非ステロイド性消炎鎮痛薬,アスピリンによる消化管障害発症機序は古くから検討され,その詳細が明らかにされている.病態生理の理解から選択的COX-2阻害薬の粘膜障害性が少ないことが示され,ガイドラインで推奨されている.アスピリンによる上部消化管傷害はプロトンポンプ阻害薬で管理できるが,長期服用者の下部消化管障害についてはさらに検討が必要である.直接経口抗凝固薬については消化管出血リスクに差があり,患者の背景を考慮した薬剤選択が必要である.最近注目されている免疫チェックポイント阻害薬の腸炎,下痢の病態は炎症性腸疾患と類似し,免疫関連有害事象としての理解と管理が必要と思われる.
消化管傷害を惹起する代表的な薬剤は,非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)である.NSAIDsは,粘膜のprostaglandin量を低下させるとともに,topical effectと呼ばれるミトコンドリアを標的とする上皮細胞傷害をおこし,粘膜のバリアー機能を破綻させる.その結果,炎症反応が誘導され,組織傷害が発症する.小腸では,グラム陰性菌によるToll-like receptor 4の活性化が炎症の起点となる.その他,抗がん剤,特に免疫チェックポイント阻害剤による大腸炎,microscopic colitis,スプルー様腸疾患などが注目されており,それぞれの発症機序の解明が望まれている.
薬剤起因性消化管傷害は,消化管出血の主な原因の1つである.中でも非ステロイド抗炎症薬や低用量アスピリンの服用者における消化管傷害が,高頻度でかつ服用者が多いことから臨床的に重要である.わが国では高齢化の進行にともなって,経年的な消化管機能の低下や,抗血栓薬などの消化管リスクを有する併用薬の増加など,消化管傷害・出血を助長しうる変化が進行中であり,今まで以上に注意する必要がある.上部消化管傷害に対しては酸分泌抑制薬が有効な対策であるが,長期処方による副作用とのバランスを考慮して個々に検討する必要がある.小腸,大腸の粘膜傷害については対応策が定まっておらず,その確立が望まれる.
本邦において,抗血栓薬を使用する患者数は増加しており,それにともなう合併症である消化管出血も頻度が高くなっている.加えて,近年では上部消化管や大腸以外に小腸にも抗血栓薬による粘膜傷害が発症することがわかっており,薬剤性消化管粘膜傷害の予防にあたり全消化管を保護するという視点が必要である.抗血栓薬服用時の消化管出血に際して,抗血栓薬を中止することは血栓症発症リスクが高くなり,重篤な続発症を招く可能性があるため,出血リスクと血栓症リスクを循環器医や神経内科医らとともに検討し,中止の可否を慎重に決定することが重要である.
近年,抗血栓薬服用者に対して消化器内視鏡検査や治療を行う機会が増えており,日本消化器内視鏡学会は2014年に抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドライン,さらに2017年には抗凝固薬に関する追補2017を発表した.これらは,内視鏡診療時に抗血栓薬の休薬によって血栓症を発症させてはいけないとのコンセプトのもとに作成された.粘膜生検において抗血栓薬の休薬は不要とした.出血高危険度手技において血栓塞栓症リスクが高い場合には,アスピリンかシロスタゾールの継続下で治療は可能とした.抗凝固薬の服用時はヘパリン置換を避けて,PT-INRが治療域であることを確認してワルファリンの継続下またはDOACの当日休薬での対応が推奨されている.
早期胃癌の深達度診断において,X線検査が内視鏡検査に対し,どの程度上乗せ効果があるかについて,当院で診断した早期胃癌84病変(分化型62病変,未分化型22病変)を対象に後方視的に検討した.対象病変全体の正診率は内視鏡検査75%,内視鏡検査+X線検査82.1%と,X線検査により7.1%の上乗せ効果が得られた.ULの有無では分化型,未分化型ともにUL0の病変でX線検査の上乗せ効果が高い傾向であった.腫瘍径では30mm以下の分化型,21mm以上の未分化型で,部位別ではU領域の病変で,X線検査の上乗せ効果が高い傾向であった.病変に応じてX線検査を追加することは,早期胃癌の深達度診断に寄与すると考えられた.
症例は60歳代男性.腹痛を繰り返し自覚したため当科へ紹介受診となった.造影CTで前下膵十二指腸動脈瘤と後腹膜血腫を認め,緊急コイル塞栓術を行った.動脈瘤の成因は臨床的にsegmental arterial mediolysis(SAM)と考えられた.その後血腫は縮小傾向にあったが,虚血性変化を疑う十二指腸下行脚の狭窄を併発し,保存的治療を行い,経過良好のため退院となった.
70歳代男性.アルコール性肝硬変を背景とした門脈血栓症に対してアンチトロンビン(AT)III製剤を投与した.投与終了後2日の時点で血栓溶解できた.門脈血栓は溶解後の再発も知られており,再発予防の維持治療としてエドキサバンを導入した.導入4カ月後も門脈血栓は再発せず経過している.「ATIII製剤+エドキサバン」の組み合わせが,肝硬変を背景とした門脈血栓症治療の選択肢になりうると考える.
症例1は40歳代男性,症例2は60歳代女性.ともに膵内に造影CTで多血性腫瘤,超音波内視鏡検査(EUS)で多発病変を認め,EUS-FNAにて膵神経内分泌腫瘍(PanNET)と診断し,これを契機として多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1)の診断に至った.PanNETの一部はMEN1を背景に発症するとされ,今回,PanNETを契機にMEN1の診断に至った2例を経験したので報告する.