直腸癌の治療は結腸癌に比べて難しく,長期予後も結腸癌に比べて不良である.手術においては剥離断端を陰性にするのが重要であるが,狭く深い骨盤内での手術操作は容易ではない.技術の進歩により肛門温存率も高まってきた.近年は腹腔鏡手術の普及が目覚ましいが,技術的難度は高く注意が必要である.また,ロボット手術や経肛門アプローチなどの新しい方法も注目されている.外科治療のみならず放射線化学療法などの集学的治療の役割もより大きくなり,手術せずに根治を目指したり,縮小手術により可能な限り臓器を温存する試みも欧米を中心に行われてきている.治療方針の決定のために画像診断の役割が非常に大きく,今後のさらなる進歩が期待される.
直腸癌の画像診断では,原発巣の拡がり,リンパ節転移の有無,遠隔転移の有無と程度に加えて肛門温存の可否を評価する必要がある.CT colonographyの登場により,遠隔転移診断と同時に腫瘍の局在と腸管の走行を立体的に描出できるようになった.また,進行下部直腸癌に対しては腫瘍の深達度とリンパ節転移診断のみならず,Circumferential resection margin(CRM)を評価するためにMRI検査が必須となっている.MRIによりCT検査では困難であった肛門管近傍の詳細な情報を得ることもできる.本稿では変化しつつある直腸癌における画像診断について,最近の知見を中心に述べる.
直腸の粘膜下層浸潤癌(T1癌)に関しては,切除後の再発率が結腸と比較して高いこと,外科手術は術後のQOL(quality of life)低下をきたし得ることが大きな問題点である.内視鏡的粘膜下層剥離術(endoscopic submucosal dissection;ESD)は術後肛門機能に影響をほとんど与えず,高い一括切除率を得ることができる有用な切除法として確立しているが,現状での適応は転移再発リスクが低いと判断される粘膜下層軽度浸潤癌までに限られる.さらなる手技の発展や外科手術とのコラボレーション,アジュバント療法の確立により,内視鏡治療の適応拡大とより低侵襲な直腸癌治療の実現が期待される.
直腸癌に対する集学的治療は欧米における標準治療であり,本邦でもその重要性が認識されつつある.術前(化学)放射線療法は複数の臨床試験で効果が証明されたevidence-basedな治療であり,局所再発の減少がその主なメリットであるが,遠隔転移発生率,生存予後は改善しない.さらなる予後改善を目指し,術前の全身化学療法を組み合わせたより強力な集学的治療が開発され,臨床試験が行われている.近年では,集学的治療後に完全奏効が得られた直腸癌に対する非手術療法(Watch & Wait療法)も大きな話題である.本邦において集学的治療を普及させる課題として,適応患者の選定と側方郭清の位置づけが重要である.
直腸癌に対する外科治療は,手術術式と医療機器の進歩により,腫瘍学的根治と患者のQOLの向上を実現してきた.現在,直腸癌に対する手術アプローチには,開腹手術・腹腔鏡手術・ロボット手術・TaTMEの4つがあるが,それぞれ一長一短があり,明らかな優越性は報告されていない.また癌の進行度・占拠部位,患者の性別・体型,さらに術者・施設の状況はさまざまであり,症例ごとにそれぞれの方法のメリット・デメリットを考慮し手術アプローチを選択する必要がある.癌個別化医療の推進とともに,直腸癌に対する外科治療も個々の病態に応じてより安全かつ有効な治療を提供することが求められている.
亜鉛は300種類以上の酵素の活性中心または補酵素として働くことから,生命維持にとって不可欠な微量元素であり,亜鉛欠乏により多彩な症状が出現する.従来,本邦では治療薬として承認された亜鉛製剤はなかったが,2017年3月,ウィルソン病に対して長期の安全性と効果が認められていた酢酸亜鉛水和物が低亜鉛血症に対して効能追加となった.慢性肝疾患の患者では低亜鉛血症の頻度が高く,低亜鉛血症の病態が種々の自覚症状の出現のみならず,肝線維化の進展や肝発癌リスクの増加と深い関係があることが近年明らかとされた.今後,酢酸亜鉛水和物による治療が普及するものと推測され,亜鉛欠乏と慢性肝疾患に対する知見を概説する.
42歳男性.難治性潰瘍性大腸炎(UC)の診断で,手術適応として当科に紹介受診.術前に横行結腸と胃の間に瘻孔を認め,内瘻合併UCと診断したがCrohn病の可能性も考え,結腸亜全摘,回腸人工肛門,S状結腸粘液瘻造設,胃部分切除を施行.術後にUCと診断し,二期的に回腸囊肛門管吻合術を施行した.UCにも内瘻を合併することがあり,内瘻合併例に手術を要する際はCrohn病の可能性も考え分割手術が望ましい.
症例は82歳,男性.胆囊底部に2.5cm大の腫瘤を認め,胆囊癌の診断で,胆囊摘出術,胆囊床切除術,リンパ節郭清術を施行した.病理結果は胆囊腺扁平上皮癌であり,後日施行した抗G-CSF抗体を用いた免疫染色検査で陽性となった.術後25日目に多発する肝腫瘤を認め,多発肝転移再発の診断となり,術後97日目に死亡した.術後早期に肝転移再発し急速に増大したG-CSF産生胆囊腺扁平上皮癌を経験したので,報告する.
症例は69歳男性.患者希望のため肺異型カルチノイド肝転移を無治療で経過観察したところ,顔面紅潮,下痢などが出現し,カルチノイド症候群を発症した.オクトレオチド徐放性製剤の効果は乏しく,肝動脈塞栓術を行い症状は改善した.しかし肝転移巣のviable lesion増大によるクリーゼを発症し,オクトレオチド高用量投与,肝動脈塞栓術,肝転移巣切除を行い,症状コントロールに成功した.
70歳代女性.心窩部痛,肝胆道系酵素,アミラーゼの上昇を認め当科紹介受診.CTおよびMRCPにて胆管,膵管の拡張を認めたが,胆道結石や腫瘍は認めなかった.内視鏡では,巨大傍乳頭憩室内に食物残渣が充満しており乳頭開口部を確認できなかった.結石除去用バルーンカテーテルを用いて,内視鏡的に憩室内の残渣を除去して憩室辺縁の乳頭を露出させた.乳頭部に腫大や腫瘤はなかった.憩室内の処置のみで症状,血液検査所見,胆管・膵管の拡張は速やかに改善した.