急性膵炎診療ガイドライン2021は,2016年の全国調査結果から,①致命率の改善が見られない症候群の存在と,②ガイドラインの推奨が実践されていない治療法があることがわかり,それらを明示し対応策を記載した.致命率が高い症例に絞り対応としてPancreatitis Bundlesの実施と遵守が効果的であることを強調した.経腸栄養の必要性,予防的抗菌薬投与の不要を示した.ガイドラインが広く普及することとともに理解が深まることを祈念して,世界で初めての試みである“やさしい解説”を取り入れ,さらに,QRコードを参考資料の理解を得るためにまんべんなく用いた.担当医師のみならず,医療従事者,患者・家族にも容易に理解できるガイドライン作成を行った.
本邦初のEBMの手法を用いて作成され,2003年に刊行された急性膵炎診療ガイドラインは,その後も常に最新の手法に則って作成されてきた.第5版は全国調査で明らかになった知見を基に2021年に改訂された.早期経腸栄養の促進,予防的抗菌薬の投与不要が強調され,ステップアップ・アプローチの内容がより具体的に記述されたPancreatitis bundlesも改訂され,モバイルアプリもup dateされた.参考資料はQRコードで閲覧できるようにし,冊子を薄くした.特筆すべき点は,「やさしい解説」を新設し,コメディカルや患者・家族にも理解していただけるようにしたことである.
急性膵炎は発症から数日で病態が急激に変化することがあること,重症膵炎では急性期以降も合併症の把握,治療介入が必要であることから常に変化する病態を正確に把握するために画像診断によってもたらされる情報が重要である.特にその主力をなすのがダイナミックCTであり,時間分解能,空間分解能の高さや腸管ガスなどによる死角がないといったアドバンテージを有し,膵臓の形態学的な評価に加え,壊死の有無や周囲への炎症波及の程度,範囲,血管系の合併症などの把握に威力を発揮する.急性膵炎診療においてはダイナミックCT所見を中心に急性膵炎で生じ得る膵実質の変化,局所合併症(ANC,WONなど)の画像所見を熟知しておくことが重要である.
ガイドラインが普及するにつれ,急性膵炎の診療成績は向上した.しかし,致命率の高い重症例も一定数ある.臨床の現場では,慣習に囚われて,ガイドラインで実践すべきとされたことを行わなかったり,逆に行ってはいけないことを漫然と行ったりする事例がいまだに多い.発症48時間以内の早期経腸栄養が開始されなかったり,不要な予防的抗菌薬が高頻度に使用されたりしている.診療で行うべき検査や治療を,Pancreatitis Bundles 2021として作成した.Pancreatitis Bundles 2010や2015の項目を遵守するほど予後が改善されるとのエビデンスがあり,今後の急性膵炎診療に是非臨床指標として用いて欲しい.
膵炎後の膵局所合併症に対して,感染合併例や有症状例は侵襲的治療を要する.まずはドレナージを行い,効果が不十分であればさらに侵襲が大きい治療を追加していくstep-up approachが推奨されている.中でも,超音波内視鏡下ドレナージと内視鏡的ネクロセクトミーによる経消化管的治療を主軸とした内視鏡的step-up approachの良好な治療成績が報告されている.専用大口径ステントが本邦でも保険収載され,さらなる治療成績の向上が期待されている.しかし,骨盤腔に及ぶような病変に対しては,内視鏡治療単独では限界もあり,経皮的治療や外科的治療の併用を検討すべきである.
内視鏡的逆行性膵胆管造影(ERCP)は,肝胆膵疾患の診断・治療に必須の内視鏡処置として日常臨床で広く行われている.その一方でERCP処置に関連した膵炎(ERCP後膵炎)は頻度が高く,重症化リスクのある深刻な偶発症である.臨床的に重要な課題であり,多くの臨床研究が行われ,有効な予防法として直腸内NSAIDs投与,予防的膵管ステント挿入,急速輸液療法などが実臨床で使用されている.本稿を通じてERCP後膵炎の発症を可能な限り予防し,迅速な診断と対処,初期治療を行うシステム作りについて言及したい.
魚骨誤飲による十二指腸穿孔から後腹膜膿瘍を形成し,ドレナージ術を要した1例を経験した.症例は心窩部痛,腹部膨満感にて入院となった60歳代女性.CTで十二指腸壁外の遊離ガス像と壁を貫く軽度高吸収の線状構造物が描出された.魚骨による十二指腸穿孔を疑い内視鏡検査を施行し下行部に刺入した魚骨を鉗子で抜去したが,後腹膜膿瘍を合併した.抗菌薬治療に反応せず開腹膿瘍ドレナージ術を施行し,軽快退院となった.
症例は60歳台女性で,血清CA19-9高値の精査にて左卵巣腫大をともなう食道胃接合部癌に直腸癌の重複を指摘された.治療方針策定にKrukenberg腫瘍の鑑別が必要なため,まず両側付属器切除術を行い,卵巣腫瘍は若年性顆粒膜細胞腫の診断であった.卵巣転移が否定され,食道胃接合部癌および直腸癌の根治切除を順次施行した.食道胃接合部癌は免疫染色でCA19-9陽性で,切除後に血清CA19-9値が著明に低下した.
61歳男性.アルコール性肝硬変,門脈血栓症,肝細胞癌,慢性膵炎で当科紹介.門脈血栓症に対する加療目的で入院.入院時より血清アミラーゼ高値で,徐々に上昇したが腹痛はみられなかった.ダナパロイドの投与を開始し,門脈血栓は改善傾向にあったが,足関節痛,膝関節痛が出現した.骨シンチグラフィー,足関節MRIで多発性骨壊死を認めた.慢性膵炎増悪に続発し,保存的治療で軽快した多発性骨壊死の1例を経験したので報告する.
症例は78歳男性.閉塞性黄疸のため当科受診,膵頭部癌の診断で化学放射線療法(50.4Gy+S-1)を施行.その後総胆管内にSEMSを挿入し外来経過観察としたが,挿入46日目に腹痛のため当院受診.CT,血管造影により上膵十二指腸動脈仮性動脈瘤破裂と診断し,コイル塞栓術施行.翌日肺塞栓症のため永眠されたため,病理解剖を施行した.その結果,放射線治療によるradiation vasculopathyにより仮性動脈瘤が発症し,仮性瘤がSEMSに接したことで破裂したと思われた.
症例は92歳女性.総胆管結石性胆管炎,胆石性膵炎に対して経皮経肝胆囊ドレナージ(PTGBD)が施行された.第3病日,せん妄状態の患者によりPTGBDチューブが抜去され,その後心肺停止となり蘇生術を行った.画像検査にて右肝動脈からの腹腔内出血を認め,経カテーテル的動脈塞栓術を行ったが,術後に死亡した.PTGBDチューブの自己抜去後には致命的な出血性偶発症を生じ得るため,注意を要する.