日本消化器病学会雑誌
Online ISSN : 1349-7693
Print ISSN : 0446-6586
104 巻, 8 号
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総説
  • 緒方 晴彦, 日比 紀文
    2007 年 104 巻 8 号 p. 1155-1164
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/06
    ジャーナル フリー
    いまだ原因不明の炎症性腸疾患の代表である潰瘍性大腸炎とCrohn病の病態解明には,20世紀後半の分子生物学の飛躍的な進歩が多大な貢献をした.すなわち,一部では何らかの遺伝的素因を有する宿主が存在し,腸管内抗原などの環境因子に対して過剰·異常な免疫反応が惹起されて腸管の炎症が生じるものと理解される.しかし,潰瘍性大腸炎とCrohn病はその病態が全く異なり,それぞれの疾患における特異的な分子病態が明らかになった.対症的な抗炎症療法が内科的治療の基本であるが,難治性症例に対しては免疫統御療法や炎症性サイトカインを中心とした分子をターゲットにした分子標的療法が次々と開発され,その効果が注目されている.
今月のテーマ:IBDの病態と自然史
  • 岡本 隆一, 土屋 輝一郎, 渡辺 守
    2007 年 104 巻 8 号 p. 1165-1171
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/06
    ジャーナル フリー
    炎症性腸疾患において炎症部の病理像を形成する主体は腸管粘膜下層に浸潤する炎症細胞であるが,上皮組織もまた特徴的な病理像を呈する事が知られている.「杯細胞の減少」および「パネート細胞化生」といった活動期の変化のみならず,慢性炎症が持続した結果,dysplasiaやcolitic cancerが発生する.しかしながら,炎症性腸疾患における上皮の変化を制御する分子機構はいまだ明らかとされていない.本稿では炎症性腸疾患における上皮の変化を「腸管上皮の分化制御」に関する最新の研究成果を基に概説する.
  • 松井 敏幸
    2007 年 104 巻 8 号 p. 1172-1182
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/06
    ジャーナル フリー
    炎症性腸疾患(IBD)の自然史あるいは長期経過をreviewし,その時代的な改善の有無をみた.その理由は,IBDに対する治療が進み,その自然史が改善されたと推定されるからである.しかし,実際の欧米からの報告をみると手術率や死亡率などの指標の改善は確実でない.その理由として,強力な治療法のうち,緩解維持に使われる薬物や経腸栄養療法がまだ徹底していないことが挙げられる.緩解維持の目標にも,粘膜治癒をもたらすまで強力に推し進めることが重要とされつつある.その際には粘膜病変治癒を評価するための画像診断を活用することが求められよう.さらに,緩解導入剤を適切に選択し,開始する時期の決定,緩解維持療薬の投与量の調節など改善の余地は大きいと考えられた.
原著
  • 尾山 勝信, 藤村 隆, 二宮 致, 宮下 知治, 木南 伸一, 伏田 幸夫, 太田 哲生
    2007 年 104 巻 8 号 p. 1183-1191
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/06
    ジャーナル フリー
    Cyclooxygenase(COX)-2阻害によるバレット食道(BE),食道腺癌(EAC)の化学予防の可能性を検討するため,十二指腸液食道逆流手術により発癌するモデルを用いた実験を行った.Control群と選択的COX-2阻害剤nimesulideを投与した群の摘出食道を検索した.Control群で食道炎,BE, EACが経時的に発生増加し,術後早期より食道粘膜のCOX-2発現,PG(prostaglandin)E2発現,組織増殖活性が亢進していた.nimesulide群では,食道炎は軽度で,BE発生は抑制され,EACは発生しなかった.また,PGE2発現,組織増殖活性が抑制されていた.COX-2はBE·EAC発生に関与し,その阻害はPGE2抑制を介する機序で食道発癌を予防する可能性が示唆された.
