの診断基準に該当せず,興味深い症例と考えて報告する.