チオプリン製剤の投与の可否あるいは服用量の決定に有用なNUDT15遺伝子多型検査が実用化された.NUDT15はチオプリンの最終活性代謝産物を代謝する酵素で,その機能を低下させるコドン139の遺伝子多型がチオプリンによる一部の副作用の原因となっている.Cys/Cys型の患者はチオプリンを継続した場合に高度の白血球減少や全脱毛が必発のため服用を回避する.またArg/Cys型の患者は用量を減量すると服用は可能であるが,適切な用量とモニタリング方法については今後の課題である.より安全にチオプリンを活用するため,新たに治療を開始する場合は,必ず事前に遺伝子検査をして治療計画を立てることが求められる.
炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease;IBD)患者の増加にともない,難治例に対して免疫調節薬ならびに生物学的製剤を使用する頻度が増加している.現在,免疫調節薬を使用する理由は,主として(1)コルチコステロイドの減量,(2)生物学的製剤使用時の抗体産生抑制を目的としている.近年,急激な脱毛,白血球減少などのチオプリン製剤の副作用に関する遺伝子も報告された.さらに,riskとbenefitを踏まえた上で,チオプリン製剤の妊婦における使用が可能となった.IBD治療は生物学的製剤の時代ではあるが,われわれ臨床医はチオプリン製剤の有用性を改めて認識する必要がある.
抗TNFα抗体製剤の登場により炎症性腸疾患の治療は大きな変革を遂げた.抗TNFα抗体製剤の有効性を最大限に引き出し,効果減弱を防ぐために免疫調節薬の併用が検討される.一方で,併用療法では感染症や悪性腫瘍発生のリスクが増大するという報告もある.また,アジア人で認められるチオプリン製剤による急性白血球減少のリスクがNUDT15遺伝子多型で決定されることもわかり,事前スクリーニングが可能となった.これまで報告されたエビデンスをもとに抗TNFα抗体製剤治療における免疫調整薬併用の意義と課題について概説する.
カルシニューリン阻害薬としてCiclosporinとTacrolimusが,ステロイド抵抗性の中等症から重症の潰瘍性大腸炎の寛解導入治療として用いられている.カルシニューリン阻害薬は高い寛解導入率を示すが,長期的には大腸全摘率が高いことから寛解維持治療としてチオプリン製剤が推奨されている.しかし,チオプリン製剤のみで長期に寛解維持ができる患者は約半数である.さらに,カルシニューリン阻害薬治療前にチオプリン製剤による寛解維持に失敗した既往のある患者ではその有用性が低いことも念頭に置く必要がある.すなわち,カルシニューリン阻害薬を開始するにあたっては長期的な寛解維持を見据えた治療戦略が必要である.
妊婦IBDは妊娠前教育が重要である.妊娠転帰にIBDの活動性が関与し,薬剤中止は転帰悪化のおそれがある.寛解期であれば妊娠転帰は健常者と変わらない.受胎時を寛解で迎えれば,全妊娠期間中IBDは安定傾向である.動物実験の結果から長年禁忌だった免疫調節薬が,疫学研究の結果から有益性投与に変更された.薬剤の中止か継続の判断は,患者の活動性や薬剤代謝酵素変異の有無などを加味し,個々に慎重にされねばならない.高齢化社会が急激に進む中,高齢発症潰瘍性大腸炎が増加し,その活動性は非高齢者よりも高い.担癌患者,日和見感染,不顕性感染再燃,合併症など免疫調節薬を受けにくい諸問題があり,その治療法は非高齢者と区別する必要がある.
症例は77歳女性.高度な便秘,腹部膨満感のため当院紹介となり,CT検査,下部消化管内視鏡検査などで横行結腸および下行結腸に分節的な狭窄を認め,保存的治療で改善が得られず,外科的切除術を施行された.病理組織学的にMeissner神経叢およびAuerbach神経叢内の神経節細胞数の減少を認め,hypoganglionosisと診断された.術後は再発を認めていない.
症例は70歳,女性.201X-12年にH. pylori除菌療法を行った.早期胃癌で当科紹介となり,以後3回(201X-2年,201X-1年,201X年)内視鏡的粘膜下層剥離術を行った.1回目は体下部小彎の高分化型管状腺癌,2回目,3回目は体上部大彎,体中部大彎の褪色調の0-IIb病変であり,最終病理組織診断結果はいずれも胃底腺型胃癌であった.以後は異時再発なく経過している.
症例は57歳女性.SLEの加療中に嚥下時痛が生じた.上部消化管内視鏡にて,食道全長にわたる粘膜剥離が確認され,生検で容易に表皮が剥がれた.その後上肢や体幹,口腔粘膜などに水疱が出現し,皮膚生検により,水疱性ループスエリテマトーデスの診断に至った.水疱性ループスエリテマトーデスはSLEの経過中に生じる自己免疫性水疱症であるが,食道粘膜剥離をともなうことは稀少であるため報告する.
症例は40歳代,男性,常習飲酒家.右季肋部痛を主訴に近医を受診,肝機能障害を指摘され,精査目的に紹介受診した.造影CT,MRCPでは遠位胆管の狭小化を認め,上流側胆管が軽度拡張しており総胆管結石はみられなかった.胆管生検で癌細胞はみられなかったものの悪性腫瘍の可能性を否定できず,亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した.術後病理診断で,胆管断端神経腫様の神経増生をともなった腫瘤形成性慢性膵炎と診断された.
症例は49歳男性.B型肝炎治療中にCTでS4,S7に腫瘤を指摘.MRIではCTとは異なるS7に腫瘤を認め,S4に腫瘤はみられなかった.2カ月後のMRIではS7/6に新たに腫瘤が出現した.好酸球増多がみられたため寄生虫検査を行い,トキソカラ抗体陽性であった.肝トキソカラ症と診断し,アルベンダゾール内服にて腫瘤は消失した.好酸球増多,多発病変,腫瘤の自然消失は内臓幼虫移行症に特徴的な所見と考えられた.