日本消化器病学会雑誌
Online ISSN : 1349-7693
Print ISSN : 0446-6586
106 巻, 10 号
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総説
  • 大久保 貴生, 高山 忠利, 檜垣 時夫, 東風 貢
    2009 年 106 巻 10 号 p. 1413-1420
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/15
    ジャーナル フリー
    大腸癌肝転移に関して外科的手術は長期予後の改善が期待できる唯一の治療法である.大腸癌肝転移切除後の5年生存率は20∼50%といわれている.積極的な手術適応の拡大によって,予後不良因子をもつ症例でも長期生存が報告される一方で,肝切除後の再発も多く,初発再発部位としては残肝再発が最も多いが,多くの患者に肝外再発例も認められている.大腸癌,特にステージIII結腸癌の術後補助化学療法については,有用性が確立している.しかし国内外において肝転移切除例に対する再発予防のための補助化学療法をするべきか否か,補助化学療法を行うとすればどのような治療レジメンがよいのか,の問題については客観的な証拠は得られていない.そのため補助化学療法の期間やタイミング(術後,術前,術前後),患者の選別などに関してさらなる検討が必要である.今後,ベストコンビネーション,至適投与スケジュールなどを模索する臨床試験が望まれる.さらなる生存率の向上には補助化学療法を含めた集学的治療に期待が高まっており,本稿では,大腸癌肝転移の肝切除と化学療法について概説する.
今月のテーマ:多様化する転移性肝癌の治療―大腸癌肝転移を中心に
  • 小池 幸宏
    2009 年 106 巻 10 号 p. 1421-1427
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/15
    ジャーナル フリー
    転移性肝癌に対する治療の第一選択は外科切除であるが,切除可能症例は一部に限られる.近年化学療法の急速な進歩とともに切除不能症例の予後は飛躍的に改善したが,なお化学療法無効例が多く存在し,一旦奏効したとしてもほとんどの症例で癌の再増殖が認められる.肝癌の低侵襲局所治療法であるラジオ波焼灼療法は,原発性肝癌の治療法として広く用いられているが,転移性肝癌症例においても集学的治療法のひとつとして重要な役割を果たせる可能性がある.切除可能症例に対する軽々しい導入は避けるべきであるが,治療成績の集積によりEBMを構築することで,肝転移に対する一般的治療法としての位置づけを獲得することが期待される.
  • 辻 晃仁
    2009 年 106 巻 10 号 p. 1428-1437
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/15
    ジャーナル フリー
    大腸癌化学療法について,肝転移を中心に概説した.全身化学療法は新規抗がん剤や分子標的薬剤の開発により長足の進歩をとげ,生存期間延長効果はもちろんのこと,局所効果でも極めて高い成績を示すようになってきた.今回大腸癌治療ガイドライン2009年版も公表され,大腸癌の標準的化学療法がほぼ定まりつつあり,今後も,分子標的薬剤を中心としたさらなる化学療法の治療成績の向上が期待されている.また,大腸癌肝転移症例に対するcommunity standardとして広く認知されてきた肝動注化学療法は,一次治療としてではなく,三次以降の治療や全身化学療法との併用療法,標準的化学療法が施行できない場合の治療法の位置づけとなりつつある.一方,新規薬剤の開発にあわせた新たな治療法の臨床への導入やそれにともなう新たな有害事象や複雑な治療手技の出現もみられる.今後は,これら標準治療を安全確実に施行できるための化学療法のレジメン管理や治療マニュアルなどの整備も重要になってくると考えられた.
  • 吉留 博之, 木村 文夫, 清水 宏明, 大塚 将之, 宮崎 勝
    2009 年 106 巻 10 号 p. 1438-1446
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/15
    ジャーナル フリー
    大腸癌肝転移は大腸癌症例の予後を規定する重要な因子であり,肝切除はその予後を改善する有効な治療法である.両葉多発肝転移例や大血管浸潤例に対しても,さまざまな外科手術手技を併施し肝切除の適応は拡大されているのが現状である.一方,大腸癌に対する新規抗癌剤併用療法や分子標的治療薬の進歩はめざましく,切除不能肝転移例を切除可能へと移行させる治療戦略となりつつあり,また切除可能例に対してもより根治性を高めることで,予後向上につなげることを目的として術前化学療法が施行されるようになってきている.外科的治療は以前に比してより集学的治療戦略として行われ,今後これらの進歩を踏まえた新たな治療戦略が今後期待される.
