日本消化器病学会雑誌
Online ISSN : 1349-7693
Print ISSN : 0446-6586
109 巻, 5 号
選択された号の論文の13件中1~13を表示しています
総説
  • 本郷 道夫, 町田 知美
    2012 年 109 巻 5 号 p. 703-709
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/05/28
    ジャーナル フリー
    多数の微小トランスデューサを連ねることで,消化管内圧を連続した空間での測定を可能にしたhigh-resolution manometry(HRM)は,これまでの消化管内圧測定では得られなかった新しい側面を明らかにしつつある.食道筋層の収縮によって得られる食道内圧を食道全体で連続的に観察記録し,カラーによる地図状の等高線表示をするトポグラフィーによって表示することで,食道運動にこれまでに知られていなかった生理学的特徴,新しい概念の病態生理学的異常があることが確認されるようになった.HRMによって得られる食道内圧トポグラフィーによる研究は,今後さらに新たな病態生理学的所見を見い出す手段となりうるであろう.
今月のテーマ:食道アカラシアの診断と治療
  • 岩切 勝彦, 川見 典之, 田中 由理子, 佐野 弘仁, 星原 芳雄, 野村 務, 松谷 毅, 萩原 信敏, 宮下 正夫, 坂本 長逸
    2012 年 109 巻 5 号 p. 710-721
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/05/28
    ジャーナル フリー
    アカラシアは下部食道括約筋(LES)の弛緩不全および食道体部の蠕動障害により,嚥下障害をきたす1次性食道運動障害の代表的疾患である.アカラシアの確定診断は食道内圧検査により行われるが内視鏡検査も有用である.LES弛緩不全を認めない場合には,下部食道を深吸気時に観察すると柵状血管の下端を含めた全体像が観察されるが,アカラシア患者では深吸気時にも柵状血管の全体像は観察されず,下部食道の狭窄部に集中する全周性の襞像が観察される.アカラシアのバルーン拡張術は有効な治療法の1つである.拡張術において重要なことは拡張時のバルーンの切れこみを消失させることであるが,切れこみは低圧な状態でも消失させることが可能であり,ゆっくりと低圧にて加圧することが重要である.最も使用される30mmバルーンでの当科における拡張術の治療成功率は約75%である.治療成功率に関連する因子は年齢であり,30歳未満の患者に対するバルーン拡張術の成功例はないが,30~40歳未満の患者での治療成功率は約60%,40歳以上では約85%である.
  • 岩切 龍一
    2012 年 109 巻 5 号 p. 722-727
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/05/28
    ジャーナル フリー
    本邦では,食道アカラシアの治療としては,内服加療,内視鏡的バルーン拡張術,手術療法による加療が一般的である.ボツリヌス毒素(BTX)は,運動神経終末でアセチルコリン放出を阻害して,亢進した下部食道括約筋圧を低下させ嚥下障害などの症状を改善する.欧米ではBTX局所注入による保存的加療が標準治療の1つとされている.BTX局注療法は,簡便かつ副作用がほとんどなく,投与法の工夫で他の治療に匹敵する効果を得ることができる.今後,本邦でも食道アカラシアの治療法の1つとして位置づけを検討する必要がある.
  • 井上 晴洋, 池田 晴夫, 細谷 寿久, 吉田 亮, 鬼丸 学, 南 ひとみ, 工藤 進英
    2012 年 109 巻 5 号 p. 728-731
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/05/28
    ジャーナル フリー
    食道アカラシアに対する新しい内視鏡的根治術として,POEM(Per-oral endoscopic myotomy)を開発して,これまでに210例(当院症例のみ)に施行した.適応は基本的にすべてのアカラシアであり,除外項目は設定していない.これまでに重篤な偶発症の経験はない.また症状の改善も顕著であることから,今後,食道アカラシアの標準治療になることが期待される.
  • 柏木 秀幸
    2012 年 109 巻 5 号 p. 732-740
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/05/28
    ジャーナル フリー
    食道アカラシアに対する外科治療としての筋層切開術は,1990年代の腹腔鏡手術の導入にともない,急速に増加しているが,同時に逆流防止手術を付加する術式が多く行われるようになってきた.逆流防止手術の中でもDor噴門形成術が多く用いられているが,逆流防止効果とともに切開部の粘膜を被覆することで術後の食道穿孔や憩室発生を予防する安全性が重要視されているからである.高い有効率と低侵襲性により,食道アカラシア治療の最前線に出てきたが,拡張治療などの前治療が手術成績に与える影響は少なくなってきている.若年者など拡張治療に対する抵抗性が予想される例では,治療の第1選択となりうる.
原著
  • 安部 良, 岡野 淳一, 今本 龍, 藤瀬 幸, 孝田 雅彦, 村脇 義和
    2012 年 109 巻 5 号 p. 741-750
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/05/28
    ジャーナル フリー
    初発肝細胞癌(HCC)で当科入院となった74症例を調査し,本邦の肝癌診療ガイドラインの遵守状況と有用性を検討した.ガイドラインを遵守し経過観察されていたサーベイランス群23例,遵守していなかった非サーベイランス群18例,偶発的に診断されたインシデンタル群33例の3群に分類し検討を行ったところ,サーベイランス群ではインシデンタル群と比べて進行度,生命予後とも良好であったが,サーベイランス群と非サーベイランス群との間には差を認めなかった.肝癌診療ガイドラインは,早期診断,予後改善にある程度有用であったが,医師および患者のHCC高危険群に対する認識の強化,肝炎ウイルスキャリア以外の高危険群の設定が課題と考えられた.
  • 中野 正和, 室久 俊光, 今井 康雄, 平石 秀幸
    2012 年 109 巻 5 号 p. 751-759
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/05/28
    ジャーナル フリー
    NAFLD 52例を対象に欧米で有用とされる肝線維化診断のためのスコアリングシステムの診断能について検討した.NAFLD fibrosis score(NFS)のAUROCは0.913と高値であり,ROC解析に基づき従来のlow cutoff値-1.455を-0.876に改変すると,線維化進展例の診断能は感度100%,特異度82.5%,陽性的中率63.2%,陰性的中率100%と良好な結果が得られた.本邦においてもNFSは線維化進展例の除外に有用であり,BMIが比較的低値とされる日本人に対してはlow cutoff値を-0.876に改変することで軽度線維化例との良好な鑑別が可能と考えられる.
症例報告
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