バルーン内視鏡やカプセル内視鏡の発達により,暗黒臓器と呼ばれていた小腸を直接観察できるようになった.今日炎症性腸疾患(クローン病)の患者数増加は著しく,小腸観察の重要性は増している.さらに,腸管免疫システム,腸内細菌叢,消化管ホルモンが消化器以外の疾患に関係していることも明らかになりつつある.実は小腸にはクローン病以外にも多彩な腫瘍性疾患,血管性疾患,炎症性疾患が存在している.さらにCEASをはじめとした希少難病も数多く,これまで未解明であった病態が次々に解決されるのではないかと期待される.
小腸の血管性病変には閉塞性血管疾患,血管炎,腫瘍,血管奇形がある.腹部救急診療において閉塞性血管疾患は極めて重要であるが,小腸出血の原因としては血管奇形が多い.血管奇形には動脈性のDieulafoy病変,動静脈吻合性のangiodysplasiaなどがあるが,サイズが小さく短時間で自然止血するため診断に難渋し,また再出血のリスクも高い.小腸血管性病変に関連する基礎疾患として心疾患,慢性腎臓病(特に透析期),末梢血管疾患,門脈圧亢進症,血管形成異常をきたす遺伝性疾患が挙げられ,これら基礎疾患の有無と50歳を境界とする発症年齢の2×2分割表から小腸出血の原因疾患を予測しうる.これが効率的な小腸出血の診断の一助になるか今後の検証が必要である.
バルーン内視鏡検査や小腸カプセル内視鏡検査の登場で,小腸腫瘍の検索難度は以前より低下しつつある.小腸原発悪性腫瘍として,本邦では悪性リンパ腫,小腸癌,gastrointestinal stromal tumorが多い.バルーン内視鏡での生検が可能になったことで,小腸癌で早期診断により治療成績が改善する可能性や,リンパ腫治療で外科的腸管切除を省略しうる可能性が示唆されている.良性腫瘍では過誤腫や腺腫の頻度が高い.過誤腫性ポリポーシスをきたすPeutz-Jeghers症候群では,内視鏡的治療を繰り返すことにより外科的手術を回避できる.今後も小腸腫瘍の領域における更なる進歩,発展が望まれる.
カプセル内視鏡とダブルバルーン内視鏡が開発され,小腸の直接観察が可能となった.本稿では小腸粘膜性病変として,NSAIDs起因性および,慢性腎臓病(CKD)患者の小腸粘膜病変について解説する.NSAIDs起因性小腸粘膜傷害は,粘膜発赤,微小な絨毛欠損,小潰瘍,輪状潰瘍,縦走潰瘍や膜様狭窄など,多彩な形態の病変が認められる.CKD患者の粘膜性病変の頻度は,20~30%程度とするものが多い.まだまだ小腸疾患は不明な部分が多く,これらの小腸内視鏡により,さらに小腸疾患の病態解明が進むことを期待する.
小腸を観察する内視鏡の発展により,消化器疾患における小腸病変の理解は大幅に進展しているが,全身性疾患にともなう小腸病変の全貌はいまだ明らかでない.現時点では主に消化器症状が出現した症例での報告がほとんどだが,それでも多彩な小腸病変の報告が相次いでおり,小腸病変を念頭においた検査・治療が改めて重要であることが認識された.特に,臓器連関や薬剤との関連まで配慮が必要であり,病態把握・病勢克服に対して内科全体での医療連携がこれまで以上に望まれる.また一方で小腸病変の病態解明が全身性疾患全体への理解に直結することも見込まれることから,活発な臨床研究・基礎研究への発展を期待したい.
2012年5月から2017年9月までに当院でCT colonography(CTC)を行った症例において,大腸憩室の発見率について検討した.対象586例のうち333例(56.8%)に憩室を認め,加齢とともに憩室の発見率は増加した.発生部位は上行結腸に多かったが,群発例はS状結腸に多かった.近年,大腸憩室は増加傾向にあると思われるが,CTCは憩室診断の有用な検査法の1つと考えられる.
虚血性大腸炎(IC)60例の臨床的検討を行った.43例(72%)が5月から10月の時期に発症していた.58例(97%)が夜8時から翌朝の7時までの夕食後比較的短時間に発症し,52例(87%)は,就寝時間帯であった.若年者では,基礎疾患の関与がなく,便秘などの腸管側因子のみが誘因となり軽症例が多いが,高齢者では,基礎疾患に起因する血管側因子に,腸管側因子が複合して重症化する傾向が見られた.内視鏡点数と各臨床因子との相関関係を求めた結果,重症化の要因として,白血球数,年齢,消化器症状が有意な独立因子であった.多くの症例が,比較的湿度の高い時期に発症していることより,湿度も発症の一因になりうると推測した.
69歳男性.経皮内視鏡的胃瘻造設術の3日後に下血と血性排液がみられ,上部消化管内視鏡検査を実施したところ広範な発赤とびらんを認めた.CT検査では胃気腫症,門脈ガス血症,門脈血栓および上行結腸壁肥厚がみられた.胃瘻からの注入中止および抗菌薬投与にて保存的に加療したところ胃気腫症,門脈ガス血症,門脈血栓の改善が得られた.
症例は,ダクラタスビル/アスナプレビル(DCV/ASV)治療が導入されたC型慢性肝疾患の81歳女性.治療33日目になり発熱をともなう左股関節痛が出現し,救急車にて当院に搬送され緊急入院となった.入院後,股関節滑膜炎と診断した.DCV/ASV治療の副作用と考え,内服を中止したところ,6日後には症状は改善した.高齢者のDCV/ASV治療において,予期せぬ重篤な副作用が出現した1症例であり,考察を加え報告する.
症例は79歳女性.腹痛を主訴に受診した.腫瘍マーカーは正常であったが,画像所見からは肝細胞癌が疑われ,肝S5切除+腹壁瘢痕ヘルニア修復術を施行した.腫瘍は灰白色で被膜の形成はなく境界明瞭であり,病理組織学検査にて肝reactive lymphoid hyperplasiaと診断した.術前に悪性腫瘍の可能性を考慮され,切除後に確定診断される症例が散見される.肝腫瘍の鑑別として念頭におく必要がある.