座談会:多様化する転移性肝癌の治療―大腸癌肝転移を中心に
原著
  • 植村 昌代, 堀木 紀行, 鈴木 祥子, 石井 直樹, 飯塚 雄介, 福田 勝之, 大東 誠司, 藤田 善幸
    2009 年 106 巻 10 号 p. 1466-1477
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/15
    ジャーナル フリー
    消化管術後吻合部狭窄例において,高度狭窄のため遠位腸管の状態が確認できず穿孔の危険性が高いと考えられた症例や,治療抵抗性で繰り返し治療を要する症例に対し,針状メスの代わりにITナイフを用いた切開法について検討した.胃空腸吻合部高度狭窄3例,食道癌根治術後吻合部狭窄2例,回腸∼上行結腸の端側吻合部狭窄1例の計6例に対して検討した.透視下で先端に絶縁体がついたITナイフを使用して切開することで,遠位腸管に傷をつけることなく,安全に十分な切除が可能であり,また長期間再発がなく,良好な結果が得られた.ITナイフ切開法は従来の治療法では危険をともない,また頻回の治療に抵抗性の高度狭窄例には有効な治療法と考えられた.
  • 古田 賢司, 石原 俊治, 佐藤 秀一, 三宅 達也, 石村 典久, 越野 健司, 飛田 博史, 森山 一郎, 天野 祐二, 足立 経一, ...
    2009 年 106 巻 10 号 p. 1478-1487
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/15
    ジャーナル フリー
    患者の上部から下部までの消化管症状に起因するQOLの低下を包括的に評価できる疾患特異的なQOL尺度である新問診票(出雲スケール)を作成し,その妥当性と信頼性を検証した.VASとの間のスピアマンの順位相関係数,級内相関係数,クロンバックのα係数はそれぞれ「胸やけ症状」で0.581,0.778,0.616,「胃痛症状」で0.708,0.852,0.714,「胃もたれ症状」で0.716,0.755,0.724,「便秘症状」で0.753,0.786,0.742,「下痢症状」で0.748,0.887,0.805であった.以上より出雲スケールは疾患特異的QOL尺度の評価に有用なツールであることが示された.
症例報告
  • 柿崎 暁, 鈴木 秀行, 市川 武, 佐藤 賢, 高木 均, 森 昌朋, 湯浅 圭一朗
    2009 年 106 巻 10 号 p. 1488-1493
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/15
    ジャーナル フリー
    症例は46歳,女性.自己免疫性肝炎治療中の肝機能増悪の原因が,プレドニゾロンの先発医薬品からジェネリック医薬品への変更と考えられた.肝炎の増悪で入院.退院後の外来通院に際し,プレドニゾロンを先発品から後発品へ変更したところトランスアミナーゼの再上昇を認めた.先発品に戻したところ,同量でトランスアミナーゼは改善した.無論,後発品の多くは有効であるが,変更の際,留意すべき症例もあると考え報告する.
  • 中野 克俊, 山下 晋也, 相馬 逸郎, 林 伸泰, 桧垣 直純, 村上 雅一, 林田 博人, 菅 和臣, 市原 隆夫, 左近 賢人, 綾田 ...
    2009 年 106 巻 10 号 p. 1494-1499
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/15
    ジャーナル フリー
    症例は52歳,男性.人間ドックにて膵尾部に腫瘤を指摘され,当院に紹介となった.CTでは,膵尾部に径5 cm大の中心部に広範な石灰化をきたした腫瘤として描出された.MRIでは,中心部が粗大石灰化に相当する無信号域として描出され,辺縁部の非石灰化実質部分は境界明瞭で,動脈相では比較的よく造影された.術前検査では確診には至らず,膵尾部·脾臓合併切除術を施行した.病理組織診断は,石灰化をともなう非機能性膵島細胞腫瘍であった.本疾患は巨大化すると嚢胞化することはあるが,本症例のように広範に石灰化をきたすことは非常にまれである.膵腫瘍の診断には,常にこのような画像を呈する膵島細胞腫瘍を念頭に置く必要があると考えられた.
