良性硬化性胆管炎の診断・治療はPSC,IgG4-SCの診断基準,ガイドラインの策定により大きく進歩した.しかし,両疾患に属さない良性胆管狭窄病変はいまだに多くの臨床医を悩ませており,肝門部胆管癌として切除される症例が一定数存在する.さまざまな病因によるヘテロな疾患群であるまれな良性胆管狭窄の病態解明には,全国的な疫学調査,システマティックな病理学的コンセンサスの確立が望まれる.
良性胆道狭窄をきたす病態は多様で,その一部は特徴的な組織像を呈する.原発性硬化性胆管炎は古くから認識されている狭窄性胆道病変である.IgG4硬化性胆管炎は2002年から認識が広がり,現在では外科的切除される症例は大幅に減ったと考えられる.それ以外の病態として濾胞性胆管炎,虚血性胆管炎,好酸球性胆管炎,黄色肉芽腫性胆管炎がある.しかし,多くの症例は切除しても特定の診断がつかず非特異的な胆管炎といわざるを得ない.胆管狭窄の診断に,今後は遺伝子診断が用いられる可能性が高く,その診断プロセスの変化が良性胆道狭窄で外科的切除される症例をどの程度減少させるのか興味が持たれる.
悪性との鑑別が問題となる良性胆道狭窄として,さまざまな病態・疾患がある.悪性診断のつかない胆道狭窄に対して胆道内視鏡が用いられている.胆道内視鏡には内視鏡的逆行性胆管造影(ERC),超音波内視鏡(EUS),管腔内超音波(IDUS),経口胆道鏡(POCS),経皮経肝胆道鏡(PTCS)がある.それらの画像検査に加えて,病理学的診断のためにERC,EUS,POCSやPTCS下に,あるいはEUS-FNAで生検や細胞診がなされているが,良悪性の鑑別に苦慮する症例を経験する.悪性診断のつかない胆道狭窄の診断には,胆道内視鏡所見と病理所見を加味して行い,今後の方針を決定すべきである.
肝門部胆管狭窄をおこす病態の大部分は癌であるが,一部良性の病変も含まれる.両者の鑑別は難しく,時に良性病変が癌として切除されるのは珍しいことではない.2001~2016年の16年間に当科で肝門部領域胆管癌の診断で切除を行った707例中,22例(3.1%)が良性病変であった.この22例に手術関連死亡はなく,長期予後も良好であった.画像診断で癌が否定できない場合,組織学的に癌が証明されなくとも肝機能および全身状態に問題がなければ癌として手術を選択することは十分許容される.
PSC,IgG4-SCを除いた非特異的硬化性胆管炎は,先天性,結石,感染,手術損傷,薬物,虚血などを契機とするとされ,濾胞性胆管炎や好酸球性胆管炎などは,病理学的に胆管壁でのリンパ濾胞形成や好酸球浸潤などの特徴的な所見を認める.術前診断として,生検,細胞診などが行われるが,その良悪性鑑別には限界がある.また,術後再燃の報告もあることから,良性疾患であっても術後十分な経過観察が必要である.確実な診断を得られる検査は現時点では存在せず,現行の診断手技の精度を高くすることが現実的な対応であり,悪性疾患との鑑別困難な病態を念頭に置いた十分な患者説明を行い,胆道疾患診療に臨むことが重要である.
当院で入院中の潰瘍性大腸炎患者26人34病変に対し,超音波所見の血流,壁肥厚,層構造の不明瞭化と内視鏡所見の関係について後方視的検討を行った.腸管壁の血流は超音波Power Doppler法にて定量化した.血流,壁肥厚ともに,endoscopic Mayo Score(EMS)と有意な正の相関関係を示した.EMSは層構造が明瞭から不明瞭になるにつれ有意に増加した.EMS 3点の病変の検討では,10mm以上の潰瘍を有する病変は10mm未満の病変に比べ血流が有意に低下した.血流,壁肥厚,層構造の不明瞭化の所見は,腸管炎症を反映することがわかった.
小腸MALTリンパ腫の寛解後,1日に10行以上の水様性下痢・嘔吐による著明な脱水と腹痛による入院を繰り返していた.十二指腸潰瘍からの出血を認め,ガストリンが著明高値であったことからガストリノーマを疑った.ソマトスタチン受容体シンチで膵頭部に高集積を認め,超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA)により神経内分泌腫瘍と診断した.切除標本では3mm大の十二指腸粘膜下のガストリノーマ,上膵頭前部リンパ節転移であった.
症例は19歳,男性.来院6日前に38℃台の発熱があり,来院4日前に下痢が出現したため入院となった.入院翌日に血液培養が陽性となり,後日に血液および便検体からSalmonella sp.(O4群)が同定された.フルオロキノロン系抗菌薬を14日間投与し,症状は軽快した.非チフス性Salmonella症において菌血症を合併する例はまれであり,本症例が菌血症に至った要因に関して若干の文献的考察を加えて報告する.
症例は36歳女性で,35歳時に手術した甲状腺癌の病理組織所見が乳頭癌cribriform morular variantであった.そのため施行した大腸内視鏡検査でポリポーシスおよびAPC遺伝子変異を認め,家族性大腸腺腫症(Familial Adenomatous Polyposis;FAP)の診断に至り,手術を行った.本例は,甲状腺乳頭癌を契機に診断された孤発FAPのまれな症例と考えられた.
66歳女性.腹水,黄疸のために入院し原発性胆汁性胆管炎と診断された.肝生検では,interface hepatitisや胆管障害を認める一方,肝小葉内にフィブリノゲン陽性の封入体様構造を多数認め,フィブリノゲン蓄積症と診断した.フィブリノゲン蓄積症は,肝細胞の小胞体に異常フィブリノゲンが蓄積し肝障害を生じるまれな疾患で,本邦での報告はこれまで4例のみであり,文献的考察とともに報告する.