胆道癌診療は標準化が難しい領域である.発生部位ごとの病態・解剖が多彩で,病態も多彩である.施設間の診療も異なっている.治療に関して,これまで化学療法の効果は限定的であったが,最近では比較的治療効果の高い薬物治療も登場してきている.さらに遺伝子異常を標的とした治療も臨床応用され,予後の改善が期待されている.手術に関しては,補助化学療法の開発やconversion surgery,肝移植がトピックスになっている.胆道ドレナージに関しても,切除例・非切除例ともにその課題が明らかになってきている.本稿では,胆道癌診療の現状と最近の進歩,そして解決すべき課題について解説する.
胆道癌の診断には擦過細胞診や胆管生検が用いられるが,いずれも検体が小さいために診断に難渋することが多く,十分な経験と慎重な判断が求められる.分子病理学の最近の進歩により胆管癌の区別,特に肝内胆管癌と肝外胆管癌の差異が明確になった.また,分子標的薬の適応により,FGFR2を含めた遺伝子解析が求められる.今後期待される分野では,細胞診や生検検体での遺伝子パネルを用いたシークエンスが挙げられる.本稿では,これらの点を中心に解説する.
胆道癌は肝内胆管癌,胆管癌,胆囊癌,乳頭部癌に分類され,胆管癌がさらに肝門部領域胆管癌と遠位胆管癌に分類され,それぞれの癌占拠部位・生物学的特性から悪性度・進展様式が異なる.正確な画像診断において,MDCT(multi detector CT)所見は,内科・外科・放射線診断科医が共通認識可能であるため,artifactのない状態で撮像することで最強の診断ツールとなる.腫瘍の肝門側・十二指腸乳頭側への進展および周辺動脈への浸潤の術前診断が重要である.病理検体採取は,ほぼ内視鏡を用いて行われる.最近,癌ゲノムや,表層進展診断にはFISH(fluorescence in situ hybridization),共焦点レーザー内視鏡が応用され,報告されている.胆道癌の精査から切除までは,胆道の内視鏡診療・切除に特化した施設で行われるのが望ましい.
胆道癌外科切除は高難度,高リスクである.現在の本邦でも胆管切除や膵頭十二指腸切除をともなう肝切除の90日死亡率は5~10%超程度存在し,海外でも10%超の死亡率を呈する.高リスク性は世界共通の社会問題でもあることを認識する必要がある.一方,その累積生存率は1年82%,3年53%,5年39%,中央生存期間は3.2年と,不良である.最も予後がよいと推定される,M0N0かつR0切除群でさえ5年生存率は64%である.高リスク低リターンの性格を持つ外科切除では,安全と効果のバランスを保ちつつ手術適応と術式選択を行う必要がある.海外では選択された症例の肝移植が切除よりも成績が良好なため,その適応が広がっている.
胆道癌薬物療法の標準療法は,長らくゲムシタビン+シスプラチン(GC)療法であったが,本邦ではゲムシタビン+S-1療法,ゲムシタビン+シスプラチン+S-1療法が標準療法に位置付けられた.また最近になり,免疫チェックポイント阻害薬とGC療法の併用が,一次治療として標準療法に加わった.二次治療以後では,がんゲノム医療の進展の中でFGFR阻害薬が薬事承認された.胆道癌において,更なる薬物療法の進展が期待される.
64歳女性.SARS-CoV-2 mRNAワクチン(3回目)の接種翌日から排便回数増加,血便,腹痛,発熱を認めた.下部消化管内視鏡検査にて全大腸に深掘れ潰瘍を認め,潰瘍性大腸炎と類似する炎症性腸疾患としてステロイド,インフリキシマブを導入し軽快した.mRNAワクチン接種を契機に発症した潰瘍性大腸炎に類似する炎症性腸疾患を経験した.
症例は50歳代女性で関節痛と下痢,発熱を主訴に受診した.大腸内視鏡では散在するびらんを認めた.その後,四肢のしびれ,蛋白尿,皮疹が生じ血管炎症候群疑いで入院となった.入院時に腹痛,血便があり,大腸内視鏡を再検すると多発びらんが増悪し,生検で腸管虚血を示唆する所見を認めた.未治療のC型慢性肝炎があり血清クリオグロブリンが陽性であることから,C型肝炎ウイルス関連混合性クリオグロブリン血症性血管炎と診断した.
症例は62歳の男性,右季肋部痛で当院を紹介された.来院時の腹部超音波検査で胆囊の壁肥厚を認めたが,結石などは指摘されなかった.造影CT検査では腹腔動脈幹から固有肝動脈にかけて広範囲な動脈解離と胆囊粘膜の虚血性変化が疑われた.壊疽性胆囊炎が疑われたため,腹腔鏡下胆囊摘出術を施行した.病理では胆囊壁の壊死性変化を認め,虚血性胆囊炎と診断された.動脈解離による虚血が起因した無石胆囊炎はまれであり,報告する.
症例は70歳男性で,発熱,腹痛で受診し,肝右葉に腫瘤性病変を認め,3カ月後には腹膜播種結節と腹水の出現を認めた.肝腫瘍生検や審査腹腔鏡では診断に至らず,原病の悪化により約5カ月後に永眠された.病理解剖を行い,最終的に肉腫様肝内胆管癌と診断した.臨床所見,病理所見が類似している点で,肉腫様肝内胆管癌と肉腫型悪性腹膜中皮腫との鑑別が困難であった.今後両疾患における有効な診断法や治療法の確立が望まれる.
70歳代,男性.黄疸を主訴に受診.ERCPで胆管末端部から乳頭部に狭窄像を,胆管内超音波検査では乳頭部に内側高エコー層の肥厚を認めた.乳頭深部からの生検で腺癌を疑い,膵頭十二指腸切除術を施行した.術後病理では乳頭部を主座に腺管過形成と平滑筋増生をともなう壁肥厚を認め,その粘膜上皮や腺管にlow-grade BilIN,一部の腺管にはhigh-grade BilINが観察されたことから,腺筋腫性過形成に併発した上皮内癌と診断された.