肝硬変,肝細胞癌の原因となるB型肝炎ウイルス,C型肝炎ウイルスの治療は近年格段に改善し,C型では100%に近い症例でウイルス排除が可能となった.しかし,ウイルス排除後の肝細胞癌の発症はある程度の頻度で認められるため,慎重な経過観察が必要である.また,ウイルス排除にともなう肝細胞癌の急速な進展,B型肝炎ウイルスの活性化にも注意が必要である.一方B型肝炎は核酸アナログの投与によりウイルス増殖の抑制,病態の進展の抑制は可能となった.しかし,肝細胞癌の発症はなくなるわけではなく,この点にも注意が必要である.最近非B非Cの肝細胞癌が急速に増加してきており,その原因となる自己免疫性肝炎,脂肪性肝炎,アルコール性肝障害などが新たな課題となっている.
直接作用型抗ウイルス剤(DAA)により,C型肝炎の治療対象が広がり有効性も向上した.C型肝炎ウイルス感染による肝外症状についても,ウイルス排除により改善するエビデンスが積み重なりつつある.C型肝炎ウイルス感染の制御は可能となりつつあるが,肝疾患としての病態はウイルス排除後にすべてが解消するわけではなく,臨床的問題点が残る.肝硬変における肝線維化や門脈圧亢進症には可逆性があることが示される一方で,個々の症例においては肝線維化の増悪,門脈圧亢進症の出現や増悪,非代償性肝硬変への移行がみられることも事実である.極めて発癌リスクが高い症例が治療対象となるため,ウイルス排除後の肝発癌や再発も高率である.ウイルス排除後においても肝疾患としての病態を念頭においた診療が必要になる.
B型肝炎ワクチンの定期接種化は,母子垂直感染対策だけでは水平感染のコントロールができなくなったことが主因である.定期接種化により今後日本のB型肝炎の新規発生は激減すると考えられるが,定期接種の対象とならない児や青少年に対するキャッチアップを行う必要がある.今後解決すべき問題としてエスケープ変異,ワクチン無効例への対策,ブースター接種の検討などが挙げられる.
自己免疫性肝疾患として自己免疫性肝炎(AIH),原発性胆汁性胆管炎(PBC),原発性硬化性胆管炎(PSC)が挙げられる.いずれもその病態に自己免疫機序が関わっており,性別・年齢を問わず,肝細胞障害の患者を診た時にはAIHを,また慢性胆汁うっ滞患者ではPBC・PSCを常に念頭に置くべきである.AIHに対しては副腎皮質ステロイド薬が,またPBCに対してはウルソデオキシコール酸が著効するが,治療抵抗例に対する第二選択薬がAIH・PBCともに確立されておらず,今後エビデンスの集積および保険適用の取得が必要である.PSCでは有効性が検証された薬剤が存在せず,新規治療薬の開発が急務である.
アルコール性肝障害(ALD)の研究は生命医科学の進歩と同期して発展してきた.約半世紀前,MEOS(microsomal ethanol oxidizing system),カタラーゼ系などアルコール代謝経路が解明され,それらの病態への寄与について知見の拡大をもたらした.またLieberらによりアルコールの肝毒性が証明されたことを契機に,ALDの研究は急速に発展し,消化管・門脈・肝臓機能軸を中心とした病態連繋の重要性が明らかになってきた.アルコール肝臓学は時代の最先端の技術と概念を取り込んで発展し,新しいパラダイムの萌芽を育み,次世代への進化を涵養する「最先端実験室」の役割を果たしてきたといえる.この輝かしい歴史に学び,その成果をさらに展開していくことが望まれる.
当院で経験した好酸球性胃腸炎3例と症例報告の90例の性別,年齢,アレルギー歴,末梢血好酸球,腹水,内視鏡所見,病理組織所見,診断スコア,ステロイド使用について,後方視的に検討した.男女比40:53と女性がやや多く,年齢の中央値は50歳であった.78.5%が末梢血好酸球増多を呈した.アレルギー疾患の有病率が31.2%,腹水の出現率が34.4%であった.内視鏡所見の陽性率が83.9%と,生検陽性率が92.5%であった.全体のステロイド使用率が77.4%であった.Score<5と年齢<33歳が同時に満たされる場合は,ステロイド使用率が約30%で,ステロイド使用を回避できる可能性が高い.
74歳男性.前立腺癌T2bN1M1 Stage D2に対して内分泌療法中,腹部CT検査で多発肝腫瘍が出現した.血液検査ではPSAに著変なく,CEA高値を認めた.原因精査の上部消化管内視鏡検査では,胃体中部小弯にびらんをともなう粘膜下腫瘍様の隆起性病変を認めた.生検の免疫組織学的検討では,前立腺癌の胃転移に矛盾しない所見であった.前立腺癌の進行期ではまれに胃転移を認め,CEA高値を認めることもある.
症例は52歳男性.総胆管結石にともなう急性胆管炎に対して内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)関連処置を施行し,門脈血栓症合併に対してエドキサバン内服を開始した.1カ月後,黒色便を主訴に来院,造影CTにて肝動脈A7に仮性動脈瘤を認め,肝仮性動脈瘤の胆管穿破による胆道出血と診断し,緊急で経カテーテル的動脈塞栓術(TAE)を施行した.急性胆管炎後に肝仮性動脈瘤が出現し得ることを念頭におく必要がある.
70歳代男性.微熱,体重減少,肝機能異常のため紹介受診した.各種ウイルスマーカー,自己抗体は陰性,画像検査で有意な所見を認めなかった.肝生検にて,Ziehl-Neelsen染色で抗酸性を示す菌体をともなう非乾酪性類上皮肉芽腫を認め,血清Mycobacterium avium complex(MAC)抗体が陽性であったことから,肝MAC症と診断した.肺MAC症に準じた治療を開始し,発熱,肝機能の改善を認めた.非免疫不全患者の肝MAC症の1例を経験したので報告する.
67歳男性.慢性膵炎の経過観察中に腹痛,黒色便を主訴に受診.主膵管内の脾動脈瘤と十二指腸乳頭からの出血を認め,脾動脈瘤破裂によるhemosuccus pancreaticusと診断し,interventional radiology(IVR)にて止血した.低肺機能のため根治手術は行わず経過観察したが,7カ月後に再発.再度IVRにて止血し得た.IVRは低侵襲であり,状態不良の再発例には再施行も有用と考える.