日本消化器病学会雑誌
Online ISSN : 1349-7693
Print ISSN : 0446-6586
104 巻, 3 号
選択された号の論文の11件中1~11を表示しています
総説
  • 須藤 弘之, 伊藤 義幸, 山崎 幸直, 加藤 卓次, 東 健
    2007 年 104 巻 3 号 p. 339-343
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/05
    ジャーナル フリー
    近年Helicobacter pylori除菌後に,体重,BMI,総コレステロール値などが上昇するとの報告が散見される.消化管生理活性ペプチドとの関連では,除菌により胃粘膜内レプチンmRNAの減少が認められ,それはBMIの増加と相関することが認められた.血漿グレリン値はHelicobacter pyloriの感染や除菌によって影響を受け,更に,胃粘膜萎縮との関連も示唆されている.また,高度な胃粘膜萎縮症例においては,除菌により著明にBMIが増加することが認められた.除菌治療を施行する際は,除菌後の体重増加についても念頭に置き,生活習慣の改善を指導することが肝要である.
今月のテーマ:肝性脳症
  • 加藤 章信, 鈴木 一幸
    2007 年 104 巻 3 号 p. 344-351
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/05
    ジャーナル フリー
    肝性脳症は重篤な肝障害あるいは門脈大循環短絡に起因する精神神経症状である.臨床的な症状のある顕性脳症には軽症のものから深昏睡まで幅がある.また精神神経症状が明らかでなく定量的精神神経機能検査ではじめて指摘される潜在性肝性脳症がある.顕性の肝性脳症は肝機能異常,肝疾患の既往の有無,精神神経症状,高アンモニア血症,脳波異常,臨床検査成績などから他疾患を鑑別しつつ総合的になされる.潜在性肝性脳症は定量的精神神経機能検査(記号追跡試験,光や音に対する反応時間,成人型知能検査)や,電気生理学的神経検査の脳波,大脳誘発電位(聴覚,視覚)などを組み合わせて行う.
  • 森脇 久隆
    2007 年 104 巻 3 号 p. 352-356
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/05
    ジャーナル フリー
    肝性脳症の代表的な原因疾患は劇症肝炎と肝硬変である.前者の治療は人工肝補助と肝移植による.後者についてはまず消化管出血,便秘など誘因の除去と,平行して分岐鎖アミノ酸輸液,合成二糖類の内服を主とした治療を行う.これらの併用治療による肝硬変脳症の覚醒率は末期昏睡型(大量消化管出血型)が23%,慢性再発型(便秘型)が78%, 1年生存率はそれぞれ15%, 60%である.肝硬変脳症の予防は血中アンモニア濃度のコントロールを目安として,分岐鎖アミノ酸経口補充,合成二糖類の内服により行う.わが国の大規模臨床試験によって,肝硬変患者に対する経口分岐鎖アミノ酸補充療法が肝不全(肝性脳症,腹水·浮腫,黄疸)の発生を有意に予防することが証明されている.
原著
  • 石川 剛, 安藤 貴志, 松本 次弘, 沖田 美香, 今本 栄子, 小松 晶子, 長尾 泰孝, 加藤 治樹, 瀬戸 信之, 古倉 聡, 内藤 ...
    2007 年 104 巻 3 号 p. 357-363
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/05
    ジャーナル フリー
    虚血性大腸炎のクリニカルパス(CP)作成を目的に,過去の虚血性大腸炎入院患者60例について,臨床像をretrospectiveに検討した.検討により得られた重症度予測因子および過去の診療行為の標準値を参考にCPを作成し,21例に運用したところ,CP適応例は18例であった.CPの運用により,発症後摂食までの期間(CP運用後5.28±1.27日,運用前6.20±3.42日),在院期間(CP運用後8.37±2.89日,運用前10.37±7.32日)とも短縮することができた.虚血性大腸炎診療におけるCPの導入は,在院日数の短縮,診療行為の標準化,リスク管理の面からも有用であると考えられた.
  • 稲田 エリカ, 片平 裕次, 松永 真美子, 天野 晋, 佐藤 悟郎, 大藤 正雄
    2007 年 104 巻 3 号 p. 364-372
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/05
    ジャーナル フリー
    千葉県富浦町は,平成3年度の住民検診によりC型肝炎多発地区であることが判明した.当地区において,検診を機に長期経過観察されたHCV抗体陽性者の集団における検討を行った.検診で発見されるHCV抗体陽性者における肝細胞癌の発現と予後に関する臨床的特徴を明らかにすることを目的とした.平均観察期間9年で171例中23例(13.5%)に肝細胞癌が発現した.肝細胞癌の発現には性別,初診時のASTとALT値,血小板数,初診時の腹部超音波所見,および肝障害変動の型別が関与していた.11例に5年以上の長期生存を認めた.生存期間には,初診時のAST,発現時の背景肝超音波所見および肝障害変動の型別が関与していた.
