切除不能肝細胞癌に対する2009年のソラフェニブの承認以来,一次治療薬としてレンバチニブ,アテゾリズマブとベバシズマブの併用療法が,そして二次治療薬としてレゴラフェニブ,カボザンチニブ,ラムシルマブの計6レジメンが承認され,現在臨床で使用可能となっている.これらの全身薬物療法は進行肝癌のみならずintermediate stage肝癌の治療パラダイムも大きく変えつつあり,さらには現在進行中の第III相試験である,免疫療法の切除・ablation後のアジュバントやTACE併用において良好な結果が得られれば,肝癌患者の予後はドラスティックに向上するものと期待される.
切除不能肝細胞癌に対する免疫チェックポイント阻害薬(ICI)は,抗PD-1抗体薬ニボルマブとペムブロリズマブの第III相試験がそれぞれ1次治療と2次治療で行われたが,統計学的な有意差が得られなかった.続いてICIベース併用療法の有効性が前臨床試験や早期臨床試験によって示唆され,いくつかの第III相試験が進められている.その中で,抗PD-L1抗体薬アテゾリズマブ+抗VEGF抗体薬ベバシズマブの有効性が確認され,2020年,適応が承認された.現在,根治治療後の補助療法や肝動脈化学塞栓療法との併用でもICIの臨床試験が行われている.一方,免疫関連有害事象への適切な対応が求められる.
Intermediate stage肝細胞癌の治療は肝動脈化学塞栓術(transarterial chemoembolization;TACE)が標準的治療であるが,近年の薬物療法の進歩の影響によりパラダイムシフトがおきつつある.腫瘍条件,肝予備能とも多様な病態を含むIntermediate stageを亜分類することにより,TACEの効果が期待できない症例に薬物療法を考慮する提案や,TACE不応やTACE不適という病態が提唱され,TACEを繰り返し肝予備能が低下する前に,または効果の乏しいTACEを施行する前に,より早い段階で薬物療法を導入するような方向に変化してきている.さらにTACEと分子標的薬の併用療法の効果を示すエビデンスも出てきており,がん免疫療法とTACEの併用療法の開発も行われている.
進行肝細胞癌に対してアテゾリズマブ/ベバシズマブ併用療法が用いられるようになり,薬物治療のランドスケープが大きく変わろうとしている.今までのほぼすべての進行肝細胞癌の第III相試験は,ソラフェニブが進行肝細胞癌の1次治療であることを前提に試験がデザインされてきた.すなわち,アテゾリズマブ/ベバシズマブ併用療法後の後治療のエビデンスはほぼなく,今後リアルワールドにて作り上げていくこととなる.アテゾリズマブ/ベバシズマブ併用療法が進行肝細胞癌治療の1次治療の主軸になる時代において,2次治療以降を選択する際の一助となるべく,治療選択肢となる薬剤の特徴と現在までに得られている知見について述べる.
肝癌は,本邦をはじめとした東アジアで多い癌の1つである.大規模かつ包括的なゲノム解読によって肝癌はTERT+TP53+WNT経路異常をコアドライバーとして,キナーゼ経路異常やクロマチン制御分子などのエピゲノム関連異常が加わるといった分子遺伝学的特徴を有することが明らかとなった.コアドライバーは早期肝癌においてすでに異常がおこっており,腫瘍内多様性や再発病変ではあまり変化しない.また分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤に対する治療反応性と関連するゲノム異常も明らかにされ,liquid biopsyによる早期診断やドライバー異常による治療層別化など,肝癌のゲノム医療が進むことが期待される.
2008年1月から2017年7月に大腸憩室出血で初回入院となった98例を対象に,その後の大腸憩室出血による再入院のリスクを調査した.期間中の大腸憩室出血による入院回数が1回目の群(1回群),2回目の群(2回群),3回目以上の群(3回以上群)に分けると,1年後再入院率は1回群11.6%,2回群23.2%,3回以上群34.2%,2年後再入院率は1回群15.1%,2回群50.1%,3回以上群62.4%と,入院回数が増えるごとに再入院率は高くなった.また,再入院なし群と再入院あり群に分け背景因子と治療因子を検討したところ,入院時のショックバイタル(オッズ比14.1)が独立した危険因子であった.
小児科診療所79施設を対象に,小児へのB型肝炎(HB)ワクチン任意接種に関するアンケート調査を行った.任意接種実施率は65.2%,望ましい接種対象者は「全乳幼児」84.8%,勧め方は「患者希望時のみ」80.0%,「積極的に勧めている」20.0%,今後勧めたいかは「患者側から希望があれば」71.7%,実施していない理由は「任意接種のため勧めにくい」38.9%であった.要望は「定期接種対象範囲の拡大」60.9%,「啓発活動,情報提供をして欲しい」54.3%であった.任意接種を勧めにくい状況が示唆され,医療関係者および保護者に対して,必要性に関する情報提供や広報活動を積極的に行う必要がある.
70歳代男性.重症の急性A型肝炎で入院し,ステロイドパルスを行った.肝障害は改善したがステロイド後療法中に腹痛を生じ,下部消化管内視鏡検査と病理組織検査からアメーバ腸炎と診断した.メトロニダゾール投与で症状は消失したが,治療開始13日後に消化管穿孔をきたし緊急手術を行った.適切な治療後穿孔に至ったアメーバ腸炎の報告例はまれだが,本症例は発症後早期に治療を開始し,穿孔後速やかに緊急処置を行ったことで救命し得た.
症例はCowden病併存の57歳女性.黒色便,意識消失発作で入院.上下部消化管内視鏡では出血源不明で,カプセル小腸内視鏡(CE)で回腸に出血部位を疑ったが,経口・経肛門的小腸内視鏡では出血疑診部に到達できなかった.自然止血されるも1カ月以内に再燃し,再度CEを施行した.回腸にびらん,白苔をともなう隆起性病変を認め,出血源と断定した.回腸部分切除術を施行し,pyogenic granulomaと確診した.
症例は60歳代,男性.精神科病院に長期入院中,発熱,嘔吐を認め,救急搬送された.炎症反応上昇,溶血所見,急性腎障害がみられ,CTで胸腹水と,直腸壁外の浮腫状変化,air densityを認めた.搬送前日に施行された浣腸による直腸損傷と限局性腹膜炎,グリセリン血管内流入にともなう溶血と急性腎障害と診断した.グリセリン浣腸は,直腸損傷および溶血尿をきたした報告が本邦でも散見され,留意する必要がある.
66歳,男性.血清Ca値と副甲状腺ホルモン関連蛋白(PTHrP)の高値の他,膵尾部腫瘍と肝右葉の腫瘍を指摘された.超音波内視鏡ガイド下穿刺吸引生検により膵腫瘍は高~中分化型腺癌の他,扁平上皮への分化を疑う成分がみられ,腫大リンパ節から扁平上皮癌が認められた.PTHrP産生膵癌と診断し,化学療法と高Ca血症に対する加療を行った.PTHrP産生膵癌の組織型は腺扁平上皮癌が比較的多いが,自験例は転移巣で扁平上皮への分化を確認し得た.