  • 田原 章成, 松岡 英彦, 前川 智, 嶋田 美砂, 成田 竜一, 阿部 慎太郎, 山崎 雅弘, 田代 充生, 田口 雅史, 山本 光勝, ...
    2007 年 104 巻 8 号 p. 1192-1203
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/06
    ジャーナル フリー
    慢性肝障害を有した労働者(肝炎労働者)は多いが,労働が慢性肝障害の経過に及ぼす影響は明らかでないため,肝炎労働者を3年間追跡調査し,作業内容や疲労などと肝障害の関連を検討した.結果,肝炎の活動性に影響する作業関連要因は認められず,疲労と慢性肝炎の増悪の関連もなかった.また,急性増悪と作業関連要因や疲労との関連もなかった.観察期間内で作業関連要因別のトランスアミナーゼ値,血小板数に有意な変動はなかったが,急性増悪を生じた例では血小板数の低下傾向がみられた.今回の調査結果からは作業関連要因が慢性肝障害の経過に及ぼす短期的影響は少ないと考えられたが,今後大規模な研究が必要であると思われた.
症例報告
  • 後藤 利博, 渡部 宏嗣, 川上 高幸, 渡邊 雅史, 中野 健太郎, 高井 敦子, 北澤 絵里子, 佐藤 新平, 田島 康夫, 水口 國雄 ...
    2007 年 104 巻 8 号 p. 1204-1211
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/06
    ジャーナル フリー
    症例は63歳男性.胸痛,食欲不振を主訴に来院.上部消化管内視鏡検査で中部食道に3/4周性の3型病変を認め,病理組織学的に小細胞癌と診断した.リンパ節,肝転移を認め,イリノテカンとシスプラチンの併用およびイリノテカン単剤投与を行い,腫瘍は完全に消失した.食道小細胞癌はまれであり有効な化学療法も確立されていないが,本症例からはイリノテカンとシスプラチンの併用療法が有効である可能性が示唆された.
  • 西谷 大輔, 三上 達也, 福田 眞作, 花畑 憲洋, 佐々木 聡, 蝦名 佐都子, 石黒 陽, 佐々木 賀広, 棟方 昭博
    2007 年 104 巻 8 号 p. 1212-1217
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/06
    ジャーナル フリー
    症例は79歳男性.腹部膨満感と原因不明の腹水にて入院.腹水は乳糜腹水で,腹部CTにて多量の腹水と上腸間膜動脈近傍に石灰化をともなう多結節状の腫瘤を認めた.感染症や悪性疾患を示唆する所見を認めず,臨床経過,画像所見および腹水の性状と過去の報告例の検討より腸間膜脂肪織炎が疑われ,ステロイド内服による治療を行った.多量の乳糜腹水をともなった小腸間膜脂肪織炎は,本症例が本邦3例目でありまれな症例と考えられた.
  • 藤野 靖久, 井上 義博, 小野寺 誠, 佐藤 信博, 遠藤 重厚, 大森 浩明, 鈴木 一幸
    2007 年 104 巻 8 号 p. 1218-1224
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/06
    ジャーナル フリー
    症例は67歳女性.2001年3月,胃潰瘍穿孔で広範囲胃切除術(Billroth II法再建術).同年10月,急性輸入脚症候群とそれにともなう重症急性膵炎の診断で入院.内視鏡下に輸入脚の減圧に成功し,引き続き輸入脚の持続ドレナージを行った.さらに後腹膜膿瘍に対しては経皮的膿瘍ドレナージとの併用が有効であった.急性輸入脚症候群の治療は外科的手術療法が一般的であるが,内視鏡下のドレナージも侵襲が少なく有用と考えられた.