  • 有川 俊二, 内田 政史, 品川 正治, 魚住 淳, 早渕 尚文, 岡部 義信, 菅 偉哉, 柳 克司, 木下 壽文, 内藤 嘉紀
    2007 年 104 巻 3 号 p. 373-380
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/05
    ジャーナル フリー
    膵IPMTと診断された30例に対して,画像上の良悪性の指標とされている主膵管拡張の程度,嚢胞性病変の局在や大きさ,neoplastic lesionの有無に加え,形態的特徴である主膵管との交通や乳頭開大·膨隆について各種画像検査を比較しMD-CTの有用性を検討した.MD-CTは主膵管や嚢胞を明瞭に描出し,MPR像やCPR像の併用により主膵管との交通やVater乳頭の評価を行うことができ膵IPMTの診断の一助となることが示唆された.
症例報告
  • 内山 幹, 中村 眞, 月永 真太郎, 小井戸 薫雄, 山根 建樹, 藤瀬 清隆, 良元 和久, 石井 隆幸, 大村 光治, 山口 裕, 田 ...
    2007 年 104 巻 3 号 p. 381-387
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/05
    ジャーナル フリー
    症例は46歳,男性.8年前に他院にてstage IAの肺癌の手術歴あり.腸閉塞のため当院入院となった.小腸造影にて回腸に広汎な狭小化が認められ,手術が施行された.その結果腹膜播種をともなう転移性小腸癌と診断した.病理組織学的に肺癌組織と類似し,他臓器に原発となりうる癌が存在せず術後8年を経た肺癌の小腸転移と考えられた.
  • 松本 和也, 千酌 由貴, 大谷 英之, 原 明史, 前田 和範, 八杉 晶子, 村脇 義之, 三浦 将彦, 香田 正晴, 河口 剛一郎, ...
    2007 年 104 巻 3 号 p. 388-393
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/05
    ジャーナル フリー
    小腸穿孔を契機に診断されたT細胞性小腸悪性リンパ腫の2例(28歳男性,63歳女性)を経験した.T細胞性はCD8, CD56が陽性で,潰瘍型となりやすいことより,B細胞性に比較して消化管穿孔をきたしやすい.したがって悪性リンパ腫が疑われた場合には,FDG-PET,小腸透視,小腸内視鏡検査などにより小腸の検索を行い,穿孔前に診断することが肝要と考えられた.
  • 高橋 祥, 本間 久登, 秋山 剛英, 女澤 慎一, 小池 和彦, 平田 健一郎, 古川 勝久, 河野 豊, 高田 弘一, 佐藤 勉, 新津 ...
    2007 年 104 巻 3 号 p. 394-400
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/05
    ジャーナル フリー
    症例は78歳男性.近医にて胆石症と診断され当院紹介受診.腹部エコーでは胆嚢内にdebrisの充満と,胆石,胆嚢壁の軽度肥厚を認め胆石による慢性胆嚢炎が疑われた.ERCにて胆嚢管の急峻な途絶を認め,胆嚢炎の原因として胆嚢管への胆石の嵌頓が疑われるも,超音波内視鏡では胆嚢管の拡張とその内腔に後方陰影をともなわない充実性低エコー腫瘤を認めたため,胆嚢管癌と診断し,当院外科にて胆嚢および胆管切除,2群リンパ節郭清を施行した.切除標本では腫瘤は胆嚢管に限局する全周性扁平隆起性病変であり,胆嚢内に石灰化の高度な胆汁を認め石灰乳胆汁であった.病理学的には高分化型管状腺癌で平坦膨張型,t3(se, pHinf0, pBinf0, pPV0, pA0), n0, m0, stage IIIであった.
  • 井本 佳孝, 六車 直樹, 木村 哲夫, 梶 雅子, 宮本 弘志, 岡村 誠介, 伊東 進, 中園 雅彦, 廣川 満良, 佐野 壽昭
    2007 年 104 巻 3 号 p. 401-406
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/05
    ジャーナル フリー
    腫瘍随伴症候群は扁平上皮由来の癌で報告が多いが胆嚢癌に合併した報告は少ない.筆者らは経過中に高カルシウム血症および血中PTHrP高値を認め,病理組織標本においてPTHrP免疫染色が陽性であった胆嚢癌の1剖検例を経験したので報告する.
  • 石川 達, 牛木 隆志, 冨樫 忠之, 渡辺 孝治, 関 慶一, 太田 宏信, 吉田 俊明, 上村 朝輝, 武者 信行, 坪野 俊広, 酒井 ...
    2007 年 104 巻 3 号 p. 407-412
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/05
    ジャーナル フリー
    脾炎症性偽腫瘍(inflammatory pseudotumor)の1例を経験したので報告する.症例は59歳男性,CRP持続陽性精査のため,腹部CT施行.CT検査にて脾に単純で低吸収,造影にて脾実質より相対的に低吸収となる腫瘤性病変を認めた.MRI検査ではT1強調,T2強調ともに内部に一部高信号をともなう低信号の腫瘤像を呈した.血管造影でも悪性所見に乏しく,無症状であるが,CRP上昇の原因と考え,また,悪性リンパ腫の可能性が否定しきれず治療的診断的意義を兼ねて,脾臓摘出術を施行した.病理組織学的に脾炎症性偽腫瘍と診断した.脾炎症性偽腫瘍は極めてまれであり,悪性腫瘍との鑑別診断が困難である.確定診断は術後の病理組織診断によるため,脾臓摘出が治療的意義と同時に診断的意義を有し,予後も良好である.
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