膵癌の完治可能な唯一の治療法は,外科的切除術と補助療法である.膵癌患者の生存期間を延長させるためには,癌遺残を認めないR0根治術を成し遂げ,さらに術後補助療法の早期導入が重要である.手術技術の向上により,high volume centerでは,膵切除術は安全な術式となってきた.R0手術を目指したartery-first approachや門脈合併切除,動脈合併切除を行う頻度が増加している.これらの術式が,膵癌患者の生存期間延長に本当に寄与できるのか,前向き臨床試験により証明する必要がある.また,術後補助療法を術後早期に導入するためには,術後合併症の予防を目指した術式の開発が重要である.
日本膵臓学会(JPS)の膵癌取扱い規約第7版(2016)は,(1)ダイナミックCT所見から進展度診断ができる,(2)Stage分類と治療方針との間にひもづけができる,(3)切除可能性分類を導入することで詳細な治療方針が立てられる,(4)病理分類のWHO分類との整合性を図る,(5)術前治療が普及しつつある現状をふまえて生検診,細胞診,治療後の組織学的効果判定基準を導入すること,をコンセプトにして改訂作業が行われた結果,大幅な改訂となった.JPS第6版(2009)と第7版,UICC第7版(2009)と第8版(2017)を対比しながら,規約改訂のポイントを規約検討委員会の委員長という立場から解説した.
膵癌診療ガイドラインは2006年に初版が出版され,2009年,2013年に改訂版が出版された.2016年10月に膵癌診療ガイドライン2016が日本膵臓学会より出版された.2016年版は世界的にガイドライン作成のツールとなっているGRADEシステムに準拠して作成されている.エビデンス重視の姿勢は変わりないが,GRADEシステムは利益や不利益,医療費など実診療にも配慮するため,今回はタイトルより“科学的根拠に基づく”を削除し,“膵癌診療ガイドライン”と変更した.2016年版の改訂過程やアルゴリズム,CQの変更点やステートメントの修正点などを中心に概説した.
膵癌に対する化学療法は切除不能例に対する治療と切除の術後補助療法として行われる.切除不能例に対する治療では,まずオキサリプラチン+イリノテカン+フルオロウラシル+レボホリナートカルシウム(FOLFIRINOX)療法とゲムシタビン(GEM)+ナブパクリタキセル併用療法が第一選択であり,全身状態が良好かつ主要臓器機能が保たれている場合はどちらかを実施する.これらが難しい場合は,GEM単独,GEM+エルロチニブ併用,あるいはS-1単独から適切な治療を選択する.手術の補助療法としては術後補助療法が標準治療であり,S-1単独治療が第一選択となっている.今後,有効な2次治療の開発やバイオマーカーに基づく治療法の確立が望まれる.
症例は80歳女性.嘔気・嘔吐の精査中に,出血性ショック状態となり,腹部造影CTで後腹膜血腫を認めた.腹部血管造影検査で8mmの下膵十二指腸動脈瘤,腹腔動脈起始部の狭窄,上腸間膜動脈からの膵十二指腸動脈アーケードの血流増加の所見を認め,コイル塞栓術を施行した.第24病日に嘔吐を認め,後腹膜血腫による十二指腸の通過障害が明らかとなった.血腫ドレナージ後,経口摂取開始するも問題なく経過している.
今回,放射線治療19年後にイレウスで発症した晩期放射線性小腸炎の1例を経験したので報告する.症例は73歳,女性.2度の開腹歴と54歳時にC型慢性肝炎のIFN治療,子宮頸癌の放射線治療歴がある.嘔吐,心窩部痛で当院へ救急搬送され小腸イレウスと診断した.経肛門的ダブルバルーン小腸内視鏡検査で,拡張した小腸の肛門側に潰瘍をともなう輪状狭窄を認め,外科的切除術を施行した.病理組織診断は晩期放射線性小腸炎であった.
88歳男性.繰り返す発熱と限局性胆管拡張のため当科紹介となった.諸検査で,胆囊摘出後に副肝管が閉塞し区域性胆管炎をきたしていると考えた.経乳頭的アプローチは不能で,EUS下に十二指腸球部から拡張した後区域枝を穿刺し,同部に金属ステントを留置して胆道ドレナージを実施した.EUS下ドレナージはこのような症例に対しても有効な選択肢の1つと考えられた.
症例は60歳女性.鮮血便を主訴に当科を受診.下部消化管内視鏡検査で横行結腸に潰瘍面をともなう50mm大の粘膜下腫瘍と,造影MRI検査で肝内に腫瘍性病変を複数認めた.大腸粘膜下腫瘍の多発肝転移を疑い出血コントロール目的に横行結腸切除術を施行,中分化型肝細胞癌と診断した.術後に再検討した結果,肝S2から腹腔内へ発育する40mm大の多結節癒合型の肝細胞癌を認め,同腫瘍の血行性大腸転移と診断した.
症例は67歳,男性.心窩部痛,背部痛の精査目的に施行したEUSにて体部主膵管狭窄と尾側膵管拡張,MRCPにて尾部主膵管拡張を認めたが,CT,MRI,EUSでは腫瘤は認めなかった.内視鏡的経鼻膵管ドレナージ下の連続膵液細胞診にて腺癌細胞が検出され,膵体尾部切除術を施行したところ,膵体尾部の主膵管を中心に上皮内癌がみられた.分枝膵管には膵上皮内腫瘍性病変が散見され,微小浸潤癌の合併も認めた.