わが国の対策型胃がん検診は長く胃X線検査のみが認められてきたが,2016年に内視鏡検査の推奨が決まり,変革期を迎えている.血清検査によるリスク層別化診断は公的な推奨はないものの,低侵襲で安価な胃がん検診として全国に広がっている.また,最大の危険因子H. pyloriの保菌率低下によってリスク層別化が可能になり,画像検査における感染診断が胃がん検診に反映されるようになった.今後,任意型検診も含め,さまざまな胃がん検診の使い分けが予想されるが,正確な全国統計の欠如,医療資源の地域格差,X線読影医の不足,AI(人工知能)活用への整備,胃がん検診の将来に関する議論の遅れなど,解決すべき問題が山積している.
胃がんX線検診は,1950年代から本邦において研究が開始され,1960年代には対策型検診として全国に普及した.現在は,対策型検診として内視鏡検診と併用されている.これまで,胃がん対策型検診の中心として活用され,胃がん死亡者数低減に貢献してきた胃X線検診について,時代的変遷を含めて概説する.胃がんによる死亡率減少を目的とした対策型検診に活用されてきた胃X線撮影法は二重造影法を中心とした基準撮影法に統一され,粘膜の微細な凹凸を描出することにより,早期胃がんの発見を可能としている.われわれの検討では,胃X線検診で発見された胃がん症例の5年生存率は90%を超え,胃がん死亡の低減に貢献できたと考えている.
国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」の2019年がん統計予測によると,胃がんの罹患数は第2位,死亡者数は第3位を占めており,依然本邦におけるがん対策において,最重要がん腫の1つに位置付けられている.「有効性評価に基づく胃がん検診ガイドライン2014年版」において,胃内視鏡検診の胃がん死亡率減少効果が認められ,対策型・任意型検診としての実施が推奨されるようになった.胃内視鏡検診の精度管理を行うためには,がん検診受診率,要精検率,がん発見率,陽性反応適中度といったプロセス指標や感度・特異度の算出が必要である.本稿では胃がんの内視鏡検診の現状と今後の展望について概説する.
H.pylori感染胃炎を中核とする胃癌発生の自然史に関する理解がすすみ,癌発生リスクの把握が可能になって来た.その結果,胃癌検診効率化を視野に,血液検査によるH.pylori感染胃炎ステージ診断・胃癌リスク評価に基づくリスク検診が検討されている.いまだ理論的な段階に留まるものであるが,今後,安定したシステムの登場が期待される.“いわゆるABC検診”に関しては,受診者の不利益を回避する上で,現状のシステムの導入には慎重であるべきで,実施可能なシステム・責任ある体制の構築のために,充分な検討が必要である.その他,本稿では血液検体による胃癌診断の現状・検診導入の可能性について概説する.
がんゲノム医療中核拠点病院が整備され,がんの遺伝子パネル検査が保険診療として開始された.がんゲノム医療中核拠点病院・拠点病院の指定案件の1つとして,遺伝カウンセリング部門の整備がある.遺伝カウンセリングとは,対象者(クライエント)の既往歴・家族歴などから考慮すべき遺伝性腫瘍やその確定検査(遺伝学的検査)についてクライエントとともに考える臨床の場である.個人のがんリスクを診断する重要なツールの1つとして,遺伝性腫瘍の遺伝学的検査がある.残念ながら多くの遺伝性腫瘍の遺伝学的検査は本邦では保険未収載であるが,近年では商用ベースで利用可能な遺伝子パネル検査も揃ってきた.本稿では,遺伝性腫瘍の診療について消化器病専門医に期待される役割について概説する.
蛋白分解酵素阻害薬膵局所持続動注療法(動注療法)は,重症急性膵炎に対する特殊治療として1990年代より全国で実施されてきた.最近になり,その有効性を疑問視する臨床研究の報告が相次ぎ,さらに動注療法が保険未収載であるため,急性膵炎診療ガイドライン2015[第4版]では推奨されなくなった.そのため,動注療法の有用性を検証し保険収載を見据えた多施設共同ランダム化比較試験が計画され,医師主導治験として実施された.その結果,動注療法の静注療法に対する優越性は証明されず,むしろ安全面の問題が指摘された.現在の重症急性膵炎診療の中で,侵襲的な動注療法を行うメリットはないと考えるべきであろう.
日本人を対象に,慢性便秘が健康関連quality of life(HR-QoL)および労働生産性に与える影響を調査した研究報告はない.そこで2017年のNational Health and Wellness Surveyの日本人データから慢性便秘のHR-QoLおよび労働生産性への影響をSF-12v2,WPAI:GH v2.0を用いて評価した.慢性便秘自己報告者3373名のHR-QoLおよび労働生産性は,慢性便秘を有さない26628名と比較して有意に低く,腹部症状併発者ではHR-QoLがさらに低かった.慢性便秘は日本人のHR-QoLおよび労働生産性に負の影響を与えることが示唆された.
80歳代男性.非小細胞肺癌に対してニボルマブが投与開始された1年後に下痢を認め当科を受診した.精査の結果,非連続性の大腸壁肥厚と胆管炎を認めた.免疫関連有害事象を疑ったが,入院後の血液培養および便培養からEdwardsiella tardaが検出されたため,細菌性大腸炎と確定診断した.培養などの基本検査を怠らず,慎重に診療にあたることの必要性を示唆する貴重な症例と考え,今回報告する.
潰瘍性大腸炎に合併した神経内分泌細胞癌症例を経験した.症例1:38歳時に潰瘍性大腸炎を発症,53歳時に直腸癌の診断で手術を施行,切除後の病理検査にて神経内分泌細胞癌と診断された.術直後に肝・肺転移を疑う結節が出現し,現在化学療法施行中である.症例2:59歳時に潰瘍性大腸炎を発症.72歳時にS状結腸腫瘍と多発肝腫瘍を指摘された.生検にて神経内分泌細胞癌と診断,化学療法を導入するも1年後に原病死した.
IgG4関連自己免疫性肝炎と肝炎症性偽腫瘍の合併例を経験した.症例は80歳代女性.肝障害,IgG高値を認め自己免疫性肝炎を疑い肝生検施行,IgG4関連自己免疫性肝炎と診断された.その後肝腫瘤が出現,肝炎症性偽腫瘍と考えられた.IgG4関連自己免疫性肝炎はIgG4関連疾患の肝実質病変とされ,一方,炎症性偽腫瘍の一部もIgG4関連疾患と考えられている.両疾患の合併の報告はなく,貴重な症例と考えた.