膵囊胞性病変のマネージメントでは,外科的治療の対象かどうかの診断が必須である.問診,診療情報,病変部位と数,形態,内部構造,血流,膵管との交通などを評価する.US,CT,MRIなどで全体を把握し,内部評価にはEUSを用いる.血流評価には造影US,EUS,CT,MRIが,膵管との交通はMRCP,ERCP,EUSが有用であり,必要に応じてERCP,膵液細胞診を考慮する.MCN,NEN,SPN,悪性を疑うIPMN,貯留囊胞をともなう膵癌,一部のSCNなどが外科的治療の対象であり,臨床像および特徴的な画像所見を理解する.経過観察となるIPMNでは,IPMN自体の進展と併存する通常型膵癌の発生に注意する.
難治癌である膵癌の前浸潤癌病変あるいはリスク病変として位置づけられる2つの囊胞性病変,膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)および膵粘液性囊胞腫瘍(MCN)に関する病理診断にあたって,議論となりやすい事項を述べた.IPMNの病態は極めて多彩であり,術前・術後診断において,症例毎にどのような外科病理や組織・細胞診が求められているかを把握する必要がある.必要に応じてKRAS変異などの分子病理学的な検索を行うことは有意義である.MCNにおいても,分枝膵管型IPMN同様,経過観察可能な病態の解析が期待される.現在でもなお,切り出し時のマクロ所見の検索が,IPMNやMCNの病態の理解に重要である.
CT,MRIによる膵囊胞性病変の鑑別について,実践的診断プロセスを中心に概説する.重要な画像診断プロセスは,1)T2WI,MRCP,DWIによる囊胞内容液の性状診断,2)囊胞の形態的特徴把握である.1)では,膵管内乳頭粘液性腫瘍と粘液性囊胞性腫瘍はDWIでほぼ鑑別が可能であり,囊胞内固形成分の有無が推定できることから,リンパ上皮囊胞や膵内副脾に発生する類表皮囊胞の診断に役立つ.2)では,漿液性囊胞性腫瘍やリンパ上皮囊胞に特徴的な形態・囊胞辺縁性状が見られる.囊胞変性の強い膵悪性腫瘍は,時に良性囊胞性病変と鑑別が必要であるが,特に予後良好な破骨細胞様巨細胞腫瘍は,念頭に置くべきである.
膵囊胞性腫瘍についての新たな知見やガイドラインが報告されている.特に,膵管内乳頭粘液性腫瘍(intraductal papillary mucinous neoplasm;IPMN)においては,診断における基礎的事項と臨床的対応,さらに2つの膵発癌リスクの問題があり注目される.膵囊胞性病変が無症状で偶発的に発見される機会は増加しており,複数の疾患からなる膵囊胞性腫瘍にはそれぞれに形態の多様性がみられることから,腫瘍性病変の診断と診療方針の決定は,内視鏡診断によって詳細に行うことが望まれる.
2006年に国際膵臓学会からIPMN/MCN国際診療ガイドラインが刊行され,2012年と2017年の2回の改訂を経て,囊胞性膵腫瘍の切除基準は保存的な方向へと転換した.また近年では,囊胞性膵腫瘍に対する機能温存手術や腹腔鏡下手術などの低侵襲手術も積極的に行われるようになっている.非切除例・切除例ともに経過観察は長期間に及ぶことが多く,今後は患者のリスク・ベネフィットを十分に考慮した効率的な経過観察法の確立が必要である.本稿では国際膵臓学会ガイドラインに基づいた囊胞性膵腫瘍の切除適応とその変遷,外科的治療法,切除例・非切除例の経過観察法について,主要な海外のガイドラインとの比較も含めて概説する.
計6施設より14症例(男性7例,女性7例)のPeutz-Jeghers(PJ)症候群症例の情報を収集し,悪性腫瘍の合併率およびその特徴を解析した.平均観察期間は10.1年(0~34年)であり,1例は原発不明癌で死亡したが,残りの13例は生存中であった.悪性腫瘍の合併は6例(42.9%)で認めた.内訳は子宮頸癌3例,乳癌1例,十二指腸癌1例,横行結腸癌1例,原発不明癌1例であり,1例は子宮頸癌で29歳時に手術されたのち,35歳時に乳癌と診断された.PJ症候群では,消化管のみならず子宮や乳房など他臓器にも癌が発生することを念頭に置き,計画的な全身諸臓器のサーベイランスを行う必要があると考えられた.
73歳男性.労作時呼吸困難,呑酸を主訴に,近医で貧血を指摘され紹介受診.血液検査で鉄欠乏性貧血とプロトロンビン時間延長を認め,さらにCTにて胃切除後の輸入脚に著明な拡張を認めた.精査の結果,輸入脚閉塞症とそれに起因するビタミンK欠乏にともなう凝固異常と診断し,ビタミンK補充と輸入脚閉塞症に対する手術が行われた.輸入脚閉塞症にはさまざまな栄養吸収障害が生じ,ビタミンK欠乏による凝固異常も考慮する必要がある.
77歳男性.11年前十二指腸消化管間質腫瘍(gastrointestinal stromal tumor;GIST)の既往.左腎癌術後24カ月に肝S6に13mm大の早期濃染をともなう腫瘍を指摘.腫瘍生検ではGISTであった.他に病変は認めず,原発巣切除から11年を経て再発した十二指腸GISTの肝転移と診断した.GISTは術後10年以上経過し再発することもあり,長期間の経過観察が必要と考えられた.
退形成性膵管癌はまれな膵癌の一亜型であり,予後は極めて不良とされる.その診断は手術標本によることが多く,EUS-FNAで診断した報告は少ない.EUS-FNAで退形成性膵管癌と診断し得た6症例を検討した.退形成性膵管癌に特徴的な画像所見(中心壊死,辺縁造影効果,囊胞所見,内部石灰化)は高率に認められた.画像所見から本疾患が鑑別に挙がる場合,病理医と連携し正確な診断に努めるべきと考えられた.