日本消化器病学会雑誌
Online ISSN : 1349-7693
Print ISSN : 0446-6586
104 巻, 11 号
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総説
  • 木下 芳一, 天野 祐二
    2007 年 104 巻 11 号 p. 1573-1579
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/11/05
    ジャーナル フリー
    胃炎は,その成因,主な存在部位,内視鏡による肉眼形態,組織学的変化の4つの因子によって分類されている.内視鏡検査は胃炎の検査としてまず行われる検査であり胃内全体の粘膜を検索することができる.このため,胃炎の内視鏡所見と上腹部症状を1対1に対応させることが可能であれば,上腹部症状を有する例の症状の原因を内視鏡検査で確定し,最良の治療を行ううえで有用となる.ところが,内視鏡により同定可能な胃炎像と上腹部症状の関係についての検討は少ない.萎縮性変化は上腹部症状との関係は低く,nodular gastritisを含む前庭部の胃炎は心窩部痛や嘔気の原因になりやすい可能性が報告されている.今後の統一された評価方法を用いた多施設,多サンプルでの検討が必要である.
今月のテーマ:ディスペプシア症状への対応
  • 本郷 道夫, 遠藤 由香
    2007 年 104 巻 11 号 p. 1580-1586
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/11/05
    ジャーナル フリー
    胃もたれ,胃の痛みはきわめて日常的に遭遇する上腹部愁訴である.このような症状があっても基質的病変をともなわない機能性ディスペプシア/機能性胃腸症は頻度の高い症候群である.その病態には,さまざまな要因が関与している.消化管運動異常,内臓知覚過敏が特に重要な要因として研究が行われるものの,それ以上に心理社会的要因が無視できない.患者の症状に対する受容と共感,病態の説明と保証,生活指導は治療の上できわめて重要な要素となる.薬物療法は,消化管運動賦活薬,酸分泌抑制薬,抗不安薬を中心として行う.
  • 荒川 哲男, 富永 和作, 藤原 靖弘
    2007 年 104 巻 11 号 p. 1587-1593
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/11/05
    ジャーナル フリー
    機能性ディスペプシアの症状はpostprandial distress syndrome(PDS)とepigastric pain syndrome(EPS)の2種類で前者が80%を占める.PDSはさらに胃もたれ感と摂食早期の飽満感の2つのサブタイプに分かれる.胃もたれ感は胃排出能の低下,摂食早期の飽満感は胃貯留能とくに胃適応性弛緩不全が症状発現の機序と考えられる.一方,EPSは心窩部痛と心窩部灼熱感に分かれるが,両者とも胃酸依存性と考えられる.ただしいずれのタイプであっても内臓知覚過敏の存在が大きく,同じ強さの内圧や酸度を健常人より敏感に感じて症状出現に至る.内臓知覚過敏は抑うつ,不安など中枢性の異常と関連性が深いため,胃機能障害の改善のみでなく,脳-胃相関を見据えた中枢からのアプローチも治療手段として重要である.
  • 三輪 洋人, 大島 忠之, 富田 寿彦
    2007 年 104 巻 11 号 p. 1594-1600
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/11/05
    ジャーナル フリー
    ディスペプシア患者は多くの症状を持ち,またそれを的確に表現しているとは限らない.さらに症状は時間とともに変化していくことから,症状に基づいて治療薬を決定するという戦略は危険であり,ディスペプシア患者に対しては共通の診療アルゴリズムに基づいた科学的治療が必要であろう.わが国では,これら患者は慢性胃炎という保険病名の下で治療されており,個々の医師が自分の経験などに基づいて処方薬を判断しているが,その効果はほとんど検証されていない.著者はプロトンポンプ阻害薬を中心とする酸分泌抑制薬を第1選択とし,運動機能改善薬や精神神経作用薬を第2選択薬として用いるという治療戦略が望ましいと考えている.この背景にはピロリ菌感染率の減少,食事を含んだ生活習慣の欧米化などを原因とする日本人の酸分泌能の増加がある.この分野に関するわが国のエビデンスはいまだ少ないが,今後日本人でのエビデンスに基づいてディスペプシアに対する共通の治療戦略を構築していく必要がある.
