GERDの病態と診療に関しては多くの研究が行われ,その病態がほぼ明らかとなり,治療法も確立されたと考えられてきた.ところが,実際には胸やけや呑酸が一般的な胃酸分泌抑制療法に反応せず,治療に困難を感じることは少なくない.最近,このようなGERD例には食道の知覚過敏が存在していることがあると考えられている.知覚過敏として,中枢性の知覚過敏とともに食道粘膜局所の炎症が末梢性の知覚過敏を引きおこしている可能性が指摘されている.食道粘膜の炎症が知覚神経系に及ぼす影響を詳細に検討するとともに,食道粘膜局所の知覚過敏をターゲットとした治療法の研究と開発が望まれる.
裂孔ヘルニアが逆流性食道炎発症の原因である食道内の過剰な酸曝露に及ぼす影響については,必ずしも明確でない.近年,食後の胃内の食事層の上方に出現する酸の層が食後の酸逆流の供給源として注目されている.この酸の層はacid pocketと呼ばれる.Acid pocketが裂孔ヘルニア内に存在する場合には,酸逆流の主なメカニズムである一過性下部食道括約筋(LES)弛緩時に高頻度に酸逆流をともなう.裂孔ヘルニアと食道内酸排出に関しては,常時ヘルニア囊を有する症例において,ヘルニア内と食道内圧の圧勾配により,ヘルニア内に酸が存在する場合には,嚥下にともない酸がヘルニア内と食道内の移動を繰り返す結果,食道酸排出時間が延長する.
本邦のGERD疫学について最近の動向を総説した.1990年代後半から著明に増加してきたGERD有病率は最近緩やかな増加に留まっている.日本人の酸分泌能がこの20年間で変化していないことやGERD概念が既に広く浸透したことが要因と思われる.一方,Helicobacter pylori除菌療法の普及,睡眠障害の増加,肥満や内臓脂肪との関連などは,GERD疫学に影響を与える新たな因子といえる.一方,非びらん性GERDについては,Rome IV基準で提案されている病的な酸逆流と関連しない逆流過敏症や機能性胸やけとの鑑別により,疾患概念が変化しつつある.
最近のGERD診療では,従来のプロトンポンプ阻害剤(PPI)では治癒に至らない,または症状の残存するPPI抵抗性GERDがかなり含まれていることが認識され,それに対する対策が課題となっている.これに対して,24時間pH-インピーダンスモニタリング法を中心とした精密検査を用いて,PPI抵抗性GERDの病態解明が進むとともに,従来のPPIより酸分泌抑制作用の強いカルシウム競合型アシッドブロッカー(P-CAB)の登場で,治療薬の選択肢が広がっており,PPI抵抗性GERD診療の一助となっている.
薬剤抵抗性GERD(胃食道逆流症)に対する標準的治療は,Nissen手術に代表される外科手術である.いわゆる難治性GERD症例には,食道裂孔ヘルニアが存在し,その解剖学的修復のために外科手術が行われる.腹腔鏡下逆流防止手術は,小さい皮切しか残らず,手術時間2時間以内の安全性の高い手術であり,外科手術のなかで低侵襲手術の代表格である.さらに最近では,滑脱型を有さない食道裂孔ヘルニア症例に内視鏡的噴門形成術(ARMS)を施行している.これまでに92例の症例にARMSを施行した.24時間pH-impedance検査や症状スコアでも有意な改善がみられ,新しい内視鏡治療として成立しうると考えている.
原因不明消化管出血(OGIB)の長期予後に基づくマネジメント方法について検討した.対象は,2004年6月から2015年12月にOGIBに対して当院にて小腸カプセル内視鏡(CE)を施行した386例のうち,可視的出血をともなうovert OGIB症例318例で,その臨床的特徴と再出血予測因子について後方視的に検討し,再出血予測モデルを作成した.Overt OGIBの再出血予測因子は,CEにおける小腸血管性病変の存在,輸血歴,年齢60歳以上であり,それらの予測因子の保有数を参考にすることで,再出血率の推測が可能となり,個々の症例に対する適切なフォローアップ期間を提案できる可能性が示唆された.
症例は65歳の男性.上腹部痛のため当院へ救急搬送となった.腹部CTにて,free airと胃角部小彎に胃壁の断裂を認め,胃潰瘍穿孔の診断で緊急手術となった.約2週間後,上部消化管内視鏡検査を施行したところ,胃角部小彎に潰瘍と胃体上部大彎に緑黄色調の胃石を認めた.胃石が胃潰瘍の原因になったと考えられ,後日,コーラ溶解療法を併用した内視鏡的破砕術を施行した.胃潰瘍穿孔をともなう胃石はまれであり,報告する.
症例は87歳女性.4カ月持続する食後のつかえ感に加え,突然の嘔吐と黒色吐物を認め当院受診.胃,十二指腸,横行結腸が脱出したMorgagni孔ヘルニアと食道裂孔ヘルニアを認めた.上部消化管内視鏡検査後に胃十二指腸は還納し,食後のつかえ感は消失した.後日ヘルニア修復術施行.患者は胸部打撲を含む複数回の転倒歴を有し,経時的な胸部X線の経過からヘルニア形成の過程を追えたまれな1例を経験した.
症例は73歳男性.黒色便を主訴に当科を受診した.上部消化管内視鏡検査を行い,胃前庭部小弯,胃角部小弯,胃体上部後壁に計3つの2型病変を認め,生検でtub2,por,sigの診断となった.胃全摘術を施行し,最終病理診断は5多発胃癌で,主病巣が大細胞型内分泌細胞癌,副病巣4つが腺癌であった.胃内分泌細胞癌に腺癌を合併した症例は極めてまれであり,報告する.
症例はC型肝硬変,肝細胞癌でフォロー中の77歳の女性.肝硬変にともなう血小板減少症のため,過去のラジオ波焼灼術(RFA)の際は血小板輸血を行っていた.その後2度肝細胞癌再発を生じ,いずれもRFAを行った.RFA前にルストロンボパグを使用することで2度とも血小板輸血を回避できた.同一患者にルストロンボパグを再投与した際の有効性,安全性に関する報告はなく,貴重な症例と考えられた.
症例は61歳男性.胃癌(Stage IIB)術後5年半時の腹部CTで,肝下部下大静脈背側に3cm大の腫瘤を認め,化学療法を施行するも1年半で6cm大に増大し,精査加療目的にて当科に紹介受診した.精査により無症候性paraganglioma(PG)と診断し,腫瘍摘出術を施行,術後第11病日に退院した.今回,胃癌術後経過観察中に生じた無症候性PGの1切除例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.