炎症性腸疾患(IBD)の診断治療は大きく進歩を遂げてきたが,いまだその病態は完全には明らかになっていない.クローン病(CD)は,自然免疫と関連した疾患感受性遺伝子(NOD2やオートファジー)が報告され,食物抗原や腸内細菌によるTh1,Th17免疫応答がその病態の中心と考えられている.一方潰瘍性大腸炎(UC)は,食物抗原の関与や腸内細菌の変化はCDほど明確ではなく,CDでは認められない上皮細胞や間質細胞の形質,機能変化とTh1,Th17免疫応答に加えてTh2免疫応答がその病態に深く関わっている.さらに,治療抵抗性の病態にIL-1βの関与が示唆されている.
IBDは原因不明の慢性炎症性疾患である.遺伝的素因(疾患関連遺伝子)と環境因子が関与する多因子疾患と考えられており,腸管免疫と腸内細菌叢との関係が注目されている.腸管免疫は,腸内細菌叢や食物抗原に対し過剰な免疫応答をおこさないように常に恒常性が保たれている.その恒常性が破綻し,免疫活性化状態が持続するのがIBDと考えられる.病態には炎症性サイトカインなどの多くの分子が関与するが,従来は副腎皮質ステロイドのように免疫全般を抑えるような治療が行われてきた.しかし,抗TNF-α抗体製剤の成功を契機に腸管免疫を標的とした分子標的治療の開発が進んでおり,その内容も抗体製剤から低分子化合物へと移りつつある.
炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease;IBD)は再燃寛解を繰り返す慢性疾患で,原因不明である.現在,治療のターゲットの中心となっている腸管免疫のほかに,遺伝的素因・環境因子が複合的に関与して発症することが想定されている.近年,腸内細菌叢がこれらの要因のいずれとも関与していることが明らかとなり,腸内細菌叢の組成の乱れ,いわゆるdysbiosisを是正する治療概念についてさまざまな研究が行われている.いまだ確立されていない概念だが,将来的に難治のIBD患者にとっての光明となりうる.本稿では,IBDの病態における腸内細菌の関与と治療の可能性について概説する.
炎症性腸疾患は消化管に原因不明の慢性炎症をきたす一方,同時に粘膜組織などの破壊・機能欠損が生じる.このため,治療の過程では破壊・損傷した粘膜組織を再生・修復し,正常な機能を回復することが重要であり,「粘膜治癒」を目標に掲げるT2Tの考え方に通じている.組織の再生・治癒の過程では当該組織に内在する幹細胞の機能が極めて重要な役割を果たす.このような観点から,炎症性腸疾患においても造血幹細胞・間葉系幹細胞に加え,腸上皮幹細胞を利用した治療法の開発が検討されてきた.本稿では,いわゆる再生医療の考え方で用いることが可能となっている治療,開発の途上にある治療について,病態との関わりを辿りながら展望する.
炎症性腸疾患診療はさまざまな治療薬の登場などにより大きく進歩した.しかし,いまだに原因不明の慢性炎症性疾患であることには変わりない.診療の目標は寛解導入・維持によるQOL・予後の改善であり,粘膜治癒が治療目標として重要である.腸管粘膜の状態,炎症の活動性,腫瘍や狭窄などの合併症の有無を見るためには内視鏡は精度が高く,有用である.近年内視鏡機器,技術にも進歩が見られ,精度の高い診断・治療が可能となっている.寛解維持率の向上に加え,内視鏡診療レベルも向上し,外科手術を必要としていた潰瘍性大腸炎にともなうdysplasiaやクローン病における小腸狭窄などの合併症に対しても,低侵襲内視鏡治療が可能となっている.
炎症性腸疾患(IBD)患者の基幹病院と地域中核病院における医療連携の確立は,本邦において重要な課題となっている.本研究は,北海道内の多施設による後ろ向きコホート研究とアンケート調査から,その診療実態と医療連携構築の課題を明らかにすることを目的とした.その結果,IBD患者の基幹病院へ集中と診療格差が明らかとなり,地域中核病院での病院機能,メディカルスタッフのIBD診療理解度の低さが逆紹介の課題と考えられた.課題の解決には,重症度に応じた診療の棲み分け,教育活動やチーム医療の充実化が重要と考える.基幹病院と地域中核病院でIBD医療連携が進むことで,IBD診療の均てん化を実現できると考える.
症例は75歳,男性.48歳時に他院にて胃癌の手術歴がある.心窩部不快感の精査目的に当院を受診した.血清AFP異常高値であり,腹部CTでは肝外側区に長径55mm大の腫瘤性病変を認め,残胃への直接浸潤を示す所見であった.残胃の浸潤部から内視鏡下に生検を施行し,胃癌の肝転移再発であることが病理学的に証明された.AFP産生胃癌は仮に根治切除が得られたとしても,術後長期間厳重な経過観察が必要と考えられた.
79歳女性.下部消化管内視鏡検査でRbに30mm大の結節混在型のLST-Gを認め,ESDにて切除した.病理診断では大部分が腺腫も,一部にCD56・シナプトフィジン陽性およびクロモグラニンA陰性の腫瘍増殖が存在し,神経内分泌癌の併存を認めた.脈管侵襲をともなっていたため追加切除を行ったところ,神経内分泌癌成分のリンパ節転移を認めた.腺腫と神経内分泌癌の併存病変というまれな症例を経験した.
65歳女性.検診目的に前医で行われた下部消化管内視鏡検査にて盲腸憩室内に約1cmの平坦隆起性病変を指摘され,切除目的に当科紹介となった.憩室内病変,前医生検がGroup 5の診断であることより穿孔のリスクを考慮し,over-the-scope clip(OTSC)を用いたEMR(EMRO)を選択し,合併症をおこすことなく,完全切除し得た.