上部消化管腫瘍(咽頭・食道・胃・十二指腸)に対する内視鏡診断は先進的診断内視鏡の開発により飛躍的に向上し,特に本邦で開発されたnarrow-band imaging(NBI)やBlue LASER Imaging(BLI),Linked Color Imaging(LCI)などのシステムにより早期発見・早期治療が可能となり,近年ではAIによる内視鏡診断の報告も散見される.さらに内視鏡的粘膜下層剥離術(endoscopic submucosal dissection;ESD)や腹腔鏡内視鏡合同手術(laparoscopy and endoscopy cooperative surgery;LECS)などの低侵襲治療も本邦から開発され,安全かつ先進的な内視鏡診断と治療方法が確立されてきている.ただし,各々の臓器において内視鏡診断と治療方法の選択に関してはいまだ課題は残されており,今後の更なる臨床研究の成果が期待される.
本邦における食道癌の多くは食道扁平上皮癌である一方,胃食道逆流症によって生じるBarrett食道を発生母地とするBarrett食道腺癌も近年増加傾向にあるといわれている.これらの疾患に対する内視鏡診断の進歩は著しく,特にNBI,BLIなどの画像強調機能の開発にともない,それらの機能を用いた内視鏡診断が確立してきている.一方,内視鏡治療の進歩も目覚ましく,ESDの登場により理論上リンパ節転移がないと判断される病変はすべて内視鏡で切除が可能な時代となった.しかし患者の状態や病変の状況次第ではより簡便なEMRによる切除や,APC,PDTなどの切除以外の内視鏡治療を行うことも検討するべきである.
2013年Helicobacter pylori(H. pylori)の除菌治療適応が拡大され,除菌治療数は急激に増加した.またH. pyloriの感染率低下もあいまり,胃癌は近い将来急激に減少するといわれている.今現在,胃癌による死亡数は減少が見られるものの,胃癌の罹患数は高齢化にともない減っていない.胃癌の内視鏡診断はまず見つけることに始まる.拾い上げには画像強調観察の有効性について報告されるようになっており,背景粘膜と発生する胃癌の特徴を踏まえてスクリーニングを行うことが効率的である.治療はESDが主体であり,その手技は完成しているが,さまざまな工夫や低侵襲の縮小手術が試みられている.
近年の内視鏡検診の普及や内視鏡機器の進歩により日常診療にて十二指腸腫瘍に遭遇する機会が増加しているが,いまだにその診断・治療に関する基準は確立されていない.しかし症例数の増加にともない,内視鏡診断,特に画像強調内視鏡による質的診断は整備されつつあり,十二指腸腫瘍の特有の特徴を捉え,生検せずに治療適応病変を判断するoptical biopsyも普及してきた.病理組織学的には,経験的に得られていた特徴的細胞像に加え,粘液形質発現の解析結果を踏まえた病理診断アルゴリズムも完成しつつある.同時に最難関である内視鏡治療も地道な工夫と努力の蓄積が結集し,数年前よりも格段に安全性の高い内視鏡治療が可能となってきた.
「第4次産業革命」とも称される人工知能(AI)革命がディープラーニング技術と高性能なGPU,そして大量のデジタル化されたデータの組み合わせにより進んでいる.上部消化管においてもAIは高精度の胃癌拾い上げ,食道癌拾い上げ診断が可能であることが示唆されている.また,ピロリ菌胃炎の診断や胃の部位の網羅性チェックをするAIも可能なことが,食道癌においては深達度診断をAIが診断支援可能であることも示唆されている.胃癌拾い上げ,食道癌拾い上げにおいてはAIが医師の補助として診断をサポートし,医師がAIとともにより高精度の内視鏡医療を提供するのが当たり前になるのも,そう遠くない未来のことと思われる.
多様化する進行胃癌術後補助化学療法を適切に選択するため,進行胃癌術後補助化学療法後の再発予測因子を調べた.進行胃癌治癒切除後のS-1を術後1年間以上内服した39例を対象とし,再発群と無再発群の2群に分け,臨床背景因子との関連を検討した.15例の患者が術後に再発を認めた.多変量解析では術前C-reactive protein(CRP)値(>0.3/≦0.3,mg/dL)(HR 10.73;95% C.I.,1.824~63.14;P = 0.009)のみが再発と有意に関連していた.術前CRP値(>0.3mg/dL)は,進行胃癌術後補助化学療法後の単独の再発予測因子であった.
重症・劇症の潰瘍性大腸炎における結腸の拡張は,中毒性巨大結腸症に至る前段階であり,緊急手術が考慮される.今回,十分な外科医の協力体制のもと,シクロスポリン持続静注療法を用いて手術を回避し得た巨大結腸症を呈した3例の潰瘍性大腸炎を経験した.巨大結腸症をともなう重症・劇症の潰瘍性大腸炎に内科的治療を考慮する場合に,シクロスポリン持続静注療法は有用な選択肢として挙げられる.
54歳男性.吐血で受診し,上部消化管内視鏡検査で出血性胃潰瘍を,造影CT検査で胃壁と接する仮性脾動脈瘤を認めた.血管造影検査でsegmental arterial mediolysis(SAM)による仮性脾動脈瘤破裂と診断し,血管内治療を行った.SAMが消化管出血で発症することはまれである.消化管出血に対しては積極的に造影CT検査を行い,本疾患が疑われれば血管造影検査や血管内治療も考慮すべきである.
63歳,男性.慢性膵炎急性増悪後に感染性膵仮性囊胞を併発した.仮性囊胞と門脈左枝の交通を認め,門脈内は血流が消失し囊胞液で置換されていた.膵仮性囊胞門脈瘻と診断しドレナージの方針としたが,穿刺経路の確保が困難であった.門脈が囊胞液に置換されていることから経皮的に門脈を介した囊胞ドレナージを施行し,改善を認めた.膵仮性囊胞門脈瘻はまれであり,経門脈的ドレナージが奏功した症例を経験したので報告する.
症例は69歳男性.黄疸精査のために紹介となり,遠位胆管に腫瘤性病変を認めた.ERC時に行った胆汁細胞診と生検で腺癌と診断し,肝門部領域を含め広範囲に進展した遠位胆管癌の術前診断で亜全胃温存膵頭十二指腸切除術,肝左葉切除術を施行した.病理所見では,遠位胆管に結節浸潤型の腫瘍を認め,MANECと診断した.また肝門部領域胆管に上皮内癌を認め,両者の間には病理学的連続性を認めず,重複癌と診断した.