日本で肥満症の治療に本格的に関心がもたれるようになったのは1980年代であり,当初は消化管と関連づけての治療方法が中心であった.薬剤としては消化吸収抑制薬,食欲抑制薬などが中心に開発され,食事療法に関してもさまざまなアプローチがなされた.今回は,開発当初から現時点にいたるまでの薬物療法や食事療法(+行動療法)を中心に,肥満症治療と消化管との関連についてまとめた.
世界では,人口の30%が肥満であるといわれ,本邦における肥満の割合は,男性で増加傾向にある.また胃食道逆流症(GERD)は,2000年以降急激に増加している.GERDの増加には,食生活の欧米化,肥満の増加,高齢化などが関与していると考えられ,肥満と食道症状の発生には正の相関がある.最近では内臓脂肪型肥満が,体格指数(BMI)とは独立してBarrett食道やBarrett食道腺癌の発生に寄与するといわれている.肥満によるGERDの発生には,腹腔内圧上昇,一過性下部食道括約筋弛緩の増加,食道裂孔ヘルニア,食生活など多くの要因が関与している.GERDは,薬物治療および減量で改善するため,保存的加療で改善が得られない場合には肥満とGERDの治療として肥満外科手術も考慮する.
肥満病態における上部消化管の関与は重要であり,空腹因子,満腹因子の両者の産生場所でもある.これらは視床下部に作用し,脳腸相関の中で食欲や体重調節を行う.グレリンは胃から同定された空腹ホルモンであり,肥満や痩せ病態に深く関わると考えられている.本稿ではグレリンを中心に,肥満症および肥満病態へのトランスレーショナルな応用研究の進歩を述べる.グレリンシグナリング遮断手段としては,グレリンやその受容体(GHSR-1a),グレリンアシル化酵素(ghrelin O-acyltransferase;GOAT),グレリンに拮抗するLEAP2(liver-expressed antimicrobial peptide 2)などが検討されている.グレリンシグナリング遮断により,肥満モデル動物では食欲・体重の減少効果が見られ,ヒトでの更なる解析が待たれる.
肥満は重要な医学的課題であり,遺伝的因子と環境要因との複雑な相互作用により発症する代表的な多因子疾患である.肥満は必ずしも疾患とは限らないが,体脂肪量が過剰に蓄積した状態であり,脂肪組織由来ホルモン(アディポサイトカイン)やエネルギー代謝調節関連分子が同定され,肥満発症機構が急速に解明されてきている.この研究の流れの中で,腸内細菌叢の分析技術,その代謝物の質量分析計を中心にした同定技術などの進歩とともに,肥満と腸内細菌叢との密接な関連が明らかとなってきた.肥満の理解に腸内細菌とその代謝物の理解が重要である.健康な腸内細菌叢のためには健康な生活習慣が重要であり,最終的に下部消化管疾患の中でも便秘症と大腸癌について解説した.
高度肥満者に対する外科治療は,2000年代に入り本邦でも普及してきた.術式には歴史的変遷があるが,現在は腹腔鏡下スリーブ状胃切除術がもっとも一般的である.手術の効果は海外で長期予後を含むエビデンスが発表されており,本邦でもこれに追随している.本邦では健康保険での手術が多いため,手術適応は保険の条件が一般的であるが,BMIが32.5未満の症例では手術適応がない点やスリーブ状胃切除術以外の術式が認められていない点に問題がある.肥満治療の重要性は増してきており,必要な患者に対して外科治療が安全に提供できるようにする必要がある.
症例は50歳代,男性.8年前に噴門部の進行胃癌に対してD2郭清をともなう胃全摘術を施行した.患者の希望もあり,術後補助化学療法を3年間施行した.以後再発なく経過したが,術後8年目に局所再発および多臓器転移を認め,化学療法を再開した.その1カ月後に右眼の視野障害を自覚され,精査の結果,転移性脈絡膜腫瘍と診断した.化学療法に奏功した胃癌脈絡膜転移を経験したため,若干の文献的考察を加えて報告する.
症例は70歳代男性.胃癌出血に対し胃全摘術施行後,肝転移と傍大動脈リンパ節転移が増大し化学療法を行った.3次治療ニボルマブ開始後一旦肝転移は増大傾向を示したが,腫瘍マーカー低下と全身状態良好なため投与継続したところ肝転移の縮小を認め,19カ月間ニボルマブ投与継続できた.ニボルマブ投与初期の腫瘍増大時,腫瘍マーカー低下と良好な全身状態はpseudoprogressionを示唆する所見で,留意を要する.
52歳女性,乳癌手術歴あり.CEA上昇にて精査,胃に4型腫瘍があり,内視鏡下生検で印環細胞を含む低分化型腺癌を認め,胃癌と診断.腹膜播種にて試験開腹となったが,化学療法にて長期間SDを維持した.13年後,内視鏡下生検にて10年ぶりに低分化型腺癌を確認.ホルモン受容体強陽性であり,過去の標本を見直し乳癌胃転移に診断を訂正した.胃癌を疑う場合でも乳癌胃転移の可能性を念頭に,組織学的検査を行うことが望ましい.
症例は65歳,男性.造影CTで肝内に辺縁から濃染され中心部に濃染不良域をともなう腫瘤を認めた.超音波下経皮的針生検で肝血管肉腫と診断し,全身化学療法を施行した.肝血管肉腫は多彩な画像を呈することが知られ,生前に診断されることは少ない.画像診断が困難な切除不能例においては,治療方針決定のための腫瘍生検は有用であるが,適応については慎重に検討する必要があると思われた.
76歳,女性.膣癌の放射線治療の既往あり.発熱,肝胆道系酵素上昇で当院受診.CTにて遠位胆管の狭窄および十二指腸下行部から水平部の浮腫状変化を認め,PTBDランデブー法で胆管ステント留置術を施行した.十二指腸生検の病理結果は膣癌と同様の扁平上皮癌であり,臨床経過から膣癌,後腹膜転移による閉塞性黄疸,十二指腸狭窄と診断した.われわれが検索した限りで同様の報告はなく,極めてまれな症例である.
症例は60歳男性.CTで縦隔内囊胞を指摘され,膵由来病変が疑われ当科紹介となった.ERPで頭部主膵管から造影剤の膵管外漏出を認め,EUS下囊胞穿刺で内液中の膵酵素高値が示されたため縦隔内膵仮性囊胞と診断した.EUS下囊胞ドレナージの後に長期的な内視鏡的経鼻膵管ドレナージ術を行うことで,膵液漏出部の自然閉鎖が得られた.縦隔内膵仮性囊胞の診断・治療における内視鏡的手技の有用性を,本邦報告と合わせて考察した.