日本消化器病学会雑誌
Online ISSN : 1349-7693
Print ISSN : 0446-6586
107 巻, 3 号
選択された号の論文の13件中1~13を表示しています
特別寄稿:第95回総会会長講演
  • 浅香 正博
    2010 年 107 巻 3 号 p. 359-364
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/03/05
    ジャーナル フリー
    JGSG研究の結果により,除菌により胃癌発生が約1/3に抑制されることが明らかになったが,同時に胃癌の発生を完璧に抑制できないことも明らかになった.そのため,一次予防としての除菌と二次予防としての内視鏡検査の組み合わせが胃癌による死亡をなくすために重要であると思われるが,その際,どのくらい費用がかかるのか算定を行った.その結果,ペプシノーゲン,H. pylori抗体測定によるスクリーニングとH. pylori除菌は,医療費を当初は押し上げるが,胃癌の治療費が激減するため大幅な医療費節減効果を発揮する.この方策により,5年間で約15万人の胃癌死を減少させることが可能となる.さらに胃癌死による逸失利益を加算するとこのプロジェクトの医療削減効果は絶大であると推定できる.このプロジェクトの遂行により胃癌は10年以内に現在の10~20%以下に減少する可能性が高いので,政府主導でできる限り早く開始することが強く望まれる.
総説
  • 今村 正之
    2010 年 107 巻 3 号 p. 365-373
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/03/05
    ジャーナル フリー
    消化器神経内分泌腫瘍は比較的発生頻度が低く,各施設での経験数に限りがあるために診療の標準化が進まなかったが,近年の局在診断法の進歩にともない切除例が増加するに連れて,興味深い病態が解明されてきた.治療面の進歩も著しいものがあり,国際的な関心が高まりつつある.2003年にNETのWHO病理分類が改定され,またカルチノイドという消化管NETに与えられていた名称が消えた.新しい局在診断法として1987年に著者らが開発した選択的動脈内刺激薬注入法(SASI Test)とソマトスタチン受容体シンチグラフィー(SRS)が国際的に標準的診断法として普及しているが,SRSは本邦ではいまだに承認されず,診療上に支障が出ている.外科的·内科的治療法の標準化に加えて,分子標的治療薬の治験が始まり,ソマトスタチン療法の進歩が患者に恩恵をもたらしつつある.
今月のテーマ:神経内分泌腫瘍のUPDATE
  • 笹野 公伸
    2010 年 107 巻 3 号 p. 374-379
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/03/05
    ジャーナル フリー
    腫瘍細胞に何らかの神経内分泌への分化を有する腫瘍は神経内分泌腫瘍(neuroendocrine tumor;NET)と総称される.神経内分泌への分化現象はクロモグラニンAなどの神経内分泌マーカーの発現を免疫組織化学的に確認することで検討されることが多い.この腫瘍は従来カルチノイド腫瘍という名称で位置づけられることが多く少なからぬ混乱が見られたが,現在はNET,あるいは消化管に発生する場合はendocrine tumorという診断名が使われている.さらにWHO分類他ではKi67/MIB1の標識率で検討した細胞増殖,組織学的分化,浸潤の程度などで高分化型神経内分泌腫瘍,高分化型神経内分泌癌,低分化型神経内分泌癌の3つに分類されている.この分類により患者の術後の治療方針が規範されるため消化器病専門医にとってもこの病理組織分類を理解することが非常に重要である.
  • 木村 理, 手塚 康二, 平井 一郎
    2010 年 107 巻 3 号 p. 380-391
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/03/05
    ジャーナル フリー
    消化管神経内分泌腫瘍(GI-NETs)および膵神経内分泌腫瘍(P-NETs)の外科治療法について概説した.GI-NETについては高分化型NETsの場合は,基本的に1cm未満で粘膜下層までの浸潤と診断されれば,内視鏡的粘膜切除術(EMR)や内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)などで内視鏡的に切除し,悪性度によって,経過観察か追加切除かを決定する.内分泌細胞癌を含む低分化型NETsに対しては,定型的なリンパ節郭清をともなう根治手術を選択する.P-NETsについては原発巣に対しては,腫瘍核出術,脾温存尾側膵切除術,脾臓摘出術を加えた膵体尾部切除術,膵頭十二指腸切除術やまれに十二指腸温存膵頭切除術などが症例に応じて選択される.悪性度の高いもの,リンパ節転移が疑われるものには予防的リンパ節郭清を考慮する.肝転移巣に対しては外科治療が第一選択となるが,化学療法やホルモン療法などの集学的治療が重要である.膵腫瘍核出術および脾温存膵体尾部切除術の手術手技について詳しく述べた.
  • 海野 倫明
    2010 年 107 巻 3 号 p. 392-395
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/03/05
    ジャーナル フリー
    神経内分泌腫瘍の分子基盤が明らかになりそのKey moleculeを標的とした分子標的治療が進歩している.その代表的な3つの薬剤,ソマトスタチン受容体を標的としたOctreotide,受容体チロシンキナーゼを標的としたSunitinib,PI3K-AKTシグナル伝達系のmTORを標的としたEverolimusについて,欧米での臨床試験結果を概略する.第II相臨床試験,第III相臨床試験の結果から,これら薬剤は有効である可能性が高く今後広く実地臨床に使用されるものと考える.神経内分泌腫瘍の分子標的治療は途についたばかりであるが,その効果は大きく従来の概念を180度変換する可能性もあり,今後の動向に着目する必要がある.
原著
  • 片倉 芳樹, 中原 一有, 小林 美奈子, 足立 清太郎, 伊澤 直樹, 野口 陽平, 中津 智子, 佐藤 義典, 高木 麗, 伊東 文生
    2010 年 107 巻 3 号 p. 396-406
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/03/05
    ジャーナル フリー
    切除不能膵癌153例を対象に,65歳未満の若年者,75歳以上の後期高齢者とその間の前期高齢者に分け治療成績を比較検討した.対症療法選択例での理由は後期高齢者では家族の希望が,他の年齢層では全身状態不良が最多であった.gemcitabine(GEM)治療例では各年齢層間で奏効率や副作用の他,副作用によるGEMの減量·休薬および中止率にも差がなかった.背景およびGEM治療への反応を用いた多変量解析では年齢的因子は導出されず,重要因子はGEM治療によるCA19-9値とperformancestatusの変化であった.高齢者切除不能膵癌例に対するGEM治療は若年者と同様に安全かつ有効であった.
症例報告
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