炎症性腸疾患の活動性をモニタリングする検査法は,ここ数年で大きく進歩した.血液バイオマーカーとしてleucine-rich α-2 glycoproteinが登場し,便中カルプロテクチン検査も広く用いられるようになってきている.画像検査としては,内視鏡検査,小腸造影検査に加えて,MR enterographyや腸管超音波検査といったcross-sectional imagingも用いられるようになってきている.こういった検査法を適切に用いて治療を最適化し,長期予後を改善するための治療戦略として,treat-to-targetが炎症性腸疾患の治療においても広く普及してきている.
炎症性腸疾患(IBD)診療において,内視鏡は診断から治療に至るまで幅広い役割を果たす.そのため,内視鏡機器の進歩はIBD診療にさまざまな変革をもたらし得る.潰瘍性大腸炎では,拡大観察や特殊光観察,人工知能の応用により内視鏡的寛解の定義や癌サーベイランスにおける新知見が複数報告されている.Crohn病では,大腸のみならず小腸病変も適切に評価することが疾患予後改善に必要不可欠であるが,小腸病変の診断や活動性評価における内視鏡の有用性に関して本邦を中心にさまざまな検討がなされている.内視鏡機器の進歩を適切に応用し,IBD患者の長期予後改善に繋がるエビデンスが構築されることを期待する.
炎症性腸疾患(IBD)の診断と活動性評価において内視鏡検査は標準であるが,いくつかの限界がある.また腸管壁全層に炎症をきたし壁外の病変もともなうクローン病においては,粘膜面の評価だけでは不十分である.MRI(MRE)や腸管エコー(IUS)などのcross-sectional imagingは認容性に優れ,狭窄や高度な炎症がある場合でも腸管全体の評価が可能で小腸の完全な可視化ができ,活動性スコアは大腸や小腸の粘膜病変の内視鏡的活動度と強い相関がある.また,ほぼ半数にみられる腸管外病変の評価にも適しており,腸管外病変は内視鏡による粘膜評価よりも予後を予測しやすく,より最適な治療targetの評価に有効である.
炎症性腸疾患診療における腸管超音波検査への関心が高まっている.腸管超音波検査は,(1)非侵襲的で繰り返し実施可能である,(2)比較的低コストである,(3)腸管壁全層の炎症の程度および病変範囲が推定可能である,といった特徴から,治療経過・病勢変化を評価するモニタリングツールとして特に有用であると考えられる.さらに腸管超音波検査所見と治療反応性,中長期的予後についての検討が進むことで「Treat to Target戦略」の治療目標の1つとなることが期待される.一方,腸管超音波検査が信頼性をもって広く実臨床で実施されるためには,標準的検査プロトコルの普及,検査トレーニングシステムの確立が必要である.
炎症性腸疾患の疾患活動性をモニタリングするバイオマーカーとして,2017年に便中カルプロテクチンが,2020年に血清LRGが保険収載された.既存の炎症マーカーである血清CRPや,糞便中のヘモグロビンを測定する免疫学的便潜血検査も,近年の検査技術の進歩により定量性が高まっており,安価かつ簡便に炎症性腸疾患の活動性をモニタリングできるツールとして用いられている.個々のマーカーの利点や欠点を理解しつつ適切に組み合わせて経時的に測定することで,侵襲性の高い内視鏡検査を頻回に行うことなく腸管炎症の程度を把握できるようになり,適切な診療・治療につなげていくことが可能となってきている.
当院での直腸肛門部位が観察された190例の大腸カプセル内視鏡検査(CCE)を対象に,直腸肛門病変の所見について検討した.内痔核を70例(36.8%),直腸ポリープを19例(10%)に認めた.大腸内視鏡検査・ダブルバルーン内視鏡検査をゴールドスタンダードとした場合,内痔核では感度88.9%・特異度92.7%,直腸ポリープでは感度75%・特異度93.4%であった.内痔核では偽陰性群で有意に便秘の頻度が高く,直腸ポリープでは偽陰性・偽陽性群で有意に大腸通過時間が短かった.全例有害事象は認められなかった.CCEは,有用で安全な直腸肛門病変の検査法となる可能性が示唆された.
症例は70歳代男性.急性骨髄性白血病加療中に腹痛,血便が出現し,精査にて小腸イレウスと診断した.保存的加療で改善なく,小腸内視鏡検査にて回腸潰瘍を認めた.組織検査から小腸ムコール症を疑い抗真菌薬投与を行ったが穿孔性腹膜炎を併発し,小腸切除を施行した.切除標本より小腸ムコール症と診断した.ムコール症の消化管型はまれであり,小腸病変は非常に少ない.小腸内視鏡検査が診断・治療の一助となった.
60歳代男性.アルコール性肝硬変による肝不全で入院となった.約半年で胆管周囲囊胞(hepatic peribiliary cysts;HPBC)が急増大して閉塞性黄疸を認め,内視鏡的ドレナージを施行したが肝不全で死亡した.病理解剖で,HPBCの胆管圧排が肝不全を助長したと考えられた.近年,アルコール性肝硬変に合併したHPBCの症例報告は散見するが,短期間でHPBCが増大をきたした症例はまれである.
症例は38歳男性.稲作農家.腹痛で近医受診し,CTで肝S4に腫瘤性病変を認めたため当科紹介.MRI所見から肝膿瘍が疑われたが,10日後のCTにて肝S8に新たに腫瘤性病変が出現した.肝腫瘍生検を施行し悪性所見は認めず,門脈域や小葉内に好酸球の浸潤を認めた.寄生虫抗体検査を行い肝蛭症抗体陽性であったため,肝蛭症と診断した.トリクラベンダゾール内服にて腫瘤は縮小し,好酸球数も正常化した.