胃・十二指腸潰瘍の歴史は人類誕生から始まるが,その中で大きなパラダイムシフトがおきたのは,胃X線や内視鏡による診断の確立,H2受容体拮抗薬をはじめとする酸分泌抑制薬の開発,H. pylori発見と除菌治療と思われる.胃・十二指腸潰瘍の過去・現在・未来として,H. pylori発見までの過去,H. pylori,NSAIDsなどの原因治療が行われるようになった現在,ポストH. pylori時代の将来に分けて,胃・十二指腸潰瘍の成因,治療についてまとめた.
H. pyloriの発見以前の消化性潰瘍治療は,1980年代から開発されてきたH2受容体拮抗薬やプロトンポンプ阻害薬(PPI)による的確な胃酸管理を中心とした治療法が主体であった.21世紀初頭になり,H. pyloriの除菌による潰瘍治療が主流となった.一次・二次・三次除菌治療や,薬剤アレルギーに応じた個別化治療の進歩も著しい.除菌治療は潰瘍治癒や再発抑制においてきわめて有用であり,医療経済学的にPPI単独治療戦略よりも高い効果が期待される.除菌治療を選択できない場合は非除菌治療を考慮する.
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は,消化性潰瘍の主因である.Helicobacter pyloriの感染率が減少する中で,超高齢化社会にともない薬剤起因性潰瘍の比率が年々増加している.NSAIDsにより消化性潰瘍や消化管出血の危険性は増加するため,特に潰瘍の有病者はNSAIDsの単独投与は禁忌であるが,臨床の現場では潰瘍を発症しても原因薬剤を中止できない場合は多い.近年,消化管粘膜傷害を引きおこす薬剤が多数報告され,その粘膜傷害の予防にはH. pyloriの除菌治療とともに,酸分泌抑制を適切に行うことが必要と考えられており,個々に応じた治療戦略の立案が重要となる.
消化性潰瘍の二大要因は,Helicobacter pylori(H. pylori)と非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)である.これらを要因としない原因不明の消化性潰瘍は特発性潰瘍(idiopathic peptic ulcer disease;IPU)と一般的に称されており,単純なH. pylori陽性潰瘍と比して基礎疾患の合併が多いこと,難治で再発率が高いことが指摘されている.近年H. pyloriの除菌が進むにつれ,消化性潰瘍におけるIPUの割合が増加している.IPUの治療は消化性潰瘍と同様にプロトンポンプ阻害薬(PPI)が主であるが,前述のとおり難治性・再発性が指摘されており,問題となっている.
消化性潰瘍の治療には,基本的に酸分泌抑制剤が使用されるが,その成因をもとにH. pylori感染の有無,NSAIDs(アスピリンを含む)服用歴の有無によって4群に分けることが,治療反応性,その後の再発リスクを予測するのに有用である.H. pylori単独潰瘍は,4群のなかでは最も治療反応性が高く,除菌治療によって再発はまれとなる.NSAIDs潰瘍(H. pylori陽性,陰性にかかわらず)は,治療抵抗性を示すことがあるが,原因薬剤の休止によって再発を抑制できる.H. pylori陰性,NSAIDs陰性のものは,原因が特定されず特発性潰瘍とも呼ばれ,治療抵抗性を示し,再発も多い.特発性潰瘍は世界的に増加傾向にあり,本邦でも今後臨床的に問題となってくると予想される.
切除不能肝細胞癌に対して一次薬物治療でアテゾリズマブ/ベバシズマブ(Atezo/Bev)治療を受けた21例を対象とし,好中球リンパ球比(NLR)の意義を検討した.Atezo/Bev治療導入前のNLR 2.25をカットオフ値として,無増悪生存期間(PFS)を比較すると,NLR<2.25でPFSの中央値は393日,NLR≧2.25で中央値は199日であった(p=0.009).また,NLRはCRPと正の相関を認めた(r=0.525,p=0.016).NLR高値群のPFSはNLR低値群に対して不良であった.NLRは切除不能肝細胞癌に対する一次薬物治療において予後予測因子として有用である.
症例は78歳,女性.腹部超音波検査にて肝弯曲付近にmultiple concentric ring signと口側方向に嵌入する腫瘤を認め,逆行性腸重積症と診断した.切除標本では横行結腸に48×40mm大の1型腫瘍を認め,pT2N0M0の診断であった.腹部超音波検査にて先進部腫瘤の性状や腸管虚血の有無をリアルタイムに評価することが可能であり,診断および治療方針の決定に有用であった.
症例は73歳男性.直腸癌術後再発に対しXELOX施行後,血小板減少の遷延を認め,化学療法を中断し当科へ紹介となった.骨髄検査で未熟巨核球とPA-IgGの上昇を認め,ITPと診断した.PSLにより血小板数は回復したが,直腸癌に対する化学療法の再開による血小板減少を考慮しエルトロンボパグを導入した.経時的にPA-IgGは低下し,血小板の減少なくFOLFIRIの継続が可能であり,直腸癌は完全奏効を得た.
メトロニダゾール(MNZ)の長期服用により脳症を含めた神経障害をきたすことが知られている.85歳女性で肝膿瘍に対しMNZ内服開始後59日目に痙攣と意識障害が出現した.特徴的なMRI画像と病歴からMNZ誘発性脳症と診断しMNZ内服を中止したが,意識障害が続き誤嚥性肺炎を発症し永眠した.MNZ中止により神経症状は改善することが多いとされるが,不可逆的なこともあり投与の際は十分な注意を要する.