胃癌における化学療法は,切除不能・進行再発胃癌に対するもの,手術の前後に行われるものに大別される.種々の臨床試験の結果より殺細胞性の抗癌剤や分子標的薬,免疫チェックポイント阻害剤などが使用されるようになってきた.切除不能・進行再発胃癌に対しては,胃癌治療ガイドラインには三次治療まで推奨されるレジメンが提示されている.また術後補助化学療法では新たなエビデンスができつつあり,今後は術前補助化学療法の治療開発に期待したい.
補助化学療法の目的は,根治手術で取り切れる範囲外に散らばった微小な癌を死滅させることにある.本邦では,Stage II/IIIに対して,補助化学療法が行われる.現時点では,D2胃切除後にS-1またはCapeOXが標準治療として推奨される.Stage IIに対しては,可能な限りS-1を1年間,継続投与することが推奨される.Stage IIIに対しては,S-1/Docetaxelが標準治療として確立すると期待されている.現在,免疫チェックポイント阻害薬を含めた補助化学療法の開発,術前補助化学療法を含めた周術期補助化学療法の開発が進められている.欧州では,MAGIC試験によりECF療法が,FLOT4試験によりFLOT療法が,周術期補助化学療法として確立した.分子標的薬を上乗せするレジメンの開発も進められている.
切除不能・再発胃癌の主たる治療法は化学療法である.本邦における一次治療は,HER2陰性例ではS-1+シスプラチン療法やS-1+オキサリプラチン療法が,HER2陽性例ではカペシタビン+シスプラチン+トラスツズマブ療法が標準的である.また二次治療の意義が明らかになり,ラムシルマブ+パクリタキセル療法が標準的に用いられる.さらに,三次治療としてニボルマブの有用性が明らかになった.抗PD-1抗体薬と殺細胞薬のコンビネーションも各ラインで検証されており,今後のさらなる展開が期待される.臨床腫瘍医は,切除不能進行・再発胃癌に対し有効な6剤すべてを使い切る戦略を考慮して治療にあたることが望ましい.
胃癌の化学療法として,殺細胞性抗癌剤,分子標的薬,免疫チェックポイント阻害薬(ICI)が開発され,再発率の低下や生存期間の延長が示された.そのため,今まで認められなかったような有害事象への対応や高額な治療費用負担など,化学療法を行う上でさまざまな問題が生じている.特にICIは,自己免疫関連の有害事象の発生を認め,治療担当科のみだけでは対応が難しい.そのため,看護師,薬剤師,他科診療科との連携を行い,チームで有害事象の早期発見,治療に取り組む必要がある.当院では,一般的な化学療法に対応するチームとは別に,ICIにおける有害事象対策のためのチーム医療を構築し,安全に治療を継続するよう取り組んでいる.
症例は,65歳男性.十二指腸水平部遠位側に粘膜下腫瘍を認め,十二指腸部分切除術と同時に皮膚腫瘍を切除した.手術所見では,同部に30mm大の弾性軟腫瘤を認め,空腸110cmまで3~5mmの小結節を20~30cmおきに認めた.病理検査でGISTと神経線維腫と診断された.切除検体からc-kit遺伝子変異を解析したところ変異は認めず,imatinibは効果が期待できないと思われた.
66歳男性.大腸憩室出血で入院した際,基礎疾患のため内服していた抗血栓薬(ダビガトラン,ベラプロスト)を3日間中止した.約2カ月後に急性膵炎を発症し,その後膵仮性囊胞を形成した.造影CTにて心房内血栓,限局性脾梗塞を認めており,血栓による虚血性膵炎が疑われた.一時的な抗血栓薬の中止が虚血性膵炎の原因と考えられた.
症例は76歳,女性.遠位胆管癌と診断して亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した.結節浸潤型の腫瘍を認め,病理組織学的検索では,胆管内腔側に高分化型管状腺癌,胆管外側の腫瘍浸潤部に神経内分泌癌を認めた.免疫組織化学染色では,サイトケラチンとMUC染色にて両者の相同性が認められ同一起源と推測した.治癒切除が施行され予後確認が可能であった22例の要約を加えて,診断治療の問題点を考察して報告する.
症例は80歳男性.C型慢性肝炎にともなう肝細胞癌の再発を認めたが,膵頭十二指腸切除の既往があり,肝予備能が不良であることから,肝動脈化学塞栓療法を行った.治療2日後にガス産生性肝膿瘍を発症し,膿瘍の細菌培養および血液培養でClostridium perfringensを検出した.早期に肝膿瘍ドレナージを行い,メロペネムおよびクリンダマイシンを投与し,重度の溶血をおこさず,救命し得た.
症例は57歳男性.前医で膵頭部に悪性腫瘍が疑われ,超音波内視鏡下穿刺吸引術(EUS-FNA)を施行されたが確定診断には至らなかった.当院で施行した超音波内視鏡下エラストグラフィーおよび造影ハーモニック超音波内視鏡検査において悪性所見に乏しく,腫瘤形成性膵炎や自己免疫性膵炎が疑われた.再検したEUS-FNAの検体にて好中球性膵管障害を認め,2型自己免疫性膵炎と診断しステロイド治療が奏功した.