消化器癌,特に消化管の癌に対する内視鏡治療は,わが国で発展し,世界をリードしてきた.1980年代初頭にEMRが開発され,早期胃癌に対する内視鏡治療が一般的に行われるようになった.1990年代に入り,ESDが開発され,EMRとESDの割合は,食道癌で86%,胃癌で92%と,急速にESDが普及した.早期胃癌に占める内視鏡切除の割合は6割を超えるようになり,さらに展開が期待されている.ESDは,先人たちの努力の結晶を基盤に現在があること,また現況と今後の展望はどうあるべきかについて述べる.
ESDの開発当初は,デバイスや高周波装置も未熟で偶発症率の高さが問題視されたが,各種のライブデモやハンズオンセミナーが開催され,その手技は日本国内のみならず,国際的に普及しつつある.ESD技術の安定とともに,その適応も広がり,食道癌診断治療ガイドライン2012では大きさの制限が撤廃された.技術的には送水機能付きのデバイスの開発や高周波装置の改良とともに,Clip with line methodの普及が大きな影響を与えた.さらにこの技術を応用することで,従来は切除が困難であった分割EMR後の局所再発例,化学放射線療法後の局所再発例,全周性病変や,Varix合併症例でも安全なESDが施行可能となった.食道ESDの技術は広く普及したが,上記困難例は高度の技術を要するため,専門施設での施行が望まれる.
早期胃癌に対する内視鏡的粘膜下層剥離術(endoscopic submucosal dissection;ESD)は目覚ましい発展を遂げ,現在,リンパ節転移リスクの極めて少ない早期胃癌に対する治療法の第一選択として全国的に普及している.また,外科的切除例の検討により,リンパ節転移リスクの極めて少ない早期胃癌が明らかとなり,ESDの適応が拡大されている.2017年に適応拡大病変に対するESDの有効性を検証した多施設前向き試験(JCOG0607)の結果が報告された.早期胃癌ESDに関する近年の報告を解説し,早期胃癌ESDの現状と今後の展望につき考察する.
大腸ESDは今や広く普及し保険診療としても確固たる地位を確立した.使用機材も改良が重ねられ以前に比し安全かつ効率的な処置が可能になっている.困難例も存在するがその要因の解析と対処法も出揃った感がある.困難例は病変自体の難易度が高い場合とアプローチが困難な場合がある.それぞれの要因に対し個別の対処法を組み合わせることで解決することが多い.肛門管や回盲部などの困難部位も解剖学的な見地から対策を練ることで対処可能になっている.直腸では大きさや周在性に関する限界もない.深部浸潤以外の転移リスクのない症例へさらなる適応拡大も検討されている今日,困難例にESDを適応する際には切除の質を担保する必要がある.
症例は87歳の女性,麻痺性イレウスの診断で入院となった.イレウス管を挿入後,腹部症状の改善を認めたが,第3病日に再度腹部膨満が出現した.腹部CTにて,深部回腸および回腸末端に腸重積が疑われ,当院外科にて緊急手術となった.深部回腸および回腸末端に順行性腸重積を認め,それぞれ小腸部分切除術,用手整復術を施行された.イレウス管が誘因となり回腸の2カ所に腸重積をきたした症例は極めてまれであり報告する.
症例は40歳代男性.腹部膨満感を主訴に当院受診.腹部画像検査で脂肪成分や石灰化成分を含む径33cm大の腹腔内腫瘤を認めた.経過より急激な増大を認め,悪性度の高い脂肪肉腫を疑い当院外科にて切除した.摘出標本は40cm大で囊胞を主体とする成熟した腸管成分,骨髄や脂肪成分を含み後腹膜奇形腫と診断した.囊胞内は成熟した腸管粘膜で覆われ,囊胞内の貯留物の増加により急激な増大を認めたと考えられた.
症例は52歳男性.右下腹部痛を主訴に当院を紹介受診した.虫垂炎と肝膿瘍を併発しており,虫垂炎は外科手術で治療した.肝膿瘍は保存的治療中に肺内穿破をきたしたが,その後気管支瘻を形成して経気道的に自然ドレナージされたと考えられ,急速に改善した.極めてまれな経過を呈した肝膿瘍の症例であり,文献的考察を加えて報告する.
75歳男性.自己免疫性膵炎(AIP)で通院中,CTで膵体部の主膵管拡張が出現した.画像検査で膵腫瘤を認めず,ERCPで膵頭部主膵管に狭窄があり,膵管擦過細胞診でclass IVであった.膵頭十二指腸切除を施行し,pancreatic intraepithelial neoplasia-3(PanIN-3)と診断した.AIPを背景とした膵発癌を考察する上で貴重な症例と考え,報告する.
74歳男性.C型肝硬変で通院中に蛋白尿・大量胸腹水の出現を認めた.クリオグロブリン陽性とネフローゼ症候群の合併を認め,HCV関連腎症が原因と診断した.アスナプレビル+ダクラタスビルによりHCVは陰性化し,その後ネフローゼ症候群の改善と胸腹水の消失をみた.Direct-acting antiviral agentsは抗ウイルス効果と安全性が高く,HCV関連腎症の有用な治療選択肢と考えられる.
症例は79歳,男性.肝障害を契機に著明な肝腫大を指摘され,精査にて原発性ALアミロイドーシスと診断した.対症療法で経過観察となっていたが,1年後にショック状態で救急搬送された.画像検査にて肝破裂と診断し,緊急血管造影検査を施行し肝動脈塞栓療法を行ったが,救命できず死亡した.著明な肝腫大を呈するALアミロイドーシス症例は肝出血のリスクが高い可能性が考えられた.