腸は「単なる管」ではなく,全身を制御する「第2の脳」と呼ばれるなど,今後は「腸」の時代になると予想されている.炎症性腸疾患(IBD)では,粘膜治癒が重要であるという劇的な治療目標の変更があった.われわれは画期的な大腸上皮幹細胞の体外培養と培養細胞の移植に世界で初めて成功したことから,現在は再生医療によるIBDの根治療法の開発に着手している.この技術はIBDだけでなく,内視鏡検体から培養した細胞の機能解析により,全身の疾患に対する新しい個別化診断・治療法へ応用できることを示している.これから消化器科を目指す若い先生には単なる技術向上ではなく,腸からヒト全身を診るという新しい時代に踏み込むことを期待する.
近年,肝疾患に対するマネージメントは大きく変貌している.たとえば,C型肝炎に対する抗ウイルス療法は経口抗ウイルス薬(DAA)の登場により大きく変貌したが,HCVが消失したからといってC型肝炎が治癒したわけではなく,高齢患者が多いわが国においては肝硬変をはじめとした背景肝に対するマネージメントは臨床上重要な問題である.2015年には日本消化器病学会による肝硬変診療ガイドラインが5年ぶりに改訂されている.肝硬変に対する薬物治療もこの5年間の間にさまざまな新規薬剤が使われるようになっており,病態に基づいた新規治療法を理解しておくことは日常診療上も重要であると思われる.
肝臓は栄養素の代謝および貯蔵に重要な役割を果たしているため,肝硬変患者では蛋白エネルギー低栄養が出現する.蛋白低栄養の評価には血清アルブミンが有用であり,分岐鎖アミノ酸投与によってアルブミン値・QOL・予後が改善する.一方エネルギー低栄養の評価には,呼吸商・上腕筋周囲長・上腕周囲長・血清遊離脂肪酸が有用であり,就寝前軽食(分割食)によってエネルギー代謝が改善する.これらの栄養学的介入はさまざまなガイドラインで推奨されている.また近年,肥満やサルコペニア合併肝硬変患者への栄養・運動介入の重要性も報告され,2016年には日本肝臓学会によって肝疾患におけるサルコペニア判定基準が作成された.
肝性浮腫・腹水治療の基本は,腎機能の保護を念頭においた適切な利尿薬の選択である.大量の利尿薬投与や大量穿刺排液は,有効循環血液量を減少させ腎障害を惹起するリスクがある.抗アルドステロン薬とループ利尿薬は基本となる薬剤であるが,作用機序の異なる水利尿薬が登場したことで治療選択肢が広がった.日本消化器病学会の肝硬変診療ガイドライン第2版では腹水の治療選択がフローチャート形式で示され,抗アルドステロン薬とループ利尿薬に対する不応例では水利尿薬の早期導入を検討することが推奨されている.
非代償性肝硬変に対して内科的治療が奏効しない場合の最終治療手段が肝移植である.肝移植には生体肝移植と脳死肝移植があり,日本では約90%が生体肝移植である.欧米や近隣アジア諸国に比べ,脳死肝移植が極端に少なく,脳死下臓器提供数増加が急務である.肝癌合併非代償性肝硬変患者に対する肝移植の臨床的意義は大きく,各施設の適応基準内であれば良好な予後が期待できる.最近,肝移植周術期栄養療法やサルコペニアの意義が注目され,サルコペニアを考慮した移植適応や周術期栄養・リハビリ介入により予後の改善が期待できる.
症例1は70歳男性.症例2は65歳の女性.両者ともHER2陽性胃癌に対しHXP[Capecitabine+Cisplatin+Trastuzumab]療法を施行したところ,胃癌穿孔をきたし緊急手術を施行した.術後も同レジメンを継続し良好な病勢コントロールを得た.HER2陽性胃癌にHXP療法を行う際は穿孔のリスクを念頭に置き,穿孔した際は迅速な外科的処置後に化学療法を継続することで,良好な予後が期待できる.
症例は51歳女性.四肢脱力を主訴に受診,精査により十二指腸ガストリノーマと診断した.選択的動脈内カルシウム注入試験(SACI test)で局在診断を行い,外科切除した.入院中,内視鏡後に急性腎障害(AKI)を発症する激しい嘔吐,下痢を繰り返した.内視鏡後に増悪をきたしたガストリノーマの報告はこれまでない.原因不明だがガストリノーマの症例に対し内視鏡を行う際は,十分な補液や鎮静,プロトンポンプ阻害薬高用量投与を考慮すべきと考えられた.
症例は70歳代女性.上部消化管内視鏡検査で胃前庭部大彎にびらんをともなう10mm大の平坦隆起性病変を認め,生検で高分化型管状腺癌と診断した.複数のHelicobacter pylori検査はすべて陰性であり,胃底腺型胃癌,過形成性ポリープや胃底腺ポリープからの癌化はいずれも否定的であり,Helicobacter pylori未感染の胃粘膜に生じた高分化型管状腺癌という非常にまれな病態と考えられた.
症例は66歳男性.短期間で繰り返す脳梗塞の精査目的での上部消化管内視鏡検査にて胃体部の褪色調陥凹性病変,CTにて胃周囲の腸間膜脂肪織濃度上昇を認め,生検ではいずれもMALTリンパ腫が認められた.Lugano分類IV期として化学療法が施行された.以後脳梗塞を認めず,Trousseau症候群に合併した胃MALTリンパ腫と診断した.
症例は65歳の男性.5年前より胆管炎を繰り返し当科紹介となった.ERCPを施行したところ,下部胆管に狭細像を認めた.後日経鼻内視鏡を用いて胆管の不整な粘膜を確認し,生検で胆管癌と診断され,手術を施行した.術後病理組織所見ではリンパ節の転移は認められず,早期の進行胆道癌であった.本症例では慢性的な胆管炎により癌を発症したと推測され,胆管炎を繰り返す症例では,改めて癌の併発に注視するべきと考えられた.
今回われわれは,固有肝動脈(PHA)と胃十二指腸動脈分岐部(GDA)の総肝動脈に存在する肝動脈瘤の症例を経験したため報告する.症例は72歳,男性.血管造影で,病変はGDA,PHAの分岐部に25mmの紡錘状動脈瘤として描出された.予防的治療の適応と判断し,動脈瘤辺縁のGDAからPHAへの経路を閉塞しないようframingした後コイルで塞栓した.塞栓後の造影では上腸間膜動脈経由で肝への血流が保たれていた.