ウイルス肝炎における肝発癌機序解明を中心とする研究を,主に実験的な方法を用いて検討してきたが,出発点は自身の経験した症例であった.炎症や肝線維化のない若いB型肝炎患者での肝癌発生,早期C型慢性肝炎における肝脂肪化の高率な発生という臨床的観察から,肝発癌や代謝において肝炎ウイルスがもつ病原性発生の機序を明らかにした.また,「C型肝炎は代謝性疾患である」という新たなパラダイム提出から,増加する代謝関連肝癌の病態解明へと進むことができた.肝炎,肝癌との戦いの中で勝利を感じている肝臓医は多いと思われるが,肝炎ウイルスという外敵に勝利しても,代謝関連肝癌という内なる敵が待ち受けている.戦いは終わらない.
2007年に分子標的薬ソラフェニブが登場して以来,肝細胞癌に対する薬物療法は大きく変化した.遠隔転移,脈管浸潤に対する治療選択肢が増え,肝癌の進行状態でもある程度長期生存が得られるようになったが,縮小効果が乏しいことや手足症候群などの比較的強い毒性から,ソラフェニブに代わる新規分子標的薬やソラフェニブ治療に進行性の二次治療薬の開発が精力的に進められてきた.しかし多くの臨床試験が10年間失敗し続けた後,2017年と2018年の2年間で立て続けに4剤(レゴラフェニブ,レンバチニブ,カボザンチニブ,ラムシルマブ)が臨床試験に成功した.また,免疫チェックポイント阻害薬も単剤,コンビネーションともに治験が進行中である.
本邦で進行肝細胞癌治療に対するソラフェニブ登場後9年が経過し,その使用経験から高齢者での忍容性,開始用量,予後予測因子,導入タイミングなど多岐にわたる検討がなされてきた.その後,レゴラフェニブやレンバチニブが承認され,今後もさらなる薬剤の承認が見込まれているが,予後延長のための各薬剤の明確な投与順序はまだ定まっていない.これまでのエビデンスを基に考慮するとソラフェニブの後治療にはレゴラフェニブや今後承認される薬剤などがあり,使用経験が豊富なソラフェニブを基軸とした集学的治療を開始し,適切なタイミングで次治療へ移行することが進行肝癌の予後延長につながると期待される.
進行肝細胞癌においてソラフェニブの有効性が示されて以降,複数の有望な化合物の開発治験が不成功に終わった.ほぼ10年間の“進行肝細胞癌に対する薬物治療開発の不毛時代”の後,進行肝細胞癌に対する2剤目の有効性を示したチロシンキナーゼ阻害薬がレゴラフェニブである.適正使用の啓蒙により,当初懸念されていた有害事象のマネージメントも難渋することは多くない.進行肝細胞癌において複数のチロシンキナーゼ阻害薬が使用できる“マルチ・チロシンキナーゼ阻害薬時代”が到来したといえる.今後,より適切な症例にレゴラフェニブを使うべく,チロシンキナーゼ阻害薬の選択の根拠となり得るリアルワールドデータが求められている.
肝細胞癌に対する分子標的治療は長らくソラフェニブのみであった.2017年6月に二次治療としてレゴラフェニブが登場し,2018年3月にはレンバチニブが一次治療として使用可能となった.レンバチニブは受容体型チロシンキナーゼ阻害薬でVEGFRやFGFRに対して強い阻害活性があり,血管新生阻害,腫瘍増殖抑制の効果を有する.レンバチニブは,国際共同第3相試験(REFLECT試験)で対照薬であるソラフェニブに対して主要評価項目である全生存期間(OS)の非劣性と,副次評価項目である無増悪生存期間(PFS),無増悪期間(TTP),奏効率において優位性を証明した.2017年に改訂された肝癌診療ガイドラインでも肝癌薬物療法の重要性が増しており,その中でレンバチニブは中心的役割を担っている.有害事象のプロファイルはソラフェニブと異なる特徴があり,高血圧,蛋白尿,甲状腺機能異常,肝性脳症などに注意が必要である.
免疫チェックポイント機構の発見は最近のがん治療の発展に大きな貢献を果たしている.2011年に米国において抗CTLA-4抗体Ipilimumabが悪性黒色腫に対して承認されたのを皮切りに,抗PD-1抗体,抗PD-L1抗体が複数の癌種においてすでに承認され,臨床導入されている.肝細胞がんに対しても数多くの臨床試験が行われており,その成果が大きな期待とともに待たれている.免疫チェックポイント阻害剤は分子標的治療薬や局所療法との相乗効果も示唆されており,肝細胞がんに対する既存の標準治療への併用も期待されている.免疫チェックポイント阻害剤の登場により肝細胞がんの治療はいま大きな変革期を迎えようとしている.
症例は60歳代,男性.水様性下痢が持続するため当科紹介となり,下部消化管内視鏡検査(CS)を行い左側大腸炎型の潰瘍性大腸炎(UC)と診断した.その際に上部直腸に30mm大の側方発育型腫瘍を認めたため,5-アミノサリチル酸の内服,坐剤で寛解導入を行い,CSで粘膜治癒を確認した上で内視鏡的粘膜下層剥離術を行った.最終病理組織診断結果は,UCに併発したsporadicな高異型度管状腺腫であった.
化学放射線療法で完全奏功後,長期生存中の食道神経内分泌癌の1例を経験した.69歳女性.食物のつかえ感を主訴に受診し,諸検査により食道神経内分泌癌(小細胞型)cT2N1M0 cStage IIと診断した.治療は,Cisplatin+Etoposide療法と放射線治療を施行した.治療後完全奏功となり,7年再発なく経過中である.化学放射線療法は食道神経内分泌癌の有効な治療手段である.
症例は79歳女性.腰痛精査目的のMRIで後腹膜腫瘤を指摘された.CTでは膵尾部に多血性腫瘤を認め,超音波内視鏡下穿刺吸引法で膵神経内分泌腫瘍と診断.後腹膜腫瘤はリンパ節転移と考え手術を施行したが,術中に急激な血圧上昇あり.病理診断で,膵神経内分泌腫瘍に合併したparagangliomaの診断となった.神経内分泌腫瘍とparagangliomaの鑑別点につき検討する.
78歳女性.6年前に貧血精査の超音波検査で7cm大の肝腫瘤を指摘された.囊胞形成をともなう肝血管腫として経過観察したところ徐々に病変の増大を認め,CT・MRIなどで精査すると囊胞と充実部が混在する腫瘤で胆管の拡張を認めた.胆管内乳頭状腫瘍(IPNB)を第一に考え,肝右葉・尾状葉切除を施行し乳頭状腺癌と診断した.結果的に6年にわたる長期経過観察後に治癒切除し得た本症例は,本腫瘍の緩徐な経過をたどる病態を示すものと考えられた.
症例は83歳男性.膵体部の主膵管狭窄を経過観察し,3年目に精査を行った.MRCPで狭窄部近傍の微小囊胞が増大,ERPで主膵管狭窄が増悪,CTで狭窄部に一致した限局性膵萎縮を認めた.EUSで狭窄部に10mmの低エコー腫瘤を認め,EUS-FNAを施行.腺癌の診断で膵体尾部切除術を施行した.病理所見では9mmの中分化型腺癌を認め,浸潤癌周囲の主膵管と分枝膵管に高異型度膵上皮内腫瘍性病変を認めた.