GERDは非びらん性逆流症(NERD),軽症逆流性食道炎,重症逆流性食道炎の3つに分けられ,サブタイプごとに治療目標や治療法は異なる.1990年代後半より本邦でのGERD有病率は増加したが,最近は緩やかな増加に留まっていることは,日本人の酸分泌能やH. pylori感染率が影響している.病的な酸逆流と食道知覚過敏の程度からNERDはheterogeneousな病態を含むこと,一部の薬剤抵抗性GERDにはsupragastric belchingが関与することが明らかとなった.食道外症状や他疾患とGERDとの関連は,病態を含めて重要な課題である.GERD診療におけるup-to-dateを総説する.
胃食道逆流症(GERD)診断の3つの柱として症状評価,上部消化管内視鏡検査を中心とした形態学的評価,病態評価(高解像度食道内圧測定,24時間pHインピーダンスモニタリング)が挙げられる.今後,治療抵抗例の診療などにおいて多角的なGERD診断の必要性が高まってくることが予想される.本稿では2021年に改訂された胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン2021(改訂第3版)に沿う形で,GERD診断における最新の知見について紹介する.
GERDの内科治療は,生活習慣の改善・変更とともに薬物治療を行うことが重要である.その治療目標は,症状治癒と内視鏡的治癒であるが,内視鏡的重症度によりその比重が異なり,選択する酸分泌抑制薬も異なる.なお,いずれの型のGERDにおいても維持療法においては必要最小用量の酸分泌抑制による治療が提案されている.近年,内服薬の減量あるいは中止にともないGERDが再燃する場合や,内服治療を長期にわたり継続しなければならない場合の選択肢の1つに内視鏡治療が挙げられるようになった.GERDの病態は多岐にわたるため,その内科治療においては,個々の患者の病態に沿った合理的アプローチを選択することが重要である.
欧米では胃食道逆流症(gastro-esophageal reflux disease;GERD)の発生頻度が高く,また近年腹腔鏡下逆流防止手術の導入により,GERDの外科治療は消化器外科領域で頻繁に行われる手術の1つである.本邦では軽症のGERDの頻度が多く,薬物治療も普及しており,外科治療の適応となる症例は少ない.しかし内科的治療に失敗した症例,狭窄や高度食道炎を生じた症例,巨大な食道裂孔ヘルニアを有する例,喘息などの非定型的な症状を有する例などが,外科手術の対象となる.逆流防止手術は,噴門形成術を全周性に行うNissen噴門形成術と非全周性(270度)に行うToupet噴門形成術が代表的である.効果については同等で,術後早期の嚥下障害はToupet手術の方が少ないため,本邦ではToupet手術が勧められている.
胃食道逆流症(gastroesophageal reflux disease;GERD)は,胃内容物が食道へ逆流することによって食道粘膜障害や胸やけ,呑酸などの症状が誘発される疾患である.一方,好酸球性食道炎(eosinophilic esophagitis;EoE)は,食物などがアレルゲンとなって好酸球が食道壁へ浸潤することで炎症が誘発される疾患であり,近年本邦で患者数が増加している.GERDとEoEは,臨床症状のみならず胃酸の関与という病態的な類似点もあり,GERDと鑑別すべき重要な疾患の1つである.EoEは半数以上でプロトンポンプ阻害剤が有効であり,EoEの確定診断には内視鏡検査と生検が必要である.本稿では,GERDとの鑑別診断という点を踏まえ,EoEの病態や治療も含めてEoE診療の現状を解説した.
76歳女性,2型糖尿病治療中に下痢を認めClostridium difficile 感染症(CDI)と診断された.メトロニダゾール,バンコマイシン塩酸塩,フィダキソマイシンで加療したが改善せず,メトホルミン塩酸塩の併用を開始した.2日後に下痢は改善,8日後の大腸鏡検査で偽膜の消失を確認し,その後も約2年間再発は認めていない.メトホルミン塩酸塩は2型糖尿病合併再発性CDI治療に有用と考えられた.
77歳男性.肝硬変の入院中に腎機能が悪化した.カリウム上昇を認め,ポリスチレンスルホン酸カルシウム(calcium polystyrene sulfonate;CPS)投与を開始したが,19日後に肝不全の進行を認め死亡した.剖検でCPSによる消化管穿孔性腹膜炎と診断された.CPSによる消化管穿孔は,薬剤による直接的な粘膜傷害と推測されており,上部消化管に穿孔をきたすのは極めてまれであり,報告する.
症例は75歳男性.早期胃癌に対するESD施行後1週間でESD後潰瘍から出血して血圧低下をきたしクリッピング止血を行ったが,急性胆囊炎・胆管炎を併発し,その後に硬化性胆管炎と考えられる病態を生じた.内視鏡的な狭窄拡張術や抗菌薬の投与を行ったが肝不全が進行し,15カ月後に永眠された.胆管虚血・胆管炎により生じたSSC-CIPに類似した病態と考えられた.
症例は48歳男性.黒色便,吐血にて当院搬送となった.内視鏡治療を試みたがEVL(endoscopic variceal ligation)がかからず緊急でPTO(percutaneous transhepatic obliteration)を行い,止血をえられた.食道静脈瘤の治療歴のない食道静脈瘤破裂で内視鏡的止血困難症例に対しPTOにて治療しえた貴重な症例と考え,ここに報告する.
ステロイド内服中の60歳代女性が発熱,肝機能異常で受診した.脾臓に腫瘤を認めたが膿瘍は否定的で,熱源不明の感染症として抗菌薬治療を開始した.肝機能は多少改善したが解熱せず,肝生検では類上皮細胞肉芽腫を認めた.問診と身体診察により猫ひっかき病を疑い,血清の間接蛍光抗体法で診断に至った.ミノサイクリン塩酸塩の投与中に解熱した.脾腫瘤をともなう不明熱では,肝臓脾臓型猫ひっかき病も鑑別に挙げるべきである.