食道運動障害は,上部/下部食道括約筋の弛緩障害や体部蠕動障害によっておこり,嚥下障害や胸痛を引きおこす.診断に必須である高解像度食道内圧検査(high resolution manometry;HRM)は施行可能な施設が限られ,スクリーニングとして内視鏡や透視検査が重要である.食道運動障害が疑われる場合にはHRMを実施するが,食道アカラシア以外の内圧診断の臨床的意義は不明瞭であり,症状や透視などの検査所見を含めて総合的に判断する必要がある.アカラシアに対しては,内視鏡的/外科的筋層切開術,バルーン拡張術を考慮する.日本の一般診療における食道運動障害およびHRMの認知度は低く,本稿では食道運動障害の病態,診断,治療戦略について概説する.
High-resolution manometry(HRM)と食道運動障害を体系的にまとめたシカゴ分類が開発され,食道運動障害の診療は大きく変化している.食道運動障害の診療では器質的疾患の除外が重要であり,上部消化管内視鏡検査が行われているが,食道運動障害に特徴的な内視鏡所見も報告されている.食道造影検査では食道運動だけではなく,食道内のボーラスの動きも観察することができ,食道運動障害の拾い上げだけではなく,治療後の評価にも有用である.なお,食道の伸展性を評価する機器が開発され,食道の収縮だけではなく,伸展性が食道運動障害の病態に関与していることが報告されている.
食道運動障害は,HRM所見によって,1)LES圧の上昇があるもの(アカラシアやEGJOO),2)食道体部にspasticityが認められるもの(DESやhypercontractile esophagus),3)食道体部の蠕動運動が弱いもの(absent contractilityやIEM)に大別し,治療方針を決定する.一般的な内科的治療として,1)2)は平滑筋弛緩薬(カルシウム拮抗薬,硝酸薬,ホスホジエステラーゼ5阻害薬など)や内視鏡的ボツリヌス毒素注入療法があるが,3)では現在有効な消化管運動機能改善薬はないため,GERDの併存の有無,臨床症状の種類によって治療方針を模索する.
食道アカラシアは食道蠕動運動の障害により通過障害をきたす疾患であり,治療としては腹腔鏡下Heller-Dor法が長らく標準術式であった.近年,経口内視鏡的筋層切開術(peroral endoscopic myotomy;POEM)が本邦で開発され,普及してきている.しかし,治療法の選択にまだ一定の基準はない.また,その他の食道運動障害の代表的疾患としてesophagogastric junction outflow obstruction(EGJOO)とびまん性食道痙攣があるが,これらの症例に関しても治療法は確立されていない.ここでは,食道アカラシアを中心に食道運動障害の外科治療に関して述べる.
胃食道逆流症治療の第一選択は薬物療法である.それが効を奏さない場合,外科手術が選択されてきた.ここに治療法選択のギャップがあり,それを埋めるべく多くの内視鏡治療が報告されてきた.われわれの取り組んでいる内視鏡的逆流防止術(endoscopic anti-reflux therapy;EARTh)として,ARMS(粘膜切除術),ARMA(粘膜焼灼術),ARM-P(粘膜形成術)がある.既にARMS/ARMAについては,3本のsystematic reviewにより安全かつ効果的治療法であると報告されている.大きな裂孔ヘルニアのない難治性胃食道逆流症に対しては,内視鏡治療が検討されるべきと考えている.
症例は50歳代,女性.左原発性乳癌,癌性胸膜炎,DICに対し化学療法開始後に全身精査で胃癌と肝癌も認めた.HE染色では原発と転移の鑑別は難しく,ER発現の有無により原発性乳癌(ER陽性)と原発性胃癌,転移性肝癌(ER陰性)の同時性重複癌と診断し治療を行った.治療により10カ月の生存が得られたが,原発性胃癌として臨床的な疑問もあり死後に病理解剖を行い,免疫染色追加を行い乳癌胃転移の診断に至った.
症例は28歳女性.発熱と右側腹部痛を主訴に来院し,伝染性単核球症と診断した.腹部CTで胃周囲リンパ節腫大を,上部消化管内視鏡検査で穹窿部などにびらんを認めた.病理組織検査では高度のリンパ球浸潤を認め,EBER-ISHではEBウイルス感染細胞を認めた.2カ月後びらんは改善しており,EBウイルス感染が原因と考えた.EBウイルス関連胃炎の報告は少なく,文献的考察を含めて報告する.
症例は34歳女性.心窩部痛を主訴に受診され,造影CTで胆道出血と診断された.基礎疾患にOsler病があり,肝内には無数の動静脈シャントを有していた.ERCPによる経乳頭的ドレナージを行ったが,繰り返す出血および肝実質の壊死により膿瘍が多発し,肝不全に至った.DICを併発し,さらに出血が制御困難となり,第224病日に永眠された.きわめてまれな病態であり,肝移植を含めた治療法の再検討が必要と考えられた.
症例は62歳男性.胆管癌術後8年経過後に胆管空腸吻合部に胆管癌を発症した.胆管炎に対して胆管ステントを留置したが,胆管炎再燃と肝膿瘍出現によりステント交換を試みた.しかし,バルーン内視鏡挿入下ステント抜去後に心肺停止に至った.蘇生後画像検査で空気塞栓症と診断し,治療を行うも発症114日後に永眠された.病理解剖での腺癌が進展した胆管と静脈の近接所見などから,胆管―静脈シャントの存在が示唆された.