門脈圧亢進症治療のこの10年の進歩は著しく,胃静脈瘤に対するBRTOは悲願であった薬事承認・保険認可に至り,腹水に対するTolvaptan,門脈血栓溶解に対する世界初のRCTによるAT-III製剤,観血的治療前に血小板を上昇させるTPO製剤などの薬物治療は,本邦を中心にこれまでにない程の飛躍的な発展を遂げた.一方C型慢性肝炎に対するDAAは,肝硬変への進展抑制に大きく貢献し,2019年1月には非代償性肝硬変にも保険適応となった.しかし,SVRとなっても静脈瘤を有する肝硬変例の進展は止められない,とする報告もあり,point of no returnは門脈圧亢進症か? と注目されている.
肝硬変の概念は変化し,生命予後に関していえば代償性肝硬変と非代償性肝硬変は全く異なるステージであることが明らかになっている.門脈圧亢進症はしばしば肝硬変に合併するが,生命予後やQOLを左右するため,適切な評価と治療が必要である.門脈圧亢進症の侵襲的な診断法は,診断困難例では決定的な重要性を持つが,多くの場合は非侵襲的評価法が用いられており,侵襲的検査の必要性は低下している.近年,多くの血清肝線維化マーカーや画像診断が肝疾患進展の評価に適していることが示されている.それらの検査は門脈圧亢進症の診断法としてのエビデンスは弱いが,ある程度,適用することが可能である.それらの検査法には長所と短所があり,それぞれの特性を理解した上で門脈圧亢進症の診断法として活用することが重要である.
門脈圧亢進症の原因として最も多いものは肝硬変であるが,その合併症は非常に多岐にわたる.代償性肝硬変患者においては軽度の全身倦怠・易疲労感・脱力感・食欲不振などの非特異的症状が認められるのみであるが,非代償期ではこれらの症状の増悪と腹水による腹部膨満,静脈瘤破裂による吐下血,門脈血栓症,脾機能亢進症,脳症による意識障害などが生じる.これに対してさまざまな薬物療法があるが,その中でも,1.食道・胃静脈瘤,2.肝性脳症,3.門脈血栓症,4.脾機能亢進症,5.胸腹水に対する薬物療法についての現状,および当科における知見を述べる.
門脈圧亢進症における消化管出血は,最も重篤な合併症の1つであり,その治療法には,内視鏡治療,手術療法,IVR治療および薬物療法が存在するが,本邦においては内視鏡が中心的な治療法である.食道胃静脈瘤に対する内視鏡治療のうち,EISとEVLは,血行動態や治療時期(緊急・待期・予防)によって使い分ける必要がある.また異所性静脈瘤からの出血も食道胃静脈瘤のコントロールが良好になるのにともない注目されるようになっており,直腸静脈瘤を中心に内視鏡を用いた診断と治療法に関して記載する.
門脈圧亢進症(特に静脈瘤)に対する手術療法やIVRを門脈血行動態に基づいて解説する.食道胃静脈瘤の手術療法には直達手術とシャント手術がある.シャント手術には門脈圧を減圧する門脈―大循環シャント術と,肝内門脈血流を維持して静脈瘤圧のみを減圧する選択的シャント術がある.IVRには【側副血行路塞栓】門脈側副血行路塞栓術(PTO・TIO),バルーン下逆行性経静脈的塞栓術(B-RTO)と,【門脈圧減圧】部分的脾動脈塞栓術(PSE),左胃動脈塞栓術(LGE),経皮的肝内門脈静脈シャント術(TIPS)がある.門脈圧亢進症では血行動態を把握し,1つの治療法に固執せず,その血行動態に即した治療法を選択することが重要である.
小腸閉塞の診断精度向上や治療最適化の目的で簡易な単純性小腸閉塞スコア(0~4)を作成し,当院で経験した機械性小腸閉塞94例のanterior adhesion,small bowel feces signを含めた単純性小腸閉塞スコアと小腸内容物のサブ分類の有用性について,後方視的検討をした.単純性小腸閉塞スコア3点以上の場合は99%が単純性小腸閉塞であり,絞扼性小腸閉塞の除外には有用である.一方,単純性小腸閉塞スコアが0~1点の場合は47.5%が絞扼性小腸閉塞であった.小腸内容物が硬便の場合は絶食・経鼻胃管の奏効率(約70%)が高く,イレウス管留置が不要と考えられた.
60歳代男性.Trousseau症候群の疑いで当科紹介となった.CTで膵頭部に60mm大の腫瘤と多発する傍大動脈リンパ節の腫大を認めた.腹腔鏡下リンパ節生検と膵腫瘤のEUS-FNAにて腺癌と診断され,両者にinvasive micropapillary carcinoma(IMPC)を示唆する所見を認めた.化学療法が著効し,治療開始後24カ月間生存中である.膵原発IMPCは報告例が少なく,報告する.
症例は36歳男性.心窩部痛を主訴に救急搬送され,腹部造影CT検査などを施行したが当初診断確定に至らなかった.入院後胆囊炎の所見を認め,画像を再評価した際に腹腔動脈解離による腹腔動脈~固有肝動脈起始部の内腔閉塞が指摘され,壊疽性胆囊炎の発症が強く疑われ緊急胆囊摘出術を施行した.腹腔動脈解離の症例報告数は少なく,かつ無石性壊疽性胆囊炎を発症した報告例は検索し得ず,まれな症例であったためここに報告する.
85歳男性.画像検査で肝S4/S8に長径90mm,S6に30mmの腫瘍性病変を認めた.一期的に肝切除術を施行,病理組織診断結果は,肝S4/S8腫瘍は細胆管細胞癌であり,S6腫瘍は肝細胞癌であった.細胆管細胞癌はまれな腫瘍であり,近年あらたな知見が報告されている.肝細胞癌との重複癌は貴重な症例と考え,報告した.
症例は65歳男性.重症筋無力症治療中に肝囊胞性病変の増大,肝内胆管の拡張および狭窄,膵腫大と血清IgG4値の上昇を認めた.自己免疫性膵炎と診断した後,悪性腫瘍の可能性が考えられた肝の囊胞性病変に対し外科的切除術を施行し,IgG4関連硬化性胆管炎に合併した胆管内乳頭状腫瘍(IPNB)と診断した.IgG4関連疾患を含め自己免疫疾患と悪性腫瘍は合併することがあり,全身の検索が重要である.