肝疾患におけるサルコペニアの誘因として,蛋白エネルギー低栄養状態,性ホルモンの異常,アンモニア高値と分岐鎖アミノ酸(BCAA)低値などが挙げられる.特に,アンドロゲンの低下とアンモニア高値は筋蛋白合成を直接阻害するとともに,ミオスタチンを誘導する.このため,肝疾患ではサルコペニア合併率が高く,肝疾患は二次性サルコペニアの代表格である.さらに,サルコペニア合併者は予後不良であるため,サルコペニアを診断し適切な介入を行うことは肝疾患の臨床において重要である.このため,日本肝臓学会は,2016年に肝疾患におけるサルコペニア判定基準を策定した.本基準の根拠を示すとともに,今後検討を要する点についても言及する.
慢性肝疾患患者,特に肝硬変患者においてサルコペニアの頻度は,11~68%で高率であると報告されている.また肝硬変患者,肝癌患者(内科的治療・外科的治療),肝移植患者のいずれにおいても,サルコペニア合併は肝機能とは独立した予後因子である.そこでサルコペニアの統一評価のため2016年日本肝臓学会によって,握力による筋力とCTあるいは生体電気インピーダンス法による骨格筋量を評価することで診断する『肝疾患におけるサルコペニア判定基準』が作成された.サルコペニア合併慢性肝疾患患者への介入として,運動や分岐鎖アミノ酸などの栄養補助の有用性が報告されており,今後多数例での前向きな検討が必要である.
肝胆膵移植外科領域においては,手術患者の高齢化による一次性サルコペニア患者の増加に加え,術前低栄養や担癌状態,手術侵襲,術後臥床による活動性の低下など,二次性サルコペニアを有することが多く,サルコペニアは重要な意義を有する.われわれは,肝胆膵移植外科領域において,術前サルコペニアや内臓脂肪肥満が予後不良因子であることを明らかにした.したがって,従来の術前評価に加え,筋肉量や質,内臓脂肪などの体組成評価は,患者の全身状態や耐術能,予後を正確に評価するためにきわめて有用である.今後,肝胆膵移植外科領域において,サルコペニアをターゲットとした栄養・リハビリ介入が予後向上のブレークスルーとなるであろう.
サルコペニアは本邦の慢性肝炎患者の約30%,肝硬変患者の約40%に認められる合併症である.近年,サルコペニアは日常生活動作や生活の質に関わるだけでなく,肝発がんや患者予後にも関わる重要な病態であることが明らかになっている.慢性肝疾患患者におけるサルコペニアは,加齢に加えて低栄養状態,アミノ酸インバランス,高アンモニア血症,性腺機能低下,身体活動量の低下などさまざまな要因が関与するため,多角的な治療が重要と考えられる.本稿では,慢性肝疾患患者におけるサルコペニアに対する栄養・運動療法と薬物療法について概説する.また,現在臨床試験が進行している新規治療薬についても合わせて論述する.
現在,欧米での強毒変異株の出現によって難治性の再発性クロストリジウム・ディフィシル感染症(rCDI)が猛威をふるっている.2013年,オランダのグループがrCDIを対象とした糞便微生物移植(FMT)の臨床試験で画期的有効性を証明し,FMTは急速に注目を集めている.rCDI以外には炎症性腸疾患,過敏性腸症候群をはじめとしたさまざまな消化管疾患,さらには消化管外の疾患においてもFMTは試みられている.本稿では,rCDIにおけるFMTの成功からちょうど5年が経とうとしている2017年時点の今,FMTの歴史,現状を振り返って解説し,FMTの将来像について議論してみたい.
バルーン閉塞下逆行性経静脈的塞栓術(BRTO)は本邦オリジナルの孤立性胃静脈瘤の治療法である.全国で普及しているにもかかわらず,硬化剤として用いるモノエタノールアミンオレイン酸塩(EO)が適応外であったことが原因で,長い間BRTOは保険適用とされていなかった.われわれは,日本消化器病学会の協力の下,EOの医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)承認を目的とした医師主導治験を実施した.治験の成績を基にして,平成29年にEOは薬機法による「胃静脈瘤の退縮」の適応を取得することができた.さらに,平成30年度の診療報酬改定において「バルーン閉塞下逆行性経静脈的塞栓術」としてBRTOは保険適用となる見込みである.
高齢者の早期胃癌に対する内視鏡治療は,安全性においては一定の評価が得られているが,長期予後については報告が限られる.2001年から2010年の間に治療された80歳以上の高齢者の偶発症頻度と長期予後について,65歳以上80歳未満群と65歳未満群を対照に比較検討した.年齢中央値82歳,観察期間中央値6.0年で,生存期間中央値は8.0年,5年生存率は73%であった.偶発症は,誤嚥性肺炎11%,後出血5.7%,穿孔1.9%で,誤嚥性肺炎は有意に多かった.早期胃癌に対する内視鏡治療は,80歳以上の高齢者にも安全に施行でき長期予後も期待できる可能性が示されたが,治療後の誤嚥性肺炎には配慮が必要である.
症例は75歳,女性.C型肝硬変(Child-Pugh:6点)に対して直接作用型抗ウイルス薬(DAA)を開始され,4週目にHCV-RNAは陰性化した.しかし6週目に腹水が出現し,肝予備能悪化と判断してDAAを中止した.腹水は利尿剤投与を行い改善した.以後もDAAは中止継続していたが,HCV-RNAは陰性化が維持され持続性ウイルス学的著効(SVR)を達成した.SVR時の肝予備能はDAA開始時に比し改善を示した.
症例は83歳女性,造影CTで肝S7に20mm,S8に14mm大の辺縁が濃染する結節を認め,造影超音波の後血管相では完全欠損,MRI diffusion-weighted image(DWI)で淡い高信号,PET-CTではFDGの集積は認めず経過観察としたが,腫瘍濃染部が増大したため肝切除術を施行,両結節とも肝硬化性血管腫であった.同一症例で肝硬化性血管腫が多発するのはまれであるため,報告する.