消化管に多数のポリープ様病変を認める遺伝性消化管ポリポーシスは,原因遺伝子の生殖細胞系列遺伝子によって生じる.臨床的に類似した病態であっても遺伝的異質性があり,分子分類が重要になってきた.良性腫瘍として発症するが,大腸癌や他の消化管癌のハイリスク状態にあり,サーベイランスが重要である.家族性あるいは遺伝性消化管ポリポーシスは,腺腫性ポリポーシスと過誤腫性ポリポーシスに分類される.前者の原因遺伝子はAPC,MUTYH,NTHL1,MSH3,POLE,POLD1,ミスマッチ修復遺伝子が知られている.後者はPeutz-Jeghers症候群,若年性ポリポーシス,PTEN過誤腫症候群(Cowden病)が含まれ,それぞれの原因遺伝子はSTK11,SMAD4およびBMPR1A, PTENである.これらの原因遺伝子の異常が特徴的な病態や癌化と関連しており,特徴を理解して対応することが望まれる.
家族性大腸腺腫症(familial adenomatous polyposis;FAP)は,放置しておくと100%大腸癌を発症する,大腸癌超ハイリスク疾患である.ただし,実際に診療している施設は限定的で,実際の対応に苦慮する臨床医も多い.大腸癌研究会より「遺伝性大腸癌診療ガイドライン」が2012年に刊行され,2016年秋に改訂された.海外および日本のエビデンスが整理され,日常診療で大変役立つ情報源が整理・提示された.本稿ではガイドラインでのFAPに関する記載に関しての注意点,多発腺腫性ポリープの取り扱い,および実際の症例を供覧する.
Peutz-Jeghers症候群,若年性ポリポーシス症候群,PTEN過誤腫症候群は,いずれも過誤腫性ポリポーシスをきたす常染色体優性遺伝の疾患である.発症頻度はそれほど高くない疾患であるが,ポリープ増大に対する治療と悪性腫瘍の高リスク群としてのサーベイランスの両方を適切に行っていく必要がある疾患であり,診断や治療の遅れにつながることのないよう,各疾患の特徴を理解しておく必要がある.本稿では,各疾患の臨床的特徴,原因遺伝子,ポリポーシスに対する治療,発癌リスクとサーベイランス方法について解説する.
消化管ポリポーシスの分類は,病理組織学的に,腺腫と過誤腫に大別されることが多い.ここでは,腺腫にも過誤腫にも分類不能な疾患として,腺腫・過誤腫が同時に発生する遺伝性混合ポリポーシス症候群,過誤腫に類似するクロンカイト・カナダ症候群,鋸歯状ポリポーシス症候群,炎症性ポリポーシスの1つcap polyposis,の4疾患をとり上げる.Cap polyposis以外は,大腸癌を高率に合併するため,注意深い内視鏡サーベイランス,再発・癌の早期発見のためのフォローアップが大切となる.
心房細動,心房粗動に対するカテーテルアブレーション(RFCA)後に発症した急性胃拡張症例2例を経験した.腹痛,腹部膨満感,嘔吐などで発症し,腹部CT検査で著明な胃拡張を認めた.内視鏡,消化管造影検査では胃蠕動の消失が認められた.いずれも蠕動促進薬により次第に蠕動障害は回復した.RFCAに続発する急性胃拡張はまれであるが,RFCAの施行数は近年増加傾向であり,今後このような症例が増えると予想される.
19歳女性.18歳時にTurner症候群と診断されホルモン補充療法が開始された.13カ月後に下肢の結節性紅斑が出現し,プレドニゾロンを投与されたが再燃を繰り返した.15カ月後から腹痛と下痢,発熱が出現し当科に紹介された.肛門周囲膿瘍をともなう痔瘻と全大腸に多発する縦走潰瘍を認め,生検でも肉芽腫が検出され大腸型Crohn病と診断した.アダリムマブにて腸管・皮膚病変は治癒し,現在まで寛解を維持している.
70代男性.EGDにて胃体部に黄色調小隆起を認め,生検にて胃型腺腫と診断された.ESDにて切除され,背景粘膜は完全型腸上皮化生で,腫瘍はMUC5AC,MUC6,pepsinogen A,Na+/K+ ATPase陽性,MUC2,CD10陰性であった.従来胃型腺腫は幽門腺へ分化するとされてきたが,本症例は胃底腺への高度な分化をともなった腺腫であり,胃底腺型腺腫という新しい概念を提唱したい.
症例は84歳,男性.脳塞栓症でNOACの内服開始1カ月後より下痢を認め当科を受診した.対症療法を行うも症状の改善を認めず,徐々に低カリウム血症が出現し入院した.下部消化管内視鏡で浮腫状粘膜と生検で大腸上皮直下にcollagen bandの沈着を認め,collagenous colitisと診断した.NOACの内服時期と一致するため原因薬剤と考え,ワルファリンに変更したところ,下痢は速やかに改善した.
IgG4関連硬化性胆管炎は血中IgG4値高値となるが,血中IgG4値正常であり肝生検で診断しえた自己免疫性膵炎をともなわない例を経験した.61歳男性が肝機能異常で受診した.血中IgG4値は正常だが肝門部を中心に肝内胆管,中部胆管まで胆管狭窄を認めた.肝生検ではIgG4陽性形質細胞浸潤があり診断基準を満たす組織像であった.血中IgG4値正常でも疑わしい症例では肝生検を考慮すべきである.
53歳,女性.腎盂腎炎で入院中の腹部CTで脾腫瘤を認めた.腫瘤はMRI T2強調画像で低信号を呈し,漸増性の造影効果を認めた.半年間の経過観察で腫瘤は増大し,悪性が否定できず,腹腔鏡下脾部分切除を施行した.病理組織学的に3種類の血管成分が混在した血管腫様結節を認め,SANTと診断した.本症例の画像所見と組織像の対比と,本邦報告例の検討からSANTの画像診断では造影MRIが最も有用であると考えられた.