膵再生研究は,糖尿病患者数の増加が世界的にも問題となっていることから,膵β細胞の再生を目指したものが中心である.再生に用いる細胞源としては,膵細胞そのもの,膵臓以外の臓器の構成細胞種,ES細胞やiPS細胞のような多能性幹細胞などが用いられており,再生方法としても発生過程を模倣した培養方法,遺伝子導入,異種体内環境の利用など多様な研究が進められている.膵細胞の再生は細胞補充療法の細胞源として,対症療法を中心とした従来の医療に比して,根治療法となり得る.さらに,再生した膵細胞には,新たなヒト疾患モデルとして病因解明と創薬への応用に繋がる可能性もあり,今後の研究の進展が期待される.
脳死膵臓移植は重症1型糖尿病の根治療法として1960年代に開始された.現在までに世界で40000例以上の臨床例があり,80%以上が膵・腎同時移植である.成績も年々向上し,現在は腎移植と同様良好である.また生体膵臓移植も実施され,好成績となっている.膵臓移植の課題として移植後の静脈血栓症があげられるが,当施設で実施している造影超音波検査は血栓の同定に有効であり,早期治療が可能であり推奨される.さらに膵島移植の成績も向上しており,特に腎移植後,腎不全をともなわない1型糖尿病に対する第一選択の移植治療法となる可能性もある.将来的にはiPS細胞,ES細胞を用いたβ細胞創生による再生医療,Muse細胞を用いた修復治療などにも期待がかかる.
膵島移植は,重症低血糖発作をともなうインスリン依存糖尿病に対する「膵β cell replacement therapy」である.細胞移植の手技で肝内門脈に移植が実施され,低侵襲と安全性を利点とする.現状では臓器そのものを移植する膵臓移植にインスリン離脱率は劣るものの,血糖値の安定化と無自覚性低血糖や重症低血糖発作からの解放を可能とすることが示されている.本邦では,海外での免疫抑制療法の改良による成績改善をふまえ,新規免疫抑制療法を導入した多施設共同臨床試験が先進医療Bとして実施されている.免疫抑制療法のさらなる改良や新規移植部位の開発が進められており,今後,再生医療技術との融合による発展も期待される.
自家膵島移植は,膵全摘にともない発症が不可避である糖尿病を免疫抑制剤を用いずに防ぐことができる,究極の低侵襲再生医療である.膵外分泌のみ病態を有し内分泌は保たれている慢性膵炎,膵外傷,膵動静脈奇形といった疾患が対象となる.慢性膵炎に対する自家膵島移植は既に600例以上実施されており,移植後3年のインスリンフリーの割合は30%に達しており,除痛効果も高いため米国では治療オプションとなっている.膵動静脈奇形は高度炎症をともなうため術後門脈塞栓に留意する必要があるが,推奨すべきと考えられる.自家膵島移植は今後,移植部位の至適化などにより,慢性膵炎や膵動静脈奇形に対する標準治療としてより広く普及することが期待される.
同種膵島移植が,1型糖尿病患者の低血糖予防の治療として確立し,膵島移植のさらなる発展として医療用ブタを用いた異種膵島移植が有望視されている.一方で,異種移植には,異種感染,特に内在性レトロウイルス感染(porcine endogenous retrovirus;PERV)の懸念があった.この課題に関し,感染する可能性がある病原体が存在しない(designated pathogen free;DPF)ブタの利用,PERVの感染性の否定テストなどで対応するコンセンサスが発表された.最近,DPFブタを利用した異種膵島移植が実施され,HbA1cを良好に保ちながら,低血糖を軽減する効果が示されている.また,新しい遺伝子編集技術でPERVを不活化する方法や,胚盤胞補完法を用い臓器を異種動物の生体内で作製する技術が発表され,今後,より安全で効果が高い異種膵島移植が期待できる.
LZテスト‘栄研’H. ピロリ抗体(以下,LZ法)の抗体価3.0U/mL以上10.0U/mL未満の症例のうち,13C尿素呼気試験を施行した698例に対して,H. pylori感染状態を,呼気試験結果および上部消化管内視鏡による胃粘膜萎縮の所見より検討した.呼気試験陽性は22.3%で,C-2以上の胃粘膜萎縮は39.7%に認めた.H. pylori現感染156例(22.3%),既感染141例(20.2%)と推定した.LZ法に陰性高値の概念は必要と思われた.呼気試験陽性か否かでROC曲線を描くと陽性カットオフ値は5.6U/mLとなり,この値以上では必ずH. pylori現感染の確認を考慮すべきと思われた.
症例は55歳,男性.複数の腹部手術歴や,食道静脈瘤に対して内視鏡的治療歴あり.突然の血便を認め緊急入院.大腸内視鏡を施行するも出血源は同定できず,CT during arterial portography(CTAP)を施行したところ,上腸間膜静脈から流入し腹壁静脈へと排血する小腸静脈瘤を認めた.経皮的に腹壁静脈を直接穿刺することで硬化療法を施行し,良好な止血を得られ,侵襲の高い外科手術を回避することができた.
67歳,男性.主訴は腹部腫瘤,CTで胃体部に10cm大の囊胞性腫瘤を認めた.腫瘍の充実成分はわずかで,漿液が貯留していた.組織は腫瘍細胞の疎な配列と粘液間質で構成され,KIT弱陽性を示し,platelet-derived growth factor receptor alpha(PDGFRA)遺伝子変異(D842V)をともない,myxoid epithelioid GISTと診断した.まれな症例と考え報告する.
高齢者の腸回転異常症による盲腸軸捻転という,まれな症例を経験したので報告する.腹部膨満と発熱が主訴の84歳男性に,下部消化管内視鏡検査を施行し,腸管穿孔をおこしたため緊急手術を行った.腸回転異常症の不完全回転型に盲腸軸捻転を合併していた.術後に多臓器不全に陥り,2日目に死亡した.高齢発症の腸回転異常症はまれな疾患であるが,診断に苦渋する高齢者の腹部膨満では,本疾患を念頭に置く必要があると考えられた.
症例は78歳,女性.4型進行胃癌(pT4N3bM0 Stage IIIC,低分化腺癌)に対し,胃全摘術と術後化学療法を施行した.術後2年8カ月目に両側の視力低下が出現した.髄液細胞診で低分化腺癌を認め,胃癌術後再発,髄膜癌腫症と診断した.積極治療は行わず,入院約1カ月後に永眠された.病理解剖では視神経周囲に低分化~印環細胞癌の浸潤を認め,視力低下の原因として矛盾しないものであった.