迷走神経内に存在するカテコールアミン含有線維の胃, 十二指腸, 膵に対する神経分布を検索するために, S-D系ラットを用いて, 開腹下に迷走神経切断術, 腹部交感神経切除術を施行し, それぞれ迷切群, 交切群とした. 2週間後に屠殺し, 各々の部位のノルエピネフリン (NE), ドーパミン (DA) 含量を測定し, 偽手術群, 無処置対照群と比較した. その結果, 前胃のNE含量は, 対照群294±28(SE), 偽手術群283±43, 迷切群100±26, 交切65±7ng/g tissue を示し, 交切群と迷切群の両群は他の2群に比べ有意に低値にあり, 交切群と迷切群間に有意の差はなかつた. 後胃, 十二指腸においても同様の結果を示した. 更に膵のNE含量は交切群が他の3群に比べ有意に低値にあつた. DA含量は, 胃, 十二指腸において交切群が対照群, 偽手術群に比べ有意に低値を示したが, 膵では4群間に有意の差を認めなかつた.
以上より, 迷走神経内NE含有線維は, 胃, 十二指腸, 膵に広く分布し, 迷切術は有意なNE含量の低下をもたらすことは明らかである. 迷切術と交切術による壁内NE含量の減少率の比較から, 胃, 十二指腸においては, 迷走神経, 腹部交感神経由来の神経支配は重複しており, 壁内NE含量の維持には, 迷走神経, 腹部交感神経の両者の存在が必要であると推察された.
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