急性膵炎は,膵内で病的に活性化された膵酵素による膵の無菌的炎症であり,数日の絶食で軽快する軽症から致死率が10%に達する重症急性膵炎まで,多彩な病態を呈する.重症では膵の炎症が全身に波及し,血管内皮細胞障害から遠隔臓器不全や汎血管内凝固症候群をきたす.膵の局所病変は,膵または膵周囲に壊死がある壊死性膵炎と,壊死のない間質性浮腫性膵炎に分けられ,一般的には発症後4週以降では,前者は被包化壊死,後者は仮性囊胞と分類される病態を呈する.さらに重症例では,bacterial translocationによりこれらの局所病変に感染を生じ,適切な治療がなされなければ敗血症を合併する.
トリプシノーゲンの異所性(膵内)活性化(トリプシン生成)に引き続いて生じる連鎖的な諸プロテアーゼの活性化によって,膵の構成細胞が自己消化されるに至るという機構が,膵炎の主要な発症機構と考えられている.腺房細胞内でどのようなメカニズムでトリプシノーゲンの異所性活性化が引きおこされるのか次第に明らかとなり,近年は細胞外からの刺激がどのようにトリプシノーゲンを活性化するのかと範囲を広げて,研究が進められている.さらに,トリプシノーゲンの活性化が必ずしも急性膵炎の発症に必須ではないとする知見も報告され,今後の急性膵炎発症メカニズム研究のさらなる展開が期待される.
急性膵炎の年間受療者数は近年増加傾向にある.死亡率は重症例で10.1%と良性疾患でありながら重篤な疾患であり,予後の改善が求められている.急性膵炎の予後は多くの場合,発症後48時間以内の病態によって決定され,初期診療の善し悪しが患者の生命予後を決定するといっても過言ではない.本稿では,これまで本邦において行われてきた膵炎診療と,2015年発刊されたガイドラインで新たに記載された事項を含め,急性膵炎の初期診療について概説する.また現在本邦における課題についても述べる.今後,エビデンスが蓄積され,急性膵炎診療のさらなる向上が望まれる.
日本膵臓学会と厚生労働省科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業難治性膵疾患に関する調査研究班から支援をいただき,2015年,ERCP後膵炎に対するガイドラインを作成した.ERCP後膵炎の診断基準は日本消化器内視鏡学会で作成されたが,国内でも十分に活用されているとはいいがたかった.外国でも作成されたが改訂されていない.われわれのガイドラインはEBMに基づいたものであり,世界を見回してもEBMに基づくERCP後膵炎のガイドラインはみあたらない.われわれは将来的にERCP後膵炎の診断基準を見直し,より速やかに治療を行い救命できるようにすると同時に,重症のERCP後膵炎を生じさせない方法を検討する必要がある.
急性膵炎後の合併症で内視鏡治療の対象となるのは,囊胞形成と主膵管の狭窄・破綻である.囊胞は,非壊死性膵炎から膵周囲液体貯留(APFC)を経て形成される仮性囊胞(pseudocyst)と,壊死性膵炎から壊死物質が被包化されていく過程でacute necrotic collectionからwalled-off necrosis(WON)に分類される.治療の適応は感染を主体とする有症状例であり,内視鏡的治療としては,超音波内視鏡ガイド下ドレナージと直接スコープをWON腔内へ挿入するnecrosectomy,膵管ドレナージが施行される.病態に応じた治療と適切な手技が必要であり,早期に治療戦略の確立が望まれる.
Clostridium difficile感染症(CDI)に対してメトロニダゾールが承認され,CDIに対する診療の標準化を行うために診断・治療アルゴリズムを導入し,その有用性を検討した.対象は2011年10月から2013年9月までに診断したCDI 66症例で,標準化前を前期群37例,標準化後を後期群29例とし,後方視的に比較検討を行った.後期群の全例で診断に抗原・毒素検出キットが用いられ,93.1%に重症度に応じた適切な抗菌薬の投与がなされていた.後期群の薬剤費用は有意に低下し,臨床的治癒率,再発率,有害事象に差は認められなかった.この検討によりCDI診断・治療標準化の有用性が示された.
症例は79歳男性.持続する黒色便とふらつきを主訴に外来を受診した.同日施行した上部消化管内視鏡検査で胃前庭部に潰瘍性病変を認め,止血処置後に入院加療を行った.その後の精査にて,病変は多発肝転移をともなう大細胞型胃内分泌細胞癌であった.胃癌取扱い規約第14版において,胃内分泌細胞癌が大細胞型と小細胞型に初めて分類され,今後の臨床において病型別の扱い方が大きな課題となる.
Stage IIIAの肺腺癌で左肺上葉切除既往の女性が,フォローでCEAの上昇を認めた.PET-CTで左肺門リンパ節と膵尾部への集積と,EUSで膵尾部に腫瘤を認めた.EUS-FNAで免疫組織化学染色を行い,染色パターンと病歴から肺腺癌の膵転移と診断した.EUS-FNAを利用した確実な診断により肺腺癌に準じた化学療法を行い,長期生存が得られている.
症例は50歳男性.腹部CT検査で膵腫瘤を認めたが,発熱・著明な白血球増加をともない通常型膵癌として非典型的であったため生検を施行し,膵退形成癌と診断した.GEM+S-1併用療法を開始し,GEM投与後には一時的に症状は改善したが病状の進行は速く,第123病日に死亡した.血清G-CSFが高値で,免疫染色ではG-CSF陽性細胞を高率に認めた.極めてまれなG-CSF産生膵退形成癌と診断したため報告する.
65歳女性.ペプシノゲン(PG)II高値で胃癌リスク検診D群となった.右上腹部には腫瘤を自覚していた.内視鏡上,胃粘膜に炎症や萎縮はなく,プロトンポンプインヒビター内服歴や腎機能障害もなかった.画像検査で膵頭部に80mm大の腫瘍を認め,外科的に切除したところ胃型の膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)の診断となり,術後に血清PG IIが低下した.IPMNがPG IIを産生したと考えられた.
症例は78歳男性.発熱と褐色尿を主訴に受診した.下部胆管狭窄による閉塞性胆管炎と診断し,同部位からのERCP下生検で腺扁平上皮癌を認めた.減黄後に外科的切除を施行し,病理組織学的に下部胆管原発腺扁平上皮癌と診断した.塩酸ゲムシタビンによる術後補助化学療法を行い,現在術後46カ月無再発生存中である.胆管原発の腺扁平上皮癌はまれであり,術前診断が可能であった本症例は貴重な1例と考えられた.