膵癌に対しては,外科手術のみでの根治は困難であり,化学療法や放射線治療を含めた集学的治療が必須であることが明らかとなってきた.近年,主要血管浸潤を認めない切除可能膵癌においていくつかの臨床研究の結果が示され,切除可能膵癌に対する治療戦略は進歩しつつある.もっとも予後が期待できるはずの切除可能膵癌の治療成績の改善は,急務であるといえる.
膵癌取扱い規約第7版にて,わが国独自のresectability(切除可能性)についての定義がなされた.NCCNガイドラインに準じたシンプルなものとなっており,術前診断に関わる内科医にとってもわかりやすく整理されている.「Resectable」とは,標準切除によってR0切除が可能なものである.依然として膵癌は予後不良な癌種であり,根治療法としての手術施行が可能な状況での早期発見が重要である.各種画像診断・病理診断を駆使して,正確・迅速な術前診断を行い,膵癌治療成績を向上させていく必要がある.
切除可能膵癌に対する標準治療は,まず手術を先行し術後速やかに補助化学療法を行う,というもので,手術単独に比較し良好な治療成績が示された.しかし,術後補助化学療法の恩恵を被る患者は切除企図膵癌の一部であり,より幅広い患者の治療成績向上が期待できる術前治療に注目がされていた.2019年1月,本邦から切除可能膵癌に対する術前治療の有効性に関するランダム化比較試験(Prep-02/JSAP05)の結果が報告され,これを受けて膵癌診療ガイドラインは2019年10月に「切除可能膵癌に対して術前補助化学療法を行うことを提案する」と改訂された.膵癌に対する「術前補助療法」という新しい戦略が示され,今後の治療成績向上が期待される.
切除可能膵癌に対する膵頭十二指腸切除術におけるmesenteric approachは,切除段階において上腸間膜動脈(SMA)からアプローチするartery-first approachの1手法である.切除可能膵癌を対象とした後ろ向き研究により,切除の最終段階でSMA周囲組織郭清を行うconventional approachと比べ,mesenteric approachの方が術中出血量は少なく,生存期間も良好であった.Mesenteric approachの真の有用性を検討するために,現在,mesenteric vs. conventional approachの多施設RCTを実施中である.
膵癌の術後補助化学療法は,いくつかの重要な臨床試験の成功によって発展してきた.主にCONKO-001とJASPAC 01の結果に基づき,わが国では術後補助化学療法としてS-1単独療法が,またS-1に忍容性の低い患者などではゲムシタビン塩酸塩(GEM)単独療法が推奨されている.一方欧米では,GEM単独療法に加え,海外の第III相試験の結果に基づき,modified FOLFIRINOX療法,GEM+カペシタビン併用療法,5-FU+ホリナートカルシウム併用療法(これら3者はいずれもわが国の保険未収載)も推奨されている.
症例は79歳男性,持続する水様下痢を主訴に受診した.下痢以外の症状は認めず待機的に大腸内視鏡検査を予定したが,全身状態が悪化して救急搬送され集中治療室へ入室となった.大量補液,昇圧剤投与,人工呼吸管理後も循環動態の改善がえられなかったが,服薬歴から臭化ジスチグミンによるコリン作動性クリーゼを鑑別に挙げ,硫酸アトロピンを投与したところ全身状態の劇的な改善を認め,第35病日に退院となった.
症例は全大腸型潰瘍性大腸炎の86歳女性.発症40年後に直腸に0-Is病変があり,colitic cancerと診断.高齢であるが肛門機能低下がなく,全身状態が良好で本人の希望もあり大腸全摘・回腸囊肛門管吻合術を施行.術後経過は良好で現在も術前とほぼ同様の生活を送っている.80歳以上の潰瘍性大腸炎症例であっても,全身状態と肛門機能が良好であれば自然肛門温存術式も選択肢になるものと考える.
40歳男性が上腹部痛と発熱で救急外来を受診した.CTで空腸憩室と周囲脂肪織濃度上昇に加えて限局性の腸管外ガス像を認め,穿通性小腸憩室炎を疑った.腹部症状が軽度で,腸管外ガスが限局していたため手術は行わず,保存的に治療したところ軽快し,再発はない.小腸憩室炎はまれであり,診断には注意深いCT読影が必要である.穿通性小腸憩室炎を保存的治療で軽快させた本邦からの既報告はなく,貴重であるため報告する.
61歳の女性,2016年9月から2017年4月まで胃悪性リンパ腫加療後に完全寛解となった.2018年8月,上部消化管内視鏡検査で胃上部に白苔をともなった粘膜不整の隆起性病変を認め,生検で扁平上皮癌と診断された.胃全摘+D2郭清+膵脾合併切除が施行され,胃原発扁平上皮癌(SI,spleen,N1)+胃腺癌(SM,N0)の衝突癌と診断された.術後21日目よりS-1内服を開始し,術後9カ月無再発生存中である.
症例は78歳女性.右乳房腫瘤を主訴に乳腺外科を受診し,乳腺MALTリンパ腫と診断され,全身検索目的で当科を受診した.多発腹腔内リンパ節腫大,胃,十二指腸に病変を認めた.腹部超音波検査で不整な肝外胆管壁肥厚があり,ERCP,胆管内細径超音波検査,胆管組織生検を施行し,MALTリンパ腫の胆管病変と診断した.化学療法施行後,再検し,寛解を確認した.