膵癌取扱い規約,膵癌登録が開始され,約40年を迎える.早期膵癌の定義はないが,Stage 0と1cm以下のStage Iが候補となる.膵癌発生と進展様式も解明されつつあり,PanINを起点とした多段階発癌,LP typeが現在診断されている上皮内癌に相当すると考えられ,限局性の主膵管狭窄,膵実質の萎縮,脂肪化,低エコー域が特徴である.現状ではCT,MRCP,EUSが診断法の中心となるが,膵管像に着目した診断がポイントとなり,ERCPとENPD細胞診を行う必要がある.膵癌リスク,間接所見を有する患者の囲い込みが効率的である.新規バイオマーカー,分枝膵管の評価を可能とする診断機器の開発が期待される.
近年,膵癌早期診断を目指して,地域医療連携を生かした活動報告が散見されている.たとえば,危険因子を複数持つ症例に対し,連携施設で腹部US,採血などを施行,膵管拡張や膵囊胞性病変などを認めた場合,中核施設に紹介,外来で施行可能な画像検査を行い,精査すべきかを判断する.尾道市医師会では2007年から前述のプロジェクトを展開し,5年生存率の改善などの成果が現れ,他地区からも地域の実情に応じた同様の取り組みの結果,切除率の向上や早期診断例の増加などの成果が報告されている.本稿では膵癌早期診断に関して,国内で展開されている地域医療連携を生かした取り組みの現状を概説する.
効果的な膵癌スクリーニングのためには高危険群を適切に囲い込むことが必要である.膵癌のリスクファクターとして,膵癌家族歴や糖尿病,膵囊胞などが知られているが,単一のリスクファクターを持つだけでは高危険群とはいい難く,更なる絞り込みが必要である.膵癌家族歴であれば家系内の膵癌患者数が,糖尿病であれば罹病期間が絞り込みの糸口と考えられる.膵囊胞のうち膵管内乳頭粘液性腫瘍については,発癌リスクの高い症例を絞り込む画像所見などがガイドラインで提唱されている.また,複数の危険因子の組み合わせも考慮すべきであろう.今後はメタボローム解析や血液中マイクロRNAなど新たなバイオマーカーの開発も期待される.
膵癌診療ガイドライン(2016年版)で,長期予後が期待できる早期の膵癌とは腫瘍径が1cm以下と記載された.小膵癌をみつけるのに,画像検査で“腫瘤を探す”から,明らかな腫瘤が出現する前に微小な腫瘍による二次的変化である“膵管の異常を拾い上げる”にシフトし,さらなる画像検査と病理診断を行う流れが全国的に構築されつつある.早期膵癌発見に有効なバイオマーカーが存在しない現状では,小膵癌の臨床学的特徴を踏まえて対象者を囲い込んでいくスクリーニング戦略が求められている.最近の膵癌バイオマーカーに関しての論文も合わせて紹介する.
“早期膵癌”は,治る癌(5年生存率が90%以上)と定義される.“早期膵癌”に含まれるものは,de novo発生の通常型膵癌では,1)“上皮内癌”と,2)“膵内に限局し最大径5mm以下のT1a浸潤癌”が候補に挙げられる.adenoma-carcinoma sequence発生の腫瘍は,囊胞内に限局した非浸潤癌である.adenoma-carcinoma sequence発生の浸潤癌は,浸潤部の組織型や浸潤の定義が一定でなく,予後も不明であり,問題が多く,“早期膵癌”の定義は難しい.また,膵癌の予後は,リンパ節転移の有無により大きく左右されることから,“早期膵癌”は,リンパ節転移陰性が必要条件である.
入院患者に対する免疫学的便潜血反応検査(FOBT)による大腸癌スクリーニング検査の有用性を検討した.当院で大腸癌スクリーニング検査としてFOBT(1日法)を受けた予定入院患者472名(平均年齢68.6歳)を対象とした.要精検者率は26.6%(126/472名)であったが,精検受診率は34.9%(44/126名)にとどまった.大腸腫瘍発見率,大腸癌発見率,および大腸癌に対する陽性反応的中度は,各々5.5%(26/472名),1.4%(7/472名),および5.5%(7/126名)と大腸癌検診の成績に比し高率であった.入院患者に対するFOBTは,侵襲なく効率的に大腸癌を発見しうる手法と考えられる.
胃癌の内視鏡的marking法として,リポ蛋白と結合すると蛍光を発する性質を利用したindocyanine green(ICG)蛍光法が有用であるか検討した.手術3日前に内視鏡的に胃癌の周囲にICG溶液を粘膜下層に注入し,開腹時にphotodynamic eye(PDE)カメラで,腹腔鏡下手術では蛍光内視鏡で観察した.さらに術後切除標本を利用して蛍光輝度,蛍光の拡がりを観察した.早期胃癌8例,進行胃癌6例を対象とした結果,全例において術中切除範囲の決定に同法が有用であった.今後ICGの注入量,タイミングの技術的な面での検討が必要と考えられた.
65歳男性.進行胃癌術後3年目に,嘔吐,体重減少が出現した.各種検査で食道アカラシア様の所見を認めた.①壮年層の発症,②短い有症状期間,③著明な体重減少を三徴とするTucker's criteriaを満たし,二次性アカラシアを疑った.原因として胃癌術後再発を疑い,審査腹腔鏡にて確定診断に至った.二次性アカラシアの診断には,Tucker's criteriaが有用であると考えられた.
症例は20歳代,男性.摂食時の胸痛を主訴に当院を受診した.心疾患は否定され,内視鏡検査,食道造影検査で異常所見を認めず,食道内pH/インピーダンスモニタリング検査でも胃食道逆流症を含めた酸関連疾患は否定的であった.標準プロトコールでの高解像度食道内圧検査で食道は正常蠕動であったが,固形物摂取による同検査で胸痛をともなう痙攣性異常収縮を認めた.以上より,食道運動異常症に起因する非心臓性胸痛と診断した.