本邦では根治切除可能な食道癌に対する標準治療は,FP療法による術前補助化学療法と,それに引き続く食道切除である.一方,国外では術前後に化学療法を行う周術期化学療法(MAGIC,FLOT)や,術前補助化学放射線療法(CROSS)によって治療成績が向上している.国内外において補助療法を比較する第III相試験(JCOG1109,ESOPEC,Neo-AEGIS)が進行中である.また,根治切除不能な局所進行癌に対しても,根治的化学放射線療法と導入DCF療法後のconversion surgeryを比較する第III相試験(JCOG1510)で集学的治療の有用性が検証されている.
本邦における切除可能な食道癌(UICC-TNM分類第7版におけるII/III期(T4除く))は,手術単独療法から現在の標準治療である「5-Fluorouracil(5-FU)およびCisplatin(CDDP)を用いた術前化学療法(CF療法)後の手術」の確立により,有意に全生存期間の延長および5年生存割合の改善を認めてきた.しかし,依然食道癌は予後不良な癌腫であり,さらなる治療の開発が望まれている.そのような中,本邦にて胃癌や頭頸部癌に使用されてきたDocetaxel(DTX)を上乗せした術前DCF療法や,欧米での標準治療である術前化学放射線療法の有効性がわが国の食道癌に対して検証されている.本稿では切除可能な食道癌に対する周術期治療として,本邦および欧米での治療についてのエビデンスを紹介し,さらに現在行われている臨床試験の最前線を含めて概説する.
本邦では食道癌患者の半数以上が外科手術を受けており,食道癌治療の中心的な役割を果たしている.しかし,食道癌の手術は他の消化器癌手術に比べ侵襲が大きく,術後合併症の発症頻度が高いため,手術成績の施設間格差が大きいと報告されている.最近ではリンパ節郭清範囲やアプローチ法(内視鏡手術),切除後の再建方法など,治療成績および安全性の向上に向けての試みがなされてきているが,定型化するに足りるエビデンスが少ないのが現状である.今後,治療成績の向上および均てん化に向けてエビデンスを発信していくことが重要である.
食道癌に対する根治的化学放射線療法は,切除不能例に対しては標準治療として,切除可能例に対しては食道温存を図ることができる治療選択肢として行われている.根治的化学放射線療法の治療成績は,遺残・再発に対する救済治療も含めた集学的治療によるもので,治療成績向上のために,救済治療の安全な導入を含めた治療開発が行われている.また,T4などの局所進行例では導入化学療法によるconversion surgeryを含めた治療開発も行われている.根治的化学放射線療法の現状について臨床試験の治療成績をまとめ,新規抗癌剤,新規放射線治療技術や放射線治療機器も含めた,成績向上を目指した治療開発の状況について解説した.
Enhanced recovery after surgery(ERAS)プロトコールの本質は,エビデンスの検証が行われかつ推奨されている「周術期に特化して作成されたクリニカルパスのアウトライン」である.ERASプロトコールを実践するためには,チーム医療を行うことが必要不可欠である.当院では,ERASプロトコールの多くを取り入れた周術期管理センター(Perioperative management center;PERiO)が周術期チーム医療を行っている.多職種のスタッフが組織横断的に情報を共有しながら業務を行うことにより,より一層安全・安心な周術期管理の環境を提供することを実現している.
70歳男性.黒色便・貧血精査の小腸カプセル内視鏡検査で回腸に輪状潰瘍を認め,原因としてnon-steroidal anti-inflammatory drugs(NSAIDs)貼付剤が疑われた.貼付を中止し小腸粘膜保護剤を開始後,潰瘍治癒にともなう瘢痕狭窄によるイレウスを発症し外科切除を要した.特異的な病理所見は認めず,臨床的にNSAIDs起因性小腸潰瘍と診断した.貼付剤でも消化管粘膜傷害を生じうる.
症例は66歳男性.進行胃癌に対してニボルマブ療法を開始後14日目に発熱と呼吸困難を自覚し,胸部CT検査で浸潤影主体の多発病変と周囲のすりガラス影を認めた.各種検査および経過から,ニボルマブによる器質化類似パターンの間質性肺炎と診断した.ステロイドパルス療法で軽快したが,ステロイド減量中に2度肺炎が増悪した.胃癌にニボルマブ投与後早期から発症した重篤な間質性肺炎はまれであり,報告した.
30歳,男性.急性膵炎の診断で前医に入院し,第2病日に低血糖が出現したが,第4病日より高血糖となりCTで膵全体にまだらな低吸収域が出現した.第8病日に当院に転院となり,ケトアシドーシス発症を契機に劇症1型糖尿病と診断されたが,その際のCTでは低吸収域は消失していた.膵生検では膵島は認められなかった.急性膵炎と低血糖が先行し,膵CT所見の経時的変化を観察しえた非常にまれな劇症1型糖尿病の1例を経験した.
64歳男性.CTで膵体尾部腫脹,IgG4高値,ERPで膵管狭細像を認めた.病理所見を加え自己免疫性膵炎の診断となった.頭部MRIで下垂体茎腫大,負荷試験で下垂体前葉機能低下を認めたが,ステロイド治療により改善傾向を認めた.IgG4関連下垂体炎はまれで,症状も非特異的であり疾患を想起しづらいが,下垂体機能低下が潜在している可能性がある.画像検査で下垂体炎が疑われた際は機能評価も行うことが重要である.
70歳代男性.びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の既往あり,11年間無治療で寛解維持していた.今回direct-acting antiviralsによるC型肝炎治療を行い,SVRを達成.投与終了直後にsIL-2R上昇,腹腔内リンパ節腫脹を認めた.生検でリンパ腫の再発と診断し,急速な進行を認め死亡に至った.Direct-acting antivirals治療後のリンパ腫再発を考える上で重要な症例と考える.