  • 福森 一太, 矢野 洋一, 桑木 光太郎, 住江 修治, 安東 栄治, 田中 正俊, 佐田 通夫
    2007 年 104 巻 8 号 p. 1225-1230
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/06
    ジャーナル フリー
    64歳,男性.近医でC型慢性肝炎の経過観察中に肝内腫瘤を認め,紹介入院となった.門脈左枝に腫瘍栓をともなう病期分類IV期の進行肝細胞癌(HCC)と診断された.皮下埋め込み式リザーバーを留置し低用量cisplatin, 5-fluorouracilによる肝動注化学療法を週5回投与を1クールとし計10クール施行後,残存するHCCに対し開腹下マイクロ波凝固壊死療法を施行し完全寛解となった.その後経過観察中であるが現在までの約8年間無再発である.その要因として肝逸脱酵素の推移から背景肝に肝炎の持続がなかったことが考えられ,また肝動注化学療法が潜在性の小転移巣に有効であったことも考えられた.今後,進行HCC症例で完全寛解が得られれば,積極的に肝炎鎮静化を目指した治療を施行していくことが重要と考えられた.
  • 猪俣 絵里子, 早田 哲郎, 中根 英敏, 森原 大輔, 廣瀬 統, 喜多村 祐次, 岩田 郁, 入江 真, 竹山 康章, 渡邊 洋, 向坂 ...
    2007 年 104 巻 8 号 p. 1231-1235
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/06
    ジャーナル フリー
    57歳の女性.背部痛のため来院し,巨大肝細胞癌を指摘され入院となった.血液生化学検査にて,著明な高コレステロール血症を認め,腫瘍随伴症候群と診断した.その後,さらに血小板増多と低血糖が出現した.経過から,血小板増多と低血糖も肝細胞癌の腫瘍随伴症候であると考えた.3種類の腫瘍随伴症候をともなう肝細胞癌の報告は少なく,特に血小板増多症をともなうものは極めてまれである.
  • 高橋 祥, 本間 久登, 秋山 剛英, 女澤 慎一, 平田 健一郎, 古川 勝久, 高梨 訓博, 石渡 裕俊, 河野 豊, 林 毅, 高田 ...
    2007 年 104 巻 8 号 p. 1236-1244
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/06
    ジャーナル フリー
    症例は75歳男性.突然の左側腹部痛にて近医泌尿器科受診.採血にて高アミラーゼ血症を,画像にて左水腎症をそれぞれ認め,急性膵炎の診断にて薬物療法と,左尿管閉塞に対し尿管ステント挿入術を施行後,原因精査目的に当院へ紹介された.USとEUSでは膵頭部と体尾部に多房性嚢胞を認めた.CTでは嚢胞性病変に加え,左後腹膜に横隔膜脚から左尿管,腸腰筋へ広範囲に連続した低吸収域を認め,同領域はMRIで一部高信号を呈した.ERCPやMRCPにて膵体部に限局した主膵管の不整狭窄を認めるもその原因となる病変は指摘されず,臨床経過から粘液栓またはアルコールによる急性膵炎後の内膵液瘻が左尿管閉塞を引きおこしたものと診断した.当院転院後は炎症所見もなく経過観察としたところ,尿管閉塞には変化を認めなかったものの,6カ月後にはCT上後腹膜の低吸収域は消失した.
TTT(Train the Trainers)
  • 竹下 公矢
    2007 年 104 巻 8 号 p. 1250-1255
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/08/06
    ジャーナル フリー
    2006年に開催された,第6回Train the Trainers(TTT)ワークショップに参加する機会を得たのでその概要を報告する.世界19カ国から約60名の消化器病医が一堂に会し,丸4日間専門知識の向上だけでなく,そのリーダーシップ能力,教育·評価能力のレベルアップを目指した.そして論文執筆のノウハウとその評価,コクランをはじめとするウェブサーチの専門知識も多く得られた.何よりも世界の消化器病医の立場,ならびに各国の教育環境がより深く理解でき,また友好の輪も広げることができた.最後にこのような有意義なワークショップに出席できたことについて,本学会に深甚なる感謝の意を表します.
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