  • 三浦 智史, 山田 聡志, 丸山 弦, 中村 潤一郎, 三浦 努, 柳 雅彦, 高橋 達
    2009 年 106 巻 10 号 p. 1500-1507
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/15
    ジャーナル フリー
    症例は28歳女性.妊娠26週2日に圧痛をともなう腹部腫瘤を主訴に近医を受診した.検査で進行胃癌,多発肝転移,多発リンパ節転移,腹膜播種を認め,高次治療目的に27週1日に当院へ転院した.化学療法が児に及ぼす影響を懸念し,児が体外で成育可能な28週まで妊娠を継続する方針とした.28週1日に帝王切開術にて958 gの児を得た.妊婦は産後3日目に呼吸困難をきたし癌性リンパ管症と判明した.延命と症状緩和を目的に,産後4日目よりS-1+paclitaxel併用療法(S-1 100 mg/日 3週投与 2週休薬,paclitaxel 70 mg/body day 1,8,15,いずれも5週毎)を開始した.癌性リンパ管症は一時的に改善し自覚症状の軽快をみたが,産後24日目より症状が再増悪した.産後28日目より2コース目を開始したが,症状は改善せず,全身状態が徐々に悪化し産後33日目に永眠された.胃癌合併妊娠はまれだが発見時にはすでに進行癌であることが多く,予後不良である.母児の状態を総合的に判断して治療方針を決定する必要がある.悪阻による腹部症状が持続する症例には癌の存在を疑い,積極的に上部消化管内視鏡検査を行う必要がある.
  • 安永 祐一, 長井 健悟, 松浦 倫子, 山井 琢陽, 池添 実里, 白石 衣里, 柳川 和範, 西原 承緒, 乾 由明, 興梠 隆, 西川 ...
    2009 年 106 巻 10 号 p. 1508-1515
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/15
    ジャーナル フリー
    48歳女性.鉄欠乏性貧血(Hb 8.1 g/dl)とH. pylori関連皺襞肥大型胃炎に対し,除菌療法を施行,貧血は10∼16カ月後にほぼ正常化.前後で鉄吸収試験と基礎酸分泌能測定を行い,鉄吸収は3.5カ月後,基礎酸分泌能は15カ月後に増加した.以上より除菌療法による鉄欠乏性貧血の改善に鉄吸収の増加が関与する可能性が示唆された.また鉄吸収の増加には酸分泌の増加以外の機序が関与する可能性が示唆された.
  • 本田 悌一朗, 牧野 直彦, 白幡 名香雄, 戸澤 智浩, 池田 祐之, 宗 幹之, 松田 暁子, 加藤 哲子, 本山 悌一, 河田 純男
    2009 年 106 巻 10 号 p. 1516-1523
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/15
    ジャーナル フリー
    症例は67歳,女性.倦怠感を主訴に受診した.体表には多発する神経鞘腫とcafé-au-lait spotを認めた.CTにて膵頭部に石灰化をともなう径5 cmの腫瘍と多発性肝転移,胆道拡張を認めた.上部消化管内視鏡検査で,上十二指腸角肛門側に乳頭状腫瘍による狭窄と変形を認め,生検にてカルチノイドと診断された.告知の上,治療の必要性を説明したが,すべての治療を拒否されたため対症療法を中心に経過し,約3カ月後,肝不全にて永眠された.病理解剖上,腫瘍は,十二指腸乳頭部から発生した遠隔転移をともなうカルチノイドであり,病理組織学的に,腫瘍細胞内に砂粒体,ソマトスタチン産生を認め,間質にはアミロイドの沈着をともなっていた.Neurofibromatosis type 1合併カルチノイドにアミロイド沈着をともなう貴重な症例と考え報告する.
  • 高橋 広喜, 千田 信之, 木村 憲治, 山尾 陽子, 塩塚 かおり, 立之 英明, 泡渕 賢, 阿子島 裕倫, 杉村 美華子, 野口 謙治 ...
    2009 年 106 巻 10 号 p. 1524-1530
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/15
    ジャーナル フリー
    症例は20歳女性.上腹部痛を主訴に入院した.腹部造影CT検査で左上腹部に15 cm大の腫瘤と腹膜播種を認めた.小腸造影では空腸と腫瘍内部に穿通を認めた.開腹術を施行したが腫瘍は空腸間膜から結腸,後腹膜へ浸潤していたため播種巣のみ摘出した.病理組織検査にて,Ewing's sarcoma/peripheral primitive neuroectodermal tumorと診断した.急速な経過をたどり,診断後約40日で多臓器不全を呈し死亡した1例を経験したので報告する.
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