大腸内視鏡的腫瘍切除術を施行された90例{上皮内癌(以後CIA)33例,高度異型腺腫(以後high grade)28例,低度異型腺腫(以後low grade)29例}を対象に,免疫組織染色にてβ-カテニン蛋白の発現を検討し,p53蛋白過剰発現との比較を行った.β-カテニンの免疫組織化学の染色性は,核に強く蓄積するもの,細胞質に強く蓄積するもの,正常の粘膜細胞と同程度の弱い発現性にとどまるもの,の大きく三つのパターンに分類された.このうちβ-カテニンの核への局在傾向は,CIAにて84.8%(28/33例)と高い頻度で認められ(high grade: 46.4%,low grade: 13.8%),染色性はhigh grade以上とlow gradeの間に有意差を認めた(
p<0.0001).p53の陽性率は,CIAでは51.5%(17/33例)であり(high grade: 17.9%,low grade: 3.4%),染色性はCIAとhigh grade以下の間に有意差を認めた(
p<0.0001).またCIAにてβ-カテニンの局在傾向とp53の発現を比較したが,β-カテニンはp53の染色性に依存せず(
p=0.3472),より異型度を反映していた.以上の点より大腸腺腫上皮内癌においてβ-カテニンの局在性の変化の方がp53より早期の段階に起こり,またβ-カテニンの核への蓄積性は腫瘍の悪性化において重要な役割を持つものと考えられた.加えて病理組織診断学的に,大腸腫瘍の悪性化(異型度)の補助診断法の一つの指標になる可能性が示唆された.
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