肝疾患患者の血清中にしばしぼ検出される免疫抑制因子は, 肝炎の慢性化と重要な関連をもつと推測される.また, 肝癌をはじめ, 種々の肝疾患患者の血清中には胎児性蛋白質の一つであるAFPがある頻度で認められ, しかも, AFPには免疫抑制的な作用があるとの報告がある.本報においては, 免疫抑制因子とAFPの関係を明らかにするために行なつた実験について述べる.
各種肝疾患の患者血清について, 正常人リンパ球のPHA刺激応答抑制を指標として免疫抑倒因子の出現率をしらべると, 急性肝炎では20.0%, 慢性肝炎43.8%, 肝硬変症53.3%.原発性肝癌83.3%でいずれもかなり高かつた.しかも, この抑制因子陽性例は陰性例に比し, 血中AFPの陽性率が高かつた.ただし, 免疫抑制因子陽性例と陰性例について, 血清中の各種の蛋白質の含量を定量比較しても, 両者に差異は認めなかつた.
精製AFPを用いて検討すると, AFPは健常人リンパ球のヒツジ赤血球によるrosette形成を著明に抑制した.また, 軽度ではあるが, 健常人リンパ球のPHA刺激応答を抑制することを認めた.PHAとは異なり, 8細胞に主として作用し, リンパ球幼若化を起こすと考えられているPWMの刺激に対する応答はAFPによつてほとんど影響をうけなかつた.
これらの結果から, AFPは生体の細胞性免疫を抑制する可能性があり, 肝疾患において, このAFPの免疫抑制作用は, その病態を考察する上に重要な研究課題となると思われる.
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