DNAポリメラーゼδ補助蛋白質であるPCNAに対する抗体を用いて, 大腸腺腫, 早期および進行大腸癌の細胞動態を明らかにすることを試みた. すなわち, 正常粘膜部, 腺腫部, 癌部におけるPCNA陽性細胞の分布様式を検討した. 対象は内視鏡的あるいは外科的に切除された腺腫6例, 早期大腸癌33例, 進行癌6例である. PCNA陽性細胞比率は, 正常部分, 腺腫部分, 癌部において1000個の細胞を数えて算出した. PCNA陽性細胞比率の平均は正常粘膜部, 腺腫部, 癌部でそれぞれ30, 49, 72%で
p<0.01で有意差を認めた. 正常粘膜ではPCNA陽性細胞は粘膜の下1/2に分布するのに対し, 腺腫部ではより上方にまで分布していた. また, 癌部では陽性細胞はびまん性に広く分布するものが多く, かつその染色性も強かった. さらに, PCNA陽性細胞比率は大腸腫瘍の growth fraction にほぼ一致し, かつその異型度と相関するが, 癌腫の深達度とは相関しないと考えられた. 癌腫ではより高いPCNA陽性細胞比率を維持し, 局所での増殖細胞密度を高めていることがわかった.
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