自分の考えをお話しさせていただく機会を得て,会員の先生方に心から感謝したい.医師にとって日々の診療についてよく学んで実践することが重要であることは明らかである.しかし,それだけでは足りず,若い人は新しいことを作りだすこと,そして広い視野で展開することが重要である.とはいえ,若いうちは自分の周りのことしかみえない.そこで,それがわかっている教授の役割は極めて重い.私の経験を踏まえながら,教授と若い人の関係を,私の研究の進捗と合わせて講演させていただく.そして,教育者はつくづく幸せであると思うのである.
肝線維化研究は,傷害肝細胞のアポトーシスを起点として星細胞の活性化を引きおこすマクロファージ・Kupffer細胞由来の増殖因子やケモカインの同定,活性化星細胞によるコラーゲン産生の制御機構,星細胞と類洞内皮細胞とのクロストーク,線維化進展における免疫の重要性など,この20年余りで目覚ましい進歩を遂げた.近年の肝炎ウイルスに対する治療法の進歩により,非アルコール性脂肪性肝疾患が慢性肝疾患の主因となりつつある中で,非アルコール性脂肪肝炎に対する線維化治療薬の開発に産学の関心が集まっている.新たな治療戦略の確立を目指した肝線維化研究の最近の進歩と,その臨床応用に向けて克服すべき課題について概説する.
従来,慢性肝疾患症例の肝線維化進展度の診断は,従来肝生検で採取された肝組織所見を評価することで行われてきたが,肝生検は侵襲性をともなう検査で患者の負担が大きいことが問題となっていた.血液検査だけで肝線維化進展度を診断する,いわゆるリキッドバイオプシー(liquid biopsy)になりうるバイオマーカーとして,Mac-2結合タンパク糖鎖修飾異性体(Mac-2-binding protein glycosylation isomer;M2BPGi)は日本で開発された.既にM2BPGiは,各種肝疾患での肝線維化進行度の診断や発癌リスクを予測する上で有用であることが数多く報告されている.日常臨床でM2BPGi値を活用する場合には,原因疾患によって,肝線維化進展度や発癌リスクを評価する指標としてのM2BPGiの絶対値が異なる点は注意すべきである.
この約20年間に,超音波エラストグラフィが利用可能になったことで,非侵襲的な方法で肝線維症の診断と病期判定が可能になり,肝臓学の臨床診療が変わりつつある.しかし慢性肝疾患には複数の成因があり,それにより測定値が異なる.また肝線維化の評価だけでなく,予後予測,および経過観察も重要である.超音波エラストグラフィには,strain(ひずみ)イメージング,transient elastography,p-SWE,2D-SWEがあり,すべてにおいて肝線維化診断は可能である.それぞれの方法,臨床的有用性などについて述べる.
MRエラストグラフィ(magnetic resonance elastography;MRE)は体外からの加振状態下でMRIを撮像することで,非侵襲的に体内の弾性率分布を画像化する手法である.撮像や,弾性率画像上での測定を正しく行うことで,高い再現性と肝線維化診断能を発揮する.弾性率に影響する代表的因子として加振周波数,背景肝疾患,炎症の存在がある.MRエラストグラフィを診療に役立てる際には,こうした特徴を理解した上で活用することが大切である.
肝線維化は,慢性的に繰り返し発生する細胞傷害に呼応して肝臓内に過剰な結合組織が蓄積することに由来する,組織の瘢痕化を反映する.その終末像である肝硬変では肝機能不全や門脈圧亢進症,さらには高頻度に肝細胞癌を合併する.しかし,肝線維症はいまだ有効な治療法が確立されておらず,重症化した場合の根本的治療法は肝移植に限られる.肝線維化の病態生理に関する研究は,その中心的な役割を担う肝星細胞の活性化機序やコラーゲン産生と分解の制御機構の解明が進み,この数十年で飛躍的な進歩を遂げた.本稿では,肝線維化研究の現状を概説するとともに,新規抗線維化治療法の開発に向けた今後の展望に言及する.
45歳男性.IgA血管炎と診断されステロイドでの加療を行い,症状は改善傾向にあったが,第20病日に大量下血を認め,ショックバイタルに陥った.CTで出血源は同定できず,第22病日に緊急開腹手術を行ったところ,空腸内に噴出性の出血を認め,同部位を切除し,止血を得た.IgA血管炎においては,治療により症状の改善が得られた状態でも,消化管から大量出血をきたす可能性があることに留意する必要がある.
症例は76歳男性.粘血便を主訴に受診し,下部消化管内視鏡検査および便汁鏡検でアメーバ性大腸炎と診断した.メトロニダゾール静注開始24時間後より手袋靴下型の感覚低下が出現し,投与開始2日後からは足部の疼痛が出現した.同薬中止により徐々に症状は改善し3カ月後には消失した.長期間投与で発症するとされてきたメトロニダゾールによる末梢神経障害が投与開始後早期に発症したまれな症例であり,報告する.
症例は79歳男性.直腸癌術前の遠隔転移検索の画像検査で,上行結腸腫瘍が疑われた.右肺切除術後・開腹胆囊摘出術後で肝弯曲への内視鏡挿入が困難で,注腸造影検査で粗大病変は認めなかった.開腹下に上行結腸を触診し腫瘍は触れなかった.虫垂切除部より腹腔鏡で腫瘍を確認し,局所切除した.内視鏡と触診で確認困難で悪性と鑑別を要する上行結腸腫瘍に対し,経虫垂的腹腔鏡観察を行い局所切除した症例を経験したため報告する.
症例は68歳女性.補液にて改善しない水様性下痢と腎不全にて当院転院.ICU管理にて腎機能改善後,造影CTを施行し,膵体部と肝に多血性の腫瘤を認めた.臨床症状と合わせてVIP産生腫瘍と考え,ソマトスタチンアナログを開始.すると下痢は著明に改善し全身状態も安定した.そこでEUS-FNAにて神経内分泌腫瘍と診断後,膵原発巣と肝転移巣の外科的切除を施行した.術後の病理にてVIP産生腫瘍と診断された.
症例は79歳,男性.内視鏡的除去術困難な巨大総胆管結石でプラスチックステント留置中の方で,吐血で救急搬送された.十二指腸内視鏡で乳頭部からの出血と,造影CTで結石の腹側に仮性動脈瘤がみられた.血管造影検査では後上膵十二指腸動脈の分枝から造影剤の漏出を認め,2度の塞栓術で止血が得られた.膵十二指腸動脈は複雑なアーケードを構成しており,止血困難例もある.今回われわれは胆道出血で救命し得た1例を報告する.