非アルコール性脂肪肝から脂肪肝炎への発症メカニズムは十分に解明されていない.病態を構成する因子が複合的であることから,多様な視点からの研究が必要である.本稿では,非アルコール性脂肪性肝疾患の病態研究に関して,特にこの1年間の進歩に焦点を当て,興味深い研究をいくつか取り上げた.1)肝細胞死に直接関わる脂肪毒性,2)肝細胞障害に引き続く炎症細胞浸潤,3)細胞外小胞と細胞間コミュニケーション,4)臓器相関の1つともいえる腸内細菌叢,5)細胞死と脂肪代謝の双方に関与するオートファジー,などに関して,重要な知見が報告されており,今後の研究の展開が期待される.
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は,世界的な肥満人口の増加を背景として,その増加が全世界規模で大きな公衆衛生上の問題となってきている.多数の疫学研究を統合した結果,全世界規模での非飲酒者に占めるNAFLDの割合は,25%と推定された.NAFLDは内臓肥満を背景としてインスリン抵抗性を主因におこってくる疾患であるため,メタボリックシンドロームの構成因子である脂質異常症,糖尿病を合併,新規発症することが多い.また遺伝素因の関与が濃厚に疑われる疾患でもあり,近年いくつかの疾患感受性遺伝子多型が報告されている.
NASHは,非飲酒者にもかかわらず脂肪性肝炎を認め,進行性病態をとる疾患群として報告された.以降,NASHの診断にはさまざまな議論がなされ,病理診断基準に関しても,さまざまな基準が報告されてきた.また病態に関しても,現在のNASH/NAFLDは非飲酒者の色々な脂肪肝を呈する病態を含有しており,新たな分類・診断基準の確立が望まれる.また,診断・病態に関する新たなバイオマーカーの研究,画像診断の研究が進んでいる.今後肝生検することなしに,NASH,NAFLDの診断が可能になる時期も近いと思われる.
サルコペニアは加齢による骨格筋減少症と定義される.肝疾患によるサルコペニアは,栄養障害や肝機能低下,加齢などを原因としている.このような背景の中,日本肝臓学会のワーキンググループによって診断基準が示された.サルコペニアは肝硬変や肝細胞癌,肝移植後の予後を規定する因子とされ,最近NASHにおける肝線維化との関連が報告された.サルコペニアに対しては栄養・運動療法あるいは薬剤による治療が有用との報告がある.このようなサルコペニア対策が肝疾患患者における生命予後延長をもたらすのかが臨床上の大きな関心となっているとともに,NAFLDやNASHとの関連についての研究の発展が期待される.
NAFLDはメタボリックシンドロームの肝臓における表現型と考えられるが,このうち進行性の病変としてNASHの発症機構が注目されている.われわれは最近,新しいNASHモデルマウスの開発に成功し,メタボリックシンドロームを背景として,どのようにしてNAFLD/NASHを発症するのかに関する手掛かりを得てきた.過剰な脂肪蓄積により細胞死に陥った実質細胞(脂肪細胞・肝実質細胞)とマクロファージや線維芽細胞などの間質細胞の相互作用の場として,肥満の脂肪組織とNASHの肝臓に共通するcrown-like structures(CLS)あるいはhepatic CLS(hCLS)に着目し,NAFLD/NASHの発症機構の解明と早期発見・発症前診断のためのバイオマーカーや治療戦略の開発が期待される.
ウイルソン病は原因不明の肝機能障害,肝硬変における鑑別診断の1つである.多くは幼少期に診断されるが,成人後に肝硬変として発見される症例も経験する.血清セルロプラスミン,尿中銅などの測定にて診断可能な症例もあるが,診断に苦慮し,ATP7B遺伝子変異検査や肝組織中銅含有量測定が必要な場合もある.米国肝臓病学会,ヨーロッパ肝臓学会から診断ガイドラインが提唱されており,本邦でも2015年にウイルソン病診断ガイドラインが発表され,診断困難例においても,各ガイドラインに従った診断が可能となった.当科でのウイルソン病症例を各ガイドラインの診断基準,フローチャートを用いて検討し,その有用性を報告する.
62歳,男性.心窩部痛の精査で十二指腸潰瘍を認め,プロトンポンプ阻害薬を投与されたが効果なく紹介となった.潰瘍は灰白色で,潰瘍底に線維化が目立った.造影CT検査で膵頭部に蛇行拡張した血管構造を認め,膵動静脈奇形(膵AVM)が疑われた.血管造影検査を行い膵AVMと診断した.最終的に膵AVMにともなう十二指腸潰瘍と診断し,膵頭十二指腸切除術を行った.難治性十二指腸潰瘍の原因に膵AVMも考慮すべきである.
症例は64歳,女性.切除不能膵癌と診断し化学療法を施行した.病勢進行期に著明な白血球増加を認めた.血清中G-CSFは高値を示し,第511病日に死亡した.剖検を施行して,抗G-CSFモノクローナル抗体による免疫組織染色は,膵癌原発巣および肝転移巣の低分化腺癌部分で陽性であったが,高分化型管状腺癌部分では陰性であった.浸潤性膵管癌の脱分化の過程で,G-CSF産生腫瘍へ変化した症例と思われ,報告する.
症例は89歳女性.貧血の精査目的に当院へ紹介となった.消化管精査のために大腸内視鏡を施行したが,検査後2日目より腹痛が出現し,横隔膜ヘルニアによる腸閉塞と診断した.待機的に腹腔鏡下ヘルニア修復術を行った.大腸内視鏡が横隔膜ヘルニアの契機となった報告は非常にまれであり,特に外傷の既往のある症例における内視鏡に際しては本症の可能性を考慮する必要がある.
十二指腸憩室穿孔は急性腹症のまれな原因の1つであり,多くは観血的処置を必要とする.しかし近年,保存的治療が奏功する例も報告されている.今回,われわれは保存的に治療し得た特発性十二指腸憩室穿孔の2例を経験した.いずれも後腹膜の遊離ガスは限局し,全身状態も保たれていたため,保存的加療を開始し改善した.ただ増悪時には速やかに手術に移行可能なよう,外科との緊密な連携が不可欠である.
症例は77歳男性.健診の腹部USで膵腫瘤を指摘.CTでは膵頭部に造影効果のある隔壁構造をともなう3.5cm大の類円形の囊胞性病変,MRIでは隔壁および被膜構造部分はT1強調画像で高信号,T2強調画像で低信号を示した.造影USでは早期に被膜および隔壁に強い造影効果を認めた.亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を行い,紡錘形細胞が束状に増殖し,S-100陽性,SMA陰性を示すことから,膵神経鞘腫と診断した.