原著
  • 小林 慎二郎, 大坪 毅人, 小泉 哲, 吉利 賢治, 片桐 聡, 古川 達也, 山本 雅一, 高崎 健
    2007 年 104 巻 11 号 p. 1601-1606
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/11/05
    ジャーナル フリー
    レシチンによって小粒子化したリピオドールエマルジョンを用いたTAE(TAE-L)を大型肝細胞癌に対して施行し,その効果を検討した.通常のリピオドールTAE施行群(A群)20例とTAE-L施行群(B群)27例を対象としてretrospectiveに検討した.治療3カ月後の奏効率はA群10.0%, B群37.0%(P=0.046)で,6カ月後ではA群5.0%, B群33.3%(P=0.029)であった.生存期間中央値はA, B群でそれぞれ12.0カ月,23.0カ月(P=0.049)であった.リピオドールにレシチンを加えることでTAEの効果が増強すると考えられた.
  • 境 吉孝, 鹿志村 純也, 池谷 伸一, 草野 昌男, 小島 敏明, 大楽 尚弘, 小島 康弘, 樋渡 信夫
    2007 年 104 巻 11 号 p. 1607-1613
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/11/05
    ジャーナル フリー
    ESTを用いた総胆管結石の採石術において,小結石にもかかわらず採石困難な例をときどき経験した.その症例においてEPBDを行ったところノッチ(乳頭括約筋が影響している部分)が形成され,それを解除することにより容易に採石が可能であった.そこで,EST後のノッチがどの位の割合で,どのような症例に存在するのかをプロスペクティブに検討した.その結果,EST後にもかかわらず25%(13/52)にノッチ形成を認めた.ノッチの形成はnarrow distal segmentの長い症例において有意に高率であった.ESTを施行しても25%でノッチが残存し,そのような症例では採石が困難となる可能性があることが示唆された.
  • 宇野 良治, 長岡 康裕, 奥田 耕司, 神島 雄一郎, 大黒 聖二, 下国 達志, 青木 貴徳, 浜田 弘巳, 高田 譲二, 勝木 良雄
    2007 年 104 巻 11 号 p. 1614-1624
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/11/05
    ジャーナル フリー
    超細径上部消化管内視鏡を使用して直接的経口胆管鏡検査(PDCS)を施行した.症例は結石や腫瘍で総胆管に狭窄·閉塞を有する10症例でPDCSの有用性と問題点を評価した.内視鏡が肝門部胆管へ先進するための左回転によるUループは9例で可能であった.Uループが形成されずαループであった1例においても総胆管全体の観察が可能であった.大きな生検鉗子が使用出来るため十分な組織採取が可能であった.また,EHLによる砕石術と切石術は直接鮮明な画像で観察出来るため安全で容易であった.挿入時のpneumobiliaは全例に生じた.PDCSに関連した腹痛,発熱はなかったが一過性の白血球増加を認めた.
症例報告
  • 阿久津 典之, 坂本 裕史, 中垣 卓, 佐藤 裕信, 松居 剛志, 小林 寿久, 高村 毅典, 能戸 久哉, 桂巻 正, 平田 公一, 今 ...
    2007 年 104 巻 11 号 p. 1625-1631
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/11/05
    ジャーナル フリー
    59歳,女性.平成13年2月に近医にて,肝腫瘤を指摘され紹介となった.CTではlow density areaとして描出され,生検にて炎症性偽腫瘍と診断されたが,平成15年6月に多発小嚢胞をともなう病変と変化した.エキノコックス抗体陽性から,肝エキノコックス症の診断にて,肝左葉切除術が施行された.肝エキノコックスの初期病変には,嚢胞や石灰化などを認めないことがあり,注意を要すると考えられた.
