便秘はQOLを低下させるため適切な治療が必要であるが,最近患者と医師の間では便秘の認識の差が明らかとなっている.医師は便回数など客観的症状に注目しているが,患者はむしろ腹部症状を重要視している.わが国の便秘診療の特徴は,緩下剤である酸化マグネシウム(カマ)と刺激性下剤の使用が極端に多いことである.酸化マグネシウムは優れた緩下剤であるが,最近高マグネシウム血症の報告があり注意を要する.また刺激性下剤は効果が高いものの,習慣性や耐性を生じるので慢性的に使用すべき薬剤ではない.最近新しい機序を有する便秘薬が相次いで登場しているが,これらも上手に使って患者満足度を高める便秘治療を行うことが望まれる.
日本人の腸内細菌叢は独特の特徴的な細菌叢であり,Bifidobacterium属が多いことも特徴である.慢性便秘症患者では多彩な腸内細菌叢の変化が観察されるが,日本人の糞便細菌叢には明らかな性差があり,年齢別,ブリストル便性状スコア別にも細菌叢の特徴が明らかにされた.糞便中細菌叢に加えて,粘液層中心に局在する粘膜関連細菌叢解析も進められている.慢性便秘患者の糞便を無菌マウスに移植したノトバイオート研究から新たな病態機構の解明が進みつつあり,短鎖脂肪酸,二次胆汁酸の減少が慢性便秘症の病態に関わっている.慢性便秘症に対する糞便移植も試みられている.
便秘は,生活の質に影響を及ぼす症状の1つである.便秘の診断には多段階のプロセスが必要であり,特に器質的疾患を示唆する警告症状に注意が必要である.便秘はその病態から大腸通過正常型,大腸通過遅延型,機能性便排出障害の,大きく3タイプに分類される.本稿ではそれぞれの病態生理および原因について解説するが,それぞれのタイプは完全に独立したものではなく,overlapが見られる点にも注意を要する.今後ますます患者数の増加が予想される便秘の病態生理は,いまだ不明な部分も多い.適切な治療を行っていくためには便秘の病態把握は必須であり,今後のさらなる病態研究と新規治療開発が望まれる.
慢性便秘症は消化器科のみならずあらゆる診療科で診なければならない診療科横断的な疾患であるが,消化器専門医には特に難治例の紹介が多いことから当該疾患の診療に精通する必要がある.近年日本消化器病学会附置研究会により,本邦初の慢性便秘症診療ガイドラインが刊行されたことや続々と新薬が登場している状況を鑑みると,まさにいかに診断していかにスマートに治療するかを問われているといっても過言ではない状況である.
慢性便秘症の多くは保存的療法で改善するが,限られた症例では外科治療を必要とし,なおかつ外科治療によって症状が著明に改善する場合もある.主な外科治療には,高度大腸通過遅延型便秘症に対する大腸切除術,直腸瘤に対する直腸瘤修復術,直腸重積に対するventral rectopexyやstapled transanal rectal resection,難治性排便障害に対する順行性洗腸法がある.慢性便秘症に対する外科治療では,たとえ手術で解剖学的に正常と思われる状態に修復しても,必ずしも症状が改善するとは限らないので,適応症例を適切に選択した上で患者に手術の目的と意義を丁寧に説明することが重要である.
症例は慢性骨髄性白血病に対してダサチニブ内服中の51歳男性.下部消化管内視鏡検査でびらん,白苔をともなった芋虫状の大腸ポリポーシスを認めた.ポリープの病理組織像は過形成性腺管と平滑筋の樹枝状,放射状増生が特徴的で,慢性炎症を原因とする炎症反応性ポリポーシスと考えられた.ダサチニブ中止によりポリポーシスは著明に改善したことから,ダサチニブによる下部消化管の慢性炎症が原因のポリポーシスと考えた.
症例は70歳代女性.心窩部痛,背部痛を主訴に当科を受診した.上部消化管内視鏡検査では胃体部に粘膜下腫瘍様隆起が多発していた.生検組織で非乾酪性肉芽腫を認め,胃液の結核菌培養および核酸増幅法検査で結核菌を同定し,胃結核と診断した.高齢化が進む本邦において,胃結核を含む消化管結核を鑑別疾患に挙げることは重要である.自験例は,胃結核の発症機序を類推する上で示唆に富む症例と考えられた.
症例は19歳女性.初発の小腸大腸型クローン病に対して胸部X線写真と抗原特異的インターフェロンγ遊離検査の陰性を確認しインフリキシマブを開始したが,10週間後に肺結核を発症した.肺結核は抗結核薬4剤併用療法で改善し,クローン病にはインフリキシマブを中止しブデソニドを投与した.結核スクリーニング検査が陰性でも,抗TNF-α抗体製剤使用中に呼吸器症状を認めた場合,結核感染症も念頭に置く必要がある.
症例は54歳男性で,15年前に潰瘍性大腸炎急性増悪により大腸全摘術が施行された.回腸囊肛門管吻合術後に難治性回腸囊炎を発症し,各種治療に不応で時折潰瘍出血を繰り返していた.ブデソニド注腸フォーム剤が使用可能となったため治療を試みたところ,2カ月の使用にて明らかに潰瘍の縮小・瘢痕化が認められた.ブデソニド注腸フォーム剤は,今後も回腸囊炎の治療の一翼を担う手段として期待される.
症例は54歳男性.黒色便を主訴に来院し,十二指腸炎として経過観察していた.心窩部痛が出現したためダイナミックCTを施行し,膵頭部に血管異常を認めた.胆管造影で総胆管と膵管が同時に造影され,膵動静脈奇形による総胆管・膵管穿破と考えた.内科的治療を行うも心窩部痛が急速に増悪したため,膵頭十二指腸切除術を行った.有症状の膵動静脈奇形の場合,耐術能を踏まえた上で積極的に外科的切除を検討すべきと考えられた.