GERD(Gastroesophageal reflux disease),FD(Functional dyspepsia),IBS(Irritable bowel syndrome),さらに慢性便秘症などの機能性消化管障害は,これからの消化器疾患の診療と研究の中心となる可能性がある.口腔から肛門に至る消化管にはさまざまな機能があり,各臓器の機能に応じた機能検査が考案され,診断や病態の解明,さらに治療効果の評価に用いられている.しかしながら,現在,本邦で保険適用下で行える検査は嚥下運動の評価,24時間食道内pHモニタリングや食道内圧検査,下部消化管では肛門内圧検査に限られている.今後,増加すると考えられるSIBO(small intestinal bacterial overgrowth)や胆汁性下痢など,新たな疾患も増加する可能性もあり,本邦で消化管の機能検査が実臨床で行える体制作りが望まれる.
食道つかえ感を主訴とする機能性食道運動障害は,患者のquality of life(QOL)を大きく障害する.近年,solid state sensorを有するhigh-resolution manometry(HRM)が開発され,シカゴ分類を用いてより簡便な食道運動機能の評価が可能となった.食道HRMは世界中で臨床・研究両者で汎用されるようになったが,シカゴ分類を用いても評価困難な症例も存在し,今後の改訂に期待したい.また,high-resolution impedance manometry(HRIM)の登場により,今後さらなる食道運動生理学の病態評価が進むと考えられる.
消化管疾患の日常診療では,主に血液生化学検査や画像診断により病態の把握,診断や治療効果の評価が行われているが,これらの検査では原因を特定できない機能性消化管疾患の診療では消化管機能検査がしばしば有効である.しかしながら,消化管機能検査の多くは保険収載されておらず,日常的な臨床検査として活用されていないのが現状である.13C呼気試験およびドリンクテストは非侵襲的で簡便に行うことができ,機能性ディスペプシアや胃切除後障害患者における症状出現や病態悪化の原因となる消化管機能異常を特定し治療に活かせることから,機能性消化管疾患に対する有効な診断ツールになることが期待される.
食道では胃食道逆流症および食道アカラシアに対して,pHモニタリング,インピーダンスなどが行われている.胃では,世界的には排出能に関してはラジオアイソトープ法が,知覚やgastric accommodationに関してはバロスタットが標準法であるが,超音波法,アセトアミノフェン法,ドリンクテストによる評価も行われている.小腸においては呼気による口-盲腸通過時間,大腸においてはマーカー法による通過時間評価などが行われ,直腸肛門に関しては従来から専門施設で排便造影などの詳細な検査が行われている.実施診療ではなじみの薄い検査もあるが,今後診療の質を高めるために実施しうる体制を整備していくことが必要であろう.
消化管運動機能異常は機能性消化管疾患をはじめ種々の疾患の病態に関与し,消化器症状の主要な原因の1つである.そして消化管運動機能検査は,これら疾患の診断,病態の解明,治療法の選択などにとって重要である.消化管運動機能検査には多くのものがあるが,現在日本では日常臨床に普及したものは極めて少ない.消化管運動機能検査を実用化・普及させるためには,未承認,適応外の検査薬や機器の薬事承認,そして検査の健康保険への収載が必要である.このためには薬事承認,適応拡大,保険収載への一連のプロセスと治験,先進医療などについての薬事システムを十分理解し目標を見据えたうえで,臨床研究を進めることが重要である.
症例は80歳・男性.貧血精査に当科紹介受診され,GAVEによる出血を認めた.APC処置などにて一時的には病態は落ち着くも易再発性,難治性の経過を辿り,頻回の輸血,APC処置を要した.脾静脈・左腎静脈シャントに対してカテーテル塞栓術を行った後に貧血,GAVE所見が安定,軽減した.本症例ではシャント閉塞によりガストリンなどの液性因子の影響が軽減したことで,GAVE改善に至った可能性があると考えられた.
75歳女性.食欲低下を主訴に当科を受診された.精査にて消化管悪性リンパ腫と診断し化学療法を開始したが,2カ月後から嘔気が出現した.CTでは空腸壁肥厚像と口側腸管の拡張を認めたが,PET-CTでは異常集積は認めず.瘢痕狭窄の疑いにて小腸切除術を腹腔鏡下に施行した.病理組織では腫瘍は消失し肉芽組織のみであった.消化管悪性リンパ腫では化学療法後に瘢痕狭窄をきたす症例があり,治療の際に留意すべき重要な合併症と考えられた.
65歳男性,38年前に大腸憩室膿瘍で小腸結腸側端吻合を施行,今回高熱と右下腹部痛で入院となった.造影CTでアメーバ性肝膿瘍と腸管アメーバ症を疑ったため,下部消化管内視鏡を行った.小腸結腸側端吻合の回腸盲端内に不整形潰瘍と偽膜を認め,迅速検鏡で栄養型アメーバ虫体を認めた.非常にまれな回腸盲端内が主病巣である,腸管アメーバ症より発症をした肝膿瘍の1例を経験したので報告をする.
症例は69歳女性.急性膵炎の精査目的に施行したCT検査で多脾症および膵体尾部欠損と,十二指腸下行脚を取り囲む膵実質を認めた.ERCPで副乳頭は同定できず,主乳頭は通常の十二指腸下行脚内壁側ではなく外壁側に存在し,足側に向かう短小な膵管と,十二指腸右側から肝門部へ向かう胆管が造影された.多脾症に膵体尾部欠損症と輪状膵を合併した1例と診断したが,同様の報告は極めて少なく,文献的考察を加えて報告する.
胆道悪性疾患に発症したShewanella algae(S. algae)菌血症を3例経験した.Shewanella属感染症の報告は増加傾向であるが,本邦での報告例は少ない.今回の症例はいずれも肝胆道疾患,悪性疾患,60歳以上の男性という特徴を有しており,これまでの報告と同様であった.致死率は高く,前述の特徴のある例ではShewanella感染症を念頭に迅速な治療が必要と考えられる.