消化器がんは,日本人のがん罹患・死亡の約半数を占める.年齢調整死亡率は,胃がんと女性の食道がんが戦後一貫して減少傾向にあるが,その他の多くの部位は,戦後増加していたのが1990年代半ば頃より横ばいから減少傾向にある.喫煙と飲酒はすべての消化器がん,肥満は大腸・肝臓・膵臓のがんの共通したリスク要因である.塩分(胃),赤肉・加工肉(大腸),身体活動量不足(結腸),野菜・果物摂取不足(食道,胃)などは,特定部位の消化器がんのリスク要因である.
胃食道逆流症は,食事内容,肥満,就寝時の体位が病態に影響しており,治療における生活習慣改善の有効性が報告されている.食道扁平上皮癌では,アルコールと喫煙の影響が極めて大きく,禁酒,禁煙指導が重要となる.特に現在または過去にビール1杯で顔が赤くなる体質(フラッシャー)は,ALDH2欠損者でありアルコールの代謝が円滑に行われず,高濃度のアセトアルデヒドに長時間曝露されて食道癌になるリスクが著しく高くなるため,より注意が必要である.多くの食道疾患は生活習慣の改善により予防できる可能性があることを念頭に,診療を行うのがよいと考えられる.
脂肪肝は,生活習慣の乱れそのものがその原因とさえいうことができる.脂肪肝と関連のある生活習慣として,食事,運動,睡眠,嗜好品が挙げられる.1日の食事量は,25~35kcal×標準体重/とし,内容としては,炭水化物:脂質:蛋白質=50(~60):(20~)30:20(%エネルギー)が推奨される.活動性と脂肪肝の罹患率は逆相関しており,睡眠不足は生体時計の乱れを惹起し,脂肪肝の増悪因子になる.嗜好品のアルコールは脂肪肝の原因や増悪因子であるが,コーヒーやお茶は含まれるポリフェノールなどを通して脂肪肝を抑制する.このように脂肪肝の治療には,生活習慣を是正していくことが重要である.
代表的な膵疾患である膵炎や膵がんの発症には,遺伝要因に加え,喫煙,飲酒などの生活習慣や,肥満,糖尿病といった生活習慣病が関与するというエビデンスが蓄積しつつある.これらの生活習慣と膵疾患に関するエビデンスの多くがヒトを対象とする観察疫学研究,特に前向きコホート研究より創出されている.研究の過程で生じるバイアスや,交絡,因果関係の逆転などの観察疫学研究の限界に挑戦すべく,近年,国内前向きコホート研究を統合したプール解析や,遺伝情報を用いたメンデルランダム化解析法の応用が進められている.その結果,アルコールと慢性膵炎,喫煙・肥満と膵がんの関連がより明確になった.本稿では疫学知見を中心に生活習慣と膵疾患の関連を概説する.
大腸がんのリスクには多くの生活習慣が関わっている.世界がん研究基金・米国がん研究所は大腸がんの疫学研究を系統的にレビューし,運動,全粒穀類,食物繊維を含む食品,乳製品,カルシウムサプリメント(以上,リスク低下),加工肉,飲酒,肥満,高身長,赤肉(以上,リスク上昇)に関して「強いエビデンス」があると判定した.日本ではがん予防研究班が評価を行っており,運動,飲酒,肥満は「確実」あるいは「ほぼ確実」としている.糖尿病ばかりでなく前糖尿病から大腸がんリスクが高まることが報告されている.大腸がんと糖尿病のリスク要因は類似しており,がんと代謝性疾患の同時予防が可能である.
症例は68歳女性.両膝関節痛と両下腿の皮疹を主訴に当院を受診し,皮膚生検によってIgA血管炎と診断された.入院後に腹痛と下血を認めたが,内視鏡検査にて同疾患の消化器症状と考えた.プレドニゾロンを開始するも減量にともない腸管の罹患部位の移動とともに症状増悪を繰り返した.最終的にメチルプレドニゾロン125mgを開始し,その後漸減したが再燃することなく経過した.本疾患にステロイドは有効だが減量には注意を要する.
症例は39歳男性.上部消化管内視鏡で胃体上部前壁に15mm大の褪色陥凹を指摘された.11年の経過観察で40mm大のcobblestone様病変に緩徐に変化した.複数回の生検で診断困難であったため,全生検的に内視鏡的粘膜下層剥離術を施行し,H. pylori陰性,MALT1遺伝子転座陽性の胃MALTリンパ腫(Lugano Stage I)と診断した.追加治療をすることなく5年間無再発生存中である.
60歳男性が腹痛と肝胆道系酵素の上昇で紹介受診となった.画像検査で肝外門脈閉塞と胆管の狭窄・拡張像,胆管壁の肥厚を認めたが,原因不詳であった.経過中に血球の増加があり,JAK2V617F変異が陽性であることから真性多血症と診断され,関与が考えられた.肝外門脈閉塞では胆管癌に類似した胆管病変が生じうること,原因に診断基準を満たさない骨髄増殖性腫瘍が存在しうることに留意が必要である.
68歳の女性,左横隔膜直下に巨大腫瘤を認め当院紹介となった.CT検査で膵体尾部に囊胞成分をともなう14cm大の辺縁不整な腫瘍を認め,膵体尾部脾,結腸合併切除術を施行した.術後病理検査で紡錘細胞型退形成癌と診断された.本邦過去報告27例の集計では他臓器浸潤を43%に認め,Stage IVが26%であり,転帰については再発率78.2%,死亡率59.3%と予後不良であった.
症例は69歳の男性.発熱,食思不振を主訴に近医を受診し,CTで肝右葉の巨大肝腫瘤,多発肺結節を指摘された.当院へ紹介搬送され,入院した.肝腫瘤穿刺吸引液,血液培養よりグラム陰性桿菌が検出され,敗血症性肺塞栓症を合併した肝膿瘍と診断した.string test陽性から組織侵襲性の高い過粘稠性Klebsiella pneumoniaeを同定し,抗菌薬投与,複数回の膿瘍ドレナージによって改善を得た.