  • 日野 照子, 井出 達也, 唐原 健, 是此田 博子, 河野 弘志, 久持 顕子, 久原 孝一郎, 鶴田 修, 神代 龍吉, 佐田 通夫
    2007 年 104 巻 11 号 p. 1632-1638
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/11/05
    ジャーナル フリー
    症例は57歳,女性.C型慢性肝炎に対し2004年4月よりインターフェロンα2b·リバビリン併用療法を開始した.治療開始後41週目に下腹部不快感と40°Cの発熱が出現した.細菌性腸炎を疑い抗菌剤の投与を行ったが約2週間高熱は持続した.下部消化管内視鏡検査を施行したところS状結腸の粘膜下腫瘍様隆起より排膿を認めた.各種画像検査より虫垂炎が波及して回盲部膿瘍が形成されS状結腸に穿破したものと判断した.
  • 住谷 大恵, 高山 尚, 新井 弘隆, 森 一世, 飯塚 春尚, 佐川 俊彦, 小野里 康博, 石原 弘, 小川 哲史, 阿部 毅彦
    2007 年 104 巻 11 号 p. 1639-1644
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/11/05
    ジャーナル フリー
    症例は78歳男性.平成15年3月,肝細胞癌破裂をきたし緊急血管造影施行し止血.平成16年12月,右肺転移出現し右肺下葉部分切除施行.今回,平成17年10月,脾転移巣の破裂をきたし緊急部分的脾動脈塞栓術にて止血した.CT上腫瘍の残存が疑われたため脾摘を追加施行し現在再発なく外来通院中である.脾臓に転移し,原発巣と転移巣の両方で異時性に破裂し救命しえた極めてまれな肝細胞癌の生存例と思われる.
  • 大谷 圭介, 植木 敏晴, 清水 愛子, 藤村 成仁, 大塚 雄一郎, 戸原 恵二, 松井 敏幸, 田村 智章, 大重 要人, 岩下 明徳
    2007 年 104 巻 11 号 p. 1645-1651
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/11/05
    ジャーナル フリー
    症例は50歳代の男性.微熱と右季肋部痛で入院した.超音波検査では胆嚢体部に高輝度エコーの腫瘤を認め,その底部側の胆嚢壁は著明に肥厚していたが,頚部側に異常はなかった.底部側の胆嚢壁はパワードプラ法,造影CT上血流は検出されなかったが,造影超音波検査では,血流は低下していたものの壁全体が造影された.胆嚢捻転症と診断し,腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行した.Gross I型の遊走胆嚢で,胆嚢頚部は反時計回りに軽度捻転していた.造影超音波検査により胆嚢捻転症の血行動態を詳細に観察し得た,胆嚢頚部部分捻転の1例を報告した.
  • 永田 夏織, 木原 康之, 江口 良司, 中村 早人, 芳川 一郎, 大槻 眞
    2007 年 104 巻 11 号 p. 1652-1657
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/11/05
    ジャーナル フリー
    症例は56歳男性,主訴は上腹部痛,背部痛.1995年に重症急性膵炎の既往があり,その後も腹痛発作を繰り返していた.2000年7月上旬から腹痛が増強し,腹部CTで膵頭部の腫大,膵仮性嚢胞が認められたため,当科に入院した.上腹部痛と背部痛,膵酵素高値を認めたため,メシル酸ナファモスタットを投与した.しかし,腹痛が持続したことから,膵仮性嚢胞による疼痛と考え,入院8日目に酢酸オクトレオチド(50μg)を皮下注射したところ,投与3時間後より腹痛の増強と膵酵素の上昇が認められた.酢酸オクトレオチドによる急性膵炎の増悪と考え投与を中止したところ腹痛は改善した.酢酸オクトレオチドによるOddi括約筋の収縮あるいは膵血流低下による虚血により急性膵炎が増悪したと考えられた.膵仮性嚢胞の治療薬として酢酸オクトレオチドは有用だが,使用早期から膵炎が発症する可能性があることから,本薬剤使用に当たっては早期から注意深い観察が